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《常備本って何》

 常備寄託制度は、 書店が出版社から本を一定期間預かって販売する仕組みのこと。 このことはこの業界の人だったら誰でも知っていなくてはならない事だし、 常識ってものなんだけど、 店に展示しておいても1年間金を払わなくてもいい本、 注文品は売れようが売れまいがすぐに請求されるけど、 常備は売れなかったら金は払わなくてもいいから安全、 というような認識をしている人が結構多い。 常備が 「仕入れ条件」 の一部になってしまっているのだ。
 正式には常備寄託というのだけど、 この 「寄託」 の意味は、 相手方から物を受け取り保管する契約のことだ。 だから常備品というのは書店の店頭に並んでいるけど、 ほんとうは出版社のものなのです。 保管中に売れたら、 それはそれでいいけどチャンと補充して元に戻しといてね、 という契約を出版社と結んでいるはずだ。 だから常備契約途中で返品したり、 補充を怠ったりしてはいけないのだ。

 常備寄託の意味が誤解されるようになったのは、 書店の棚が常備品で埋め尽くされているところへ、 新刊が次から次へと出るからだ。 常備品より新刊の方が販売の期待度や確率が高いため 「ナイショ」 で売れない常備品を返品したり、 売れても補充しなかったりして新刊の棚を確保しようとするから、 常備品も委託品も注文品もみんなゴチャマゼになって仕入れ条件のことだけが頭に残ってしまっているのだ。 補充義務もなくて1年後に清算するのは1年長期委託というのだけど、 これと常備が混同されている。 じゃあ、 柔軟な条件の長期委託の方がいいじゃんということになるのだけど、 これは税務の問題が絡むので、 いちがいに、 いいとは言えない。
 この混乱には出版社も一役買っている。 なぜなら常備品は新刊委託時に売れなかったものを販売する、 言わば敗者復活戦的要素があったり、 「あんまり売れないかもね」 と思いつつも 「倉庫にしまっておくよりも店頭に出した方がいいもんね」 的な本のセットが常備品だったりするからである。 100冊しか入らない棚に130冊の本を押し込めて売れ売れという出版社、 100冊しか入らない棚には100冊しか入らないのだから、 そのなかから売れるものだけ置いてあとは返品、 というのが書店という構図だ。

 大切なことは売れる商品を、 より多く売ること。 常備品と新刊を区別して管理している書店があるようだけど、 新刊よりもよく売れる常備品があっても、 新刊なら積極的に補充注文を出すのに、 常備品はカードの回転まかせにしているのは、 いったいどういうことなのだろう。 常備品とか新刊とかいう区別ではなく、 売れるか売れないかという判断の上に立って、 あなたの店の常備品をもう一度点検してみてはどうだろう。

 今回はちょっとややこしい話で、 長くなってしまったけど、 大切なことなのでもう一度確認しておきます。 あなたの店の常備品は、 出版社から保管を頼まれて保管している本なのです。取次店から仕入れた本ではありません。

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