69番目

《そこになければ 「ない」 ?》

 以前新潮社から 「複雑系」 という本が出版され話題になった。 この本を書店はどこに陳列するのかが、とても興味深かった。 科学、 人文、 ビジネス、 ノンフィクションいろいろなところでこの本をみかけた。 勿論平台でだ。 売れ行きが落ち着いた今、 この本はどこの棚に陳列されているのだろう。 複数の場所に展示していた書店もそろそろ1カ所にまとめているはずだ。

 書店で、 「新潮社の複雑系」 という本はどこですか、 という質問をしてみたい。 この場合、 「新潮社」 は、 なくてはならないキーワードである。 書店員の悲しい性は、 新潮社という言葉に文芸もしくは文庫を連想する。 だから書店員は 「文芸書の棚はご覧いただけましたか」 と聞き返す。 「文芸書の棚にはなかったんだが」 というと、 そこになければありません 、という。 ほんとうだろうか。

 また○○税の本ありますか、 と聞くと 「税金関係の棚になければありません」 という。 実はそれは新書判の本で新書のコーナーにあるなんてこともある。 「そこになければない」 という案内のしかたは、 店の全商品についてその構成を把握できていないと言えない言葉なのだけど、 ついついじゃまくさくて使ってしまう。 大概の場合お客は、 店の中をかなり捜し回ったあげく、 自分では探索不可能だとあきらめて、 本のエキスパートであるはずの店員に質問する。 だから、 「そこになければない」 と言われたら、 みもふたもない。 こういう場合は、 本の大きさや値段、 または著者、 出版社などあらゆる展示場所の可能性を探る情報をお客から得ながら、 一緒に探すのが正解だと思う。

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