112番目
《ニーズの探し方》
建築書を専門に扱うある書店の棚の一部に現代思想の本が並んでいる。 それがとても自然に見えるのは、 その棚が読者のニーズによって作られているからだ。 店主は言う 「これ結構売れるんです。 でもうちは建築書の専門店だからたくさん置けないのだけど」
どの店でも建築書と現代思想を並べて置けば売れるということはない。 確かに関連しているとはいえ、 これはこの店だけができることである。 芸術書の隣にちょっとだけ建築書を並べている店もある。 近くの設計事務所の人が棚を見に来てくれるという。 本来、 本を売るためには、 例えば現代思想や建築書を、 ちょっとだけ置いてもダメなのである。 ある程度のヴォリュームが必要であることは、 だれでも経験上知っていると思う。 でもこれらの店でちょっとした本の数で読者を獲得できたのは、 不特的多数の読者ではなく特定の読者のニーズを棚に反映させているからである。 それは日々店頭で誰が、 どんな本を買うのか、 またあるときは読者と直接話をしてどんな本が欲しいのかをきっちりと見極めた結果できたことなのである。 本好きの一人のお客のために、 その人が好みそうな本を品揃えしている書店を僕は知っている。 その人がその店で1カ月に2万円分の本を買うとしたら、 それはそれでいいではないか。
不特定多数の読者のニーズというのは、 テレビや新聞そしてたくさんのメディアから知ることもできるが、 あなたの店のニーズは新聞には載っていない。 スーパーのように不特定多数の人に対して品揃えをすることで、 量販を目指すような仕組みは、 本の販売にはない。 コツコツと日々の仕事を通してしか、 ニーズは見つからないのである。
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