31番目

《差別化という怖さ》

 流通業界では差別化という言葉がよく使われる。 書店における差別化といったいなにを指すのだろうか。

 他店では置いていない本を置くことが差別化ではない。 例えば、 専門書を置く書店が少なくなったから、 専門書を揃えるというようなことは、差別化ではない。 パソコン本の在庫が他店の倍あるというようなこともそうである。
 書店業界においては、 他業界に比べ差別化しにくいのが現状である。 独自のルートで仕入れられる商品がそうあるわけではなく、 300坪を超える店はそうたやすく作れるわけでもない。 つまり決められた商品と小規模な店舗しかできない環境のなかで決定的な差別化を行うのは極めて難しい。

 郊外の比較的スペースがある書店で、 専門書の品揃えを他店との差別化として展開しているが、 なかなか成功しない。 なぜか。 その店にニーズが存在しないからである。 専門書の場合、中途半端な品揃えでは読者はわざわざ書店に足を運ばない。 他店と違うから客は来るはずだということはあり得ないのだ。 差別化したと思っているのは書店だけである。 読者は必要もない本が並んでいる書店としか見えないのだ。

 書店における差別化が困難であることは以上の通りである。 自店のニーズがはっきりと見えた段階で、 何を揃えたら売上げが伸びるのかを判断し、 他店とは違う品揃えを考えること、 これは差別化ではなく、 個性化という。 それはお店の商品一つ一つに、 その店としての個性があるということである。
 差別化と個性化を混同して失敗する書店が多くある。くれぐれもご注意を。

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