89番目

《怒りの返品受け取り拒否》

 本が流通しているということは、 出版社、 取次店、 書店の三者が取引上のルールを守ることを前提に、 信頼関係の上に成り立っているのだと思う。 例えば、注文品は買い切りであるというルールのもとに、 それでも書店が販売機会を損ねた場合は、 取次店が責任をもってその商品を引き取るということだ。 出版社は取次店に対して、 取次店がそうしたように、 場合によっては返品を受け取るというようなことである。
 我社は、 ご存じのように建築書を発行しているのだけど、 近年の出店、 増床ラッシュにより書店様より、 我社の本を販売したいと大変嬉しいご依頼が多くなった。 しかし我社の本は専門書である。 どなたにも満足していただけるものではない。 また販売効率を上げるためには、 長期にわたる工夫と努力を必要とする。 また地域の特性や書店の立地により、 専門書を要求する読者がつかない場合もある。 大きなお世話かもしれないけど、 出店される際には当方としても十分に販売予測をして出品させてもらっている。 置きました、 売れませんでした、 それでは返品、 というのではお互いが損だからだ。
 ところが、 この置きました、 売れませんでした、 返品したいという書店があった。 開店間もない6カ月後のことである。 出店時には 「専門書の販売に力を注ぎ、 云々」 をいうことが出品依頼書には書いてあった。 しかしちょっと心配だったから 「本当にがんばって売っていただけるのか」 と聞いた。 「はい、 400坪の書店ですから」 と胸を張って答えていた。 ところがである。

 これではルールも責任も努力もないではないか。 怒りの返品受取拒否で対応したのは言うまでもない。

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