あとがき

《ご愛読ありがとうございました》

1998年、 あけましておめでとうございます。

 インターネットを通じてこのコラムを書き始めたきっかけは、 妻の 「本を買う楽しみを味わうことの出来る書店が少ない」 いう言葉だった。 もしかすると、 本を売るということがどういうことなのかわからない人が増えていることが、 読者から本を買う楽しみを奪っているのではないか、そんなこと思い、 この連載を始めることにした。
 実をいうと、 この連載をインターネットで始めるのが怖かった。 だって、 僕が書こうとしていることは、 書店で行われている当たり前のことで、 わざわざ文字にするような事柄じゃないと思ったからだ。 それから書籍の流通や書店の現場は、 僕が考えているよりシステム的になっており、 いまさらこんなことを書いても 「古臭い」 と笑われるだけだろうと思ったからだ。
 連載が始めて少したった頃、 「とても参考になります。」 「いろいろ教えて下さい。」 という内容のメールをもらった時、 書店の現場では、 本という商品を売るということや本を売る楽しみを教えている人が少ないのだと確信した。少しは、みんなの為に役に立つコラムだったんだと、変な意味で安心した。

 読者は待っています。 あなたのお店に、 楽しい本、 感動する本、 趣味に役立つ本、 仕事に役立つ本、 おいしい料理が作れる本、 楽しい旅行ができる本、 彼との相性を調べる本、 エッチな本、 いろんな、 いろんな本が並んでいることを。 本文で何度も書いたけど、 本は勝手に送られて来て、 それを並べておけば、 勝手に売れるものではないのです。 あなたが売りたい本を仕入れ、 あなたが売れるように工夫すれば、 読者はそれを欲しいと思い、 財布から働いて得たお金を本のために支払ってくれるのです。 仕入れて、 展示して、 読者に喜ばれて、 そんなことを精一杯楽しんで欲しい、と心から思う。
 本の流通をめぐる環境や、 メガストアーの誕生など、 本という商品に対する考え方に変化が起きていることは確かです。 でも本を売る楽しみは、 システムが変わっても不変であると、 今は信じていたいと思います。
 出版社に勤務しているという立場を越えて書いたつもりですが、 書店さんにはわかりにくい言い方があったかもしれません。 ご指摘をお待ちします。

 子育てをしながら毎日客注の受付をしているあなた、 書店の後継ぎをするために現在修行中のあなた、 朝礼でこの講座を紹介してくれたあなた、 営業の参考にしてくれた出版社勤務のあなた、 そのほかたくさんの人達に 「ありがとう」 を言いたいと思います。

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