86番目

《壁に耳あり》

 最近の書店は、 売り場面積の確保のためにバックヤード部分を少なくしたり、 売り場の一部に薄い仕切りで囲った事務所を設けているところが多くなった。 当然、 バックヤードや事務所とお客との距離が短くなり、 そこで話される内容はお客に丸聞こえになるケースが多くなる。

  「山田くん、 レジ前にある商品はいつもお客が引っ掛けて台の下に落ちてしまうのだけどなんとかならんか」 「山田くん、君が甘やかすから、 藤原くんはいつも遅刻している。 君の責任だよ。 ガミガミ」 「あー、 藤原書店ですが、 先日注文した <売れる書店はこうだ> がまだ入荷しないのだけど、 いったいどうなってるんですか」 「この間のお客さん、 本を値切るのよ。 やーね」 などなど。

 最近流行りの携帯電話と同じで、 人の話についつい耳をそばだてるのは、 人間の習性なのだろう。 書店でこんな話を聞きたくはないのだけど、 聞こえたら聞いてしまう。 結構こういうときは、 本のことで頭が一杯で、 どれを買おうか迷っているときが多いのも不思議だ。 それで変に聞き耳を立てるものだから、 本に対する集中力がプッツリきれて、 「あーまた今度にしよう」 なんてことになる。
 店内で大きな声でしゃべらないとか走らないとか、 いろいろ書店によって注意事項はあるだろうけど、 壁の薄い事務所の声が大声でないにもかかわらず外に漏れるのは店の設計に問題があるのだと思う。 聞かれてマズイ話などないと思うけど、 やはりお客として楽屋話は聞きたくないものだ。

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