57番目

《専門書は効率の悪いジャンルか》

 一般に専門書というのは社会科学、 人文科学、 理工学書などのことをいうのだと思う。つまり読者層が限定された分野に対して出版されている出版物の事である。 読者が限定されているので出版部数も限られるから、 定価が高いし販売数も限られている。 よって小型の書店では経営効率が悪いので置かない。 大型の店では陳列スペースに余裕があり経営効率は悪いが、 読者のニーズに応えるという意味で置かれていることが多い。 でも専門書って本当に経営効率が悪いものなのだろうか。

 10年前まではパソコン本は専門書だった。 いまでも大型店にいくと理工学書のジャンルである。 でも現在では10坪程度の店でもパソコン本は置いてある。 つまりニーズの増大により効率のわるい専門書が効率のよい専門書に変わったのである。 専門と思われていたものが一般に変わったとも言える。 これは大規模に変化した例であるが、 専門が一般に変わる要素は限りなくあるといえる。 環境問題が顕著になりまたアウトドアライフが流行するにつれ、 自然環境に目を向ける読者が多くなった。 CD−ROMは専門分野を一挙に一般へと変化させ始めている。 教育、医療など我々をとりまく社会環境の悪化はそれらへと目を向ける人を多くした。 専門と思われる分野は一般化の方向をたどっている。 確かに専門家でなければ歯が立たないものはあるが。 文庫、 新書のジャンルでもずいぶんと専門的な内容のものが増えている。 こうした方向がある以上専門書が効率のわるいジャンルであるとは言い切れなくなりつつある。
 他店との差別化というだけで専門書を置くのではなく、 何が求められているかをを把握し、 読者に専門書を提供することは決して効率の悪い商売ではない。 なにしろ専門書は単価が高いのである。 1冊売れれば一般書の3冊分の売上は上がるのだから。

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