98番目
《本を買いに行く》
僕の知り合いは京都で小さな雑貨屋をやっている。 彼は3カ月に1回くらい海外へ仕入れに出掛ける。 たまにはバカンスを兼ねて、 家族もいっしょに行っているようだ。 それは卸屋から買うより、 直接買った方がマージンが大きいこともあるが、 卸屋にはない品物が手に入るからでもある。 また僕の先輩で、 書店を始めた人がいるのだけど、 毎日取次にでかけて自分で本を抜き出している。 魚屋だって、 八百屋だって毎日市場にでかけて、 自分の目で選んだ商品を買って来るのだから、 書店でも同じだというのがその先輩の論である。
商売というのはとにかく仕入れが最も大切であることは、 僕が、ここで大きな声を出していうことではなく、 当たり前のことだし、 誰でもわかっていることだ。 だけどこんなことを書いているのは、 書店が本を買いに行くこと、 つまり本を仕入れるということに積極的でないような気がするからだ。
例えば、 自店の帳合取次店が扱っていない出版社の本を仕入れたい場合、 取次店同士が商品を融通しあう 「仲間卸し」 を使えば入手できるし、 現金さえあればそれを扱っている取次店から買うことだって出来きる。 また直取引なんて裏技だってある。 この場合、 結構手間がかかることは否めないのだが、 出来ないことはないだ。 でもじゃまくさいからしない。 また仕入れ先である取次店の店売にでかけない。 遠くてお金がかかるから。 こんなことだから仕入れ先にどんな本を置いてあるのか知らない人は結構多い。 なにがあるのかわからないのに、 何を仕入れるつもりなんだろう。
読者は、 好きな本を手に入れるために多くの書店を歩きまわっている。 書店人は、 売れる本を店に並べるためにどれだけ歩きまわっているのだろう。
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