56番目

《在庫はありますか》

 現在では、 書店店頭のコンピュータのキーボードを叩くと、 取次店の在庫状況や出版社の在庫状況が分かるシステムが確立されつつある。 リアルタイムではないにせよ、 とりあえず、 あるのかないのかが分かるだけでも書店の業務は進歩したと言える。 特に客注品については大いに役立っているように見える。 しかし、 ディスプレイ上に示される在庫というのは電子情報であり、 現物の在庫状況を示すものではないところに信用されぬ部分を残している。

 以前なら出版社に在庫確認をすると、 担当者が自社の在庫を目で確かめて 「ありますよ」 というような返事をしていた。 また取次店の担当者なら、 自社の倉庫へ出掛けて、ひょいと一冊棚から抜いて来たりしていた。 人間が人間の目で確かめていたのだ。 現在では出版社や取次店の在庫は、 営業担当者の目の届かない遠方にあり、 別の会社が管理していると言うのが現状である。 つまりディスプレイ上に表示される数字は 「あるべき」 在庫であって、 「ある」 在庫ではないのだ。 この事情があるかぎり、 店頭で1対1の販売となる客注受付業務で必要となる在庫の確認におけるディスプレイ上の数字は、 目安であって、 読者に必ず 「ある」 と答えられるものではない。 書店の受付業務は、 読者に 「ある」 と答えたものが実は 「品切れでした」 と答えられるものではないのだ。 書店の客注担当者が出版社に電話して 「在庫はありますか」 と念を押すのはこういうことなのである (取次のシステム開発者、 出版社の受付担当者は肝に命じるべし)。 お客を大切にすればするほど、 確実な手段で、 そして事故の時に対応できるようにしておかなければならない。

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