116番目

《消えた伝書鳩》

 伝書鳩は、 どんな遠いところから放しても、 必ず住家に帰って来る、 と言われている。 ほんとうにそうなのか。 100羽いたら1羽くらいは戻って来ない鳩がいるのではないだろうか。

 信頼されている自動発注システム上で戻って来ない本があるという。 POSレジを通過した情報により、 取次店にその日の内に発注情報が伝わり、 補充品が書店に送られるというこのシステムにも 「事故」 はあるのだ。 「入荷」 のサインのある商品が店にない、 という 「事故」もある。 ある書店でPOS管理の精度を調査したところ、 2年間で2割の本が行方不明になっていたそうだ。 つまり 「店頭在庫あり」 なのに在庫がなかったり、 「補充中」 のまま、 本が入荷しなかったりした本が、 店全体の在庫の2割を占めたということである。 伝書鳩にたとえたら、 住家に戻らない鳩が20羽いたのだ。 ぼくの予想では1羽だったのに。

 ぼくは、 現在のPOSシステムに懐疑的な訳ではない。 優秀なシステムであると思っている。 しかしその運用方法が書店で理解されていないのではないか、 されていたとしてもそれはごく一部のひとたちだけであって、 実務者のすべてではないような気がする。 もしかするとPOSそのものを知らずに、 レジに立つアルバイトが存在するのではないか。
 帰らぬ伝書鳩がいたら、 飼い主の悲しみは大きい。 すべてが帰ってくるはずの伝書鳩である。 しかし 「事故」 は必ず起きる。 POSだってそうだ。

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