100番目
《東京で1冊しかない本》
東京のJR飯田橋駅前の書店でこんなことがあった。
僕は営業の仕事をしているので、 年に3〜4回は東京に行く。 それからもう長い間ロック少年を続けている関係で、 会社にはないしょで、 我社が発行している建築書ではなく、 書店の音楽の棚を見に行く。 フムフム、 こんな本があるのか、 と棚の前でさぼっているというわけだ。
さて、 この間、飯田橋駅前の書店に立ち寄り、 ちょいと音楽の棚を見ることにした。 品揃えはなかなかセンスがあり、 ロック系の書籍もそこそこ置いてあった。 その中でこれまでに見たことのない1冊が目にとまった。 僕の好きなアーティストの伝記である。 フーン、 こんなのが出たのか、 まだ東京での仕事が残っているし、 いま買うと荷物になるし、 まぁどこでも売っているだろう、 超マイナーな出版社のものでもないし、 大手の書店にいけばあるだろう、 と失礼ながらその書店では買わなかった。
翌日、 営業の最後の書店で、 お目当ての本を買おうとしたら本がない。 その次ぎの日から、 書店に行く毎に音楽書の棚を見た。 その日訪問したすべての書店になかった。 営業の最終日、 祈るような気持ちで本を探した。 でもなかった (日本を代表するような書店にもいったのに) 。 こんなことってあるんだ。 もしかすると、 その本は、東京中で飯田橋駅前の書店にしかなかったのかもしれない。 まさかとは思うが、 僕が買う前に誰かが買っていてそれが偶然にもすべての書店で起こったのかもしれない。
結局僕は、 帰りの新幹線の中で読もうと思っていた本を買いそびれたのである。 飯田橋駅前の書店さん、 ごめんなさい。 今度は、 いい本見つけたらすぐに買うからね。
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