110番目

《最終到達点》

 この間、 とても感心する話を聞いた。 地区一番店での話だ。
 この店は、 この地区で一番大きくて品揃えも他の店より出来ている。 お客さんは、 その事を知っているから、 他の店で欲しい本がないときは、 本を探しに来る。 「勿論あるだろう」 という確信を持って。 そのとき、 本があれば最高だし、 なくても注文を出してくれる事もある。 だけど、 いろいろと他の店を探し回って、 最終的に 「この店なあるはすだ。」 と思って店に来てくれるお客さんを裏切ることなんて出来ない。 だから毎日毎日棚をチェックして一人でも多くのお客さんを裏切らないようにしている。 という話だ。

 どんなに店が大きくても、 100%お客さんを満足させられる店なんてない。 100%の品揃えなんて不可能だからだ。 この話に出て来る店だって、 多くの場合お客さんを裏切っているに違いないのだ。 だけどお客さんを裏切らないよう、 機械まかせの仕事や紋切り型の応対は極力押さえている。 これを支えているのは、 お客さんのこの地区での最終到達点であるという自負だ。 うちの店にないものが他の店にあるはずがないという自信だ。

 ぼくは、 これを自信過剰だなんて思わない。 10坪なら10坪の、100坪なら100坪の店の自負がなければ仕事なんて続けられないし、 読者はそんな店の雰囲気をチャンと分かってくれるはずだ。
 こんな話で感心してしまうなんて、 ほんとはおかしいのかもしれないけど。

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