55番目

《ジャンル分けは商売の道具ではない》

 一般的に専門書は、 販売効率が悪いと言われている。 何故かというと、 専門家の満足を得るためには中途半端な品揃えではダメだからだ。 それなりの坪数が必要である。 そうすると坪数にみあった売上が必要になる。 坪単価をいくらにするかは場所によって違うのでいちがいに言えないけれど、 少なくとも住宅街の書店で専門書を取り扱うと効率が悪いというのは想像出来る。 この例は、 専門書を自然科学、 理工学、 人文科学、 社会科学などという切り方をした場合の話である。
 「専門書とは」、 「一般書とは」、 という分け方はもう通用しないと思う。 専門、一般というジャンルを越えた売り方を考えることが、 読者に多くの本との出会いを与えることになるのだと思う。 専門家に読んでもらうための専門書の棚ではなく、 一般の人にはちょっと読めない本がたくさんあったとしても、 棚を見る楽しみがあるような棚が望ましい。 新潮社の 「複雑系」 という本が話題になった時、 専門書についていろいろと考えた書店人が多かったのではないだろうか。
 例えば、 安楽死についてわかりやすく書かれたものが一般書で、 専門家の書いたものが専門書であるというような切り口は読者に合わない。 棚の都合と、 専門書を発行する出版社というイメージで本を選別してはいないだろうか。 またこの逆もある。 一般書だから専門書のコーナーには入れない、 というようなこと。 一般書は平積み、 専門書は棚差しという固定観念をすてて専門書を活かす道、 一般書を拡販する道を考えてみる必要があるのではないだろうか。 ジャンル分というのは便宜的なものであり、 商売の道具ではない。 ジャンルを越えたところに商売としてのうま味があり、 読者の欲求があると思う。

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