81番目

《本のナンパ師》

 書架の間をウロウロ、 棚をジロジロ、 30分以上もそんなことをしているお客いませんか。 この人は本のナンパ師なのです。 こういう人の目は尋常ではないはずです。 ほら、 いるでしょう、 街角で 「ネェ彼女、」 とかなんとか言っている奴、 それと同じ目でしょう。
 何か、 面白い本ないかなぁ、 と書店に立ち寄ることは結構多い。 目的を持ってて行くことよりも、 もしかすると多いかもしれない。 本のナンパ師はこのような、 なんでもいいけどとにかく面白い本を探している人のことだ。

 本のナンパ師は、 面白い本と巡り会えるチャンスの多い書店に多く出没する。 人気のない通りにナンパ師がいないのと同じだ。
 本は多品種少量商品で他の商品とは性格が異なり、 代替え出来ないものとよく言われる。 キッコーマンの醤油はヒガシマルの醤油に代替え出来るけど、 島田荘司の小説は、 京極夏彦の小説と代替え出来ないという理屈だ。

>  でもね、 こんなことはあるはずだ。
 島田荘司の本を求めに来た読者にとって、 京極夏彦の本は何の意味もないものだけど、 島田荘司ファンの 「ナンパ師」 は、 その横に並んでいる京極夏彦には、 フムフムと、 うなづいたりする。 島田ファンのナンパ師には、 京極夏彦をチラつかせるのは極めて有効というようなことである。
 本のナンパ師に本を買わせるには、 常に棚が更新されていなければならないし、 ナンパされるべき本を常に置いておかなければならない。 だから1年間その棚には同じ本しか並んでいなかった、 というような棚はぜんぜん魅力的ではないということだ。 さらに、 平台やフルカバー商品は、 店が自信を持って薦められる商品である必要がある。 ブックフェアーやミニコーナーが新鮮でなくてはならない。

 本のナンパ師は結構、 面食いで気難しいことが多い。

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