94番目

《ボタンひとつでお買い物》

 インターネット上に出版社が協同して仮想書店を作れば、 読者はボタンひとつで買い物ができる。 もちろん本は出版社から直接送られて来るから、 本はすぐに手に入る。 ただし送料やら銀行決済の手数料やらがかかるから書店で買うより少しお金がかかる。でも時間をお金で買う時代だから、 こうした負担は大きなマイナスにはならない。
 本はインターネットで買う時代が来る、 と書くと 「おいおい、 この連載は 『売れる書店はこうだ』 と言いながら、 結局書店に未来はないということなのか」 と言われそうだけど、 まぁ話は最後まで聞くように。

 確かにインターネットで本が購入できるようになるのは間違いないし、すでにそれが始まっている。 でもだからといって書店がなくなるとは思わない。 現在の通信販売形式のチャンネルがひとつ増えるだけで、 絶対に書店はなくならないと言い切れる。 どうだ、 ちょっと安心したかな。
 なぜなら本という商品は、 それだけで存在しているのではなく 「食物連鎖」 のような有機的なつながりの中で存在しているからだ。 よく出来た書店に行くと、 書店そのものがひとつの世界であるように見えるが、 洋服屋や電器屋に行ってもそうは思わない。 そこに行っても、 ひとつひとつの商品を、 ひとつひとつの商品として、 自分が満足できるものかどうか、 判断するだけだ。 こういう商品は、 買う前からすでに自分のなかで商品に対する価値判断の材料がかなり揃っていて、 買うという行為はその確認に過ぎない。 だから本を買うときのように、 目的の本の隣にその本に関連するちょっと気になる本があったとき、 その本もいっしょに購入するというような突如沸き起こる消費行動を伴わない。 書店はその人の価値感と興味を一挙に押し広げることで、 商売が成り立っているのだ。 これこそが書店が書店であり続ける基本だ。 インターネットにこの技を仕込むのはちょっと難しい。
 インターネットは情報の交換機である。 本についてのひとつひとつの情報は提供出来ても、 その本から広がる世界については沈黙している。 NTTの電話番号サービスには書店の電話番号を調べてもらえるが、 最寄り駅までは教えて貰えないのと同様である。

 書店に 「本の世界」 があるかぎり、 インターネットに書店が潰されることはない。 心配ご無用なのである。

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