111番目

《コース料理と書店》

 初めて入る店で、 何がおいしいのやら、 さっぱり分からないときに、 メニューにある 「コース料理」 というのは結構安心出来て、 いちいち考えなくていいし失敗も少ない、 という意味で重宝するものだ。 値段的にもリーズナブルであることが多いし。 このコース料理を 「おまかせ」 なんていう場合もある。 料理人に、 自信のあるメニューを作ってもらうやつだ。
 さてこのコース料理だけど、 最近書店の品揃えで 「定番」 と言っているのに、 なんか似ているような気がする。 よくわからないから、 出版社や取次店がこれは売れるよと言っている本を品揃えしようという感じがそう思わせるのかもしれない。 確かに、 コース料理を重宝している僕は 、これもなかなかのアイデアだな、 なんて思ってしまう。 なんていうのかリスクの回避とそこそこの売上が保証されているのだから、 やっぱり気持ちが揺らぐよね。 この 「定番」 ってやつは。

 さて、 じゃ 「定番」 っていったい何。
 本来、 定番は、 だれもが持っている本あるいは読んだことのある本のことだ。 または、 一生の内には、 一度は読んでおくべき本として一般に認知されている本のことでもある。 だから本来、 定番は売行良好書のことではなく、 売行はちょっと渋目だけど書店としてカンバンを上げるのだったら棚にはなくてはならない本なのである。 もうひとつ基本図書っていうのがあるけど、 これは定番とは違う。 例えば、 日本文学の棚を作るとして、 村上春樹の本は基本図書、 「羊をめぐる冒険」 は定番ということだ。 もうひとつ、 アメリカ文学の棚をつくるなら、 カート・ヴォネガットの本は基本図書、 「スローターハウス5」 は定番という具合だ。 基本図書は棚のコンセプトをつくりあげるときその中心となる本のことで、 これはお店によって違っていても問題はない。 逆に店の基本図書を見付けることで、 店は固定客を獲得することができる。 一般的に良く売れている本だけで棚を作ると棚として欠陥ができるのは言うまでもない。

 コース料理は、 実際うまくて間違いのない選択なのだけど、 2回目にその店を訪れたとき、 コース料理ではなく単品で料理を注文するように、 コース料理にはコース料理の役目しかないってことに注意しないと、 いつまでたってもあなたの店にファンはつきません。

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