85番目

《立ち読みお断り》

 本は好きだが、 買う金がない貧乏なサラリーマンが会社の帰りにある書店に立ち寄り、 毎日10頁づつ立ち読みを続け、 その結末が載っている最後の10頁を読もうとしたら、 その本が売れてしまっていて 「どうしてあの本を売ったのだ」 と店主に詰め寄った、 というようなほほえましい笑い話は今はない。 いまでも書店にあるのかなぁ、 「立ち読みお断り」 の札。 あった教えてください。
 立ち読み客が書店の敵であった時代から、 書店のなかに椅子を設置して、 ゆっくりと本を選んで、 自由に読んでくださいという書店が出現する時代になっている。
 実際、 立ち読みして時間を潰すほど現代社会は、 のんびりしていないし、 本が買えないから立ち読みをする人もいないような気がする。 また最も立ち読み率が高いコミックは、 ビニール袋がかかっていてる。 というわけで昔と今では立ち読みの種類が変わっているのだ。

 1冊の本を何分読んだら立ち読みと言うのか知らないけど、 品定めの為にパラパラと本のページを繰るのは立ち読みと言わないだろう。 背表紙だけを眺めていっこうに本を手に取らない客が多い書店があるけど、 立ち読みどころか品定めすべき本もないということである。 現代において立ち読みは、 品揃えのひとつのバロメータということが言えるかも知れない。 立ち読みを追い払わねばねらなかった時代の書店は、 いかに読みたい本が数多く並んでいたかということではないだろうか。
 あなたの店ではどうでしょう。 手を後ろに組んだまま棚の前を行ったり来りするだけで、 1冊の本も手にしないで店を出て行ったお客さんいませんか。

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