■いつもビールがうまい理由
書店の棚というものは図書館ではないのだから常に伸び縮みしている。どう言うことかというと、ここに30冊入る棚があるとしよう。図書館ではその棚に収容すべき本が決まっている。だからその棚は本が抜けたとしても別の本を補充することができない。しかし書店の場合30冊入る棚から5冊の本が抜けたらストックから補充しなければならないし、もしなければ溢れ出した本でカバーするとかして棚を埋めることになる。つまり30冊入る棚に収容されるべき本は補充回転中の本を考慮した30冊以上の本が入っていることになる。そう、書店の棚は30冊以上収納できるように伸びるのである。逆に30冊入る棚が面出しにより25冊しか入らないならこれは棚が縮んでいる状態である。この棚の伸び縮みをコントロールすることは、棚整理では特に重要なことだ。これを怠ると棚に本が寝転んだような状態になる。30冊入る棚に常に30冊の本が並んでいるというのは売れていないということで、これは話にならない。寝転んでいるというのは売れたということだけど、売れてよかったねというだけでは、これも話にならない。棚は本を売るためにフル稼働していなければならない。
流通が改善され補充スピードが向上したとはいえ、売行良好書のストックは不可欠である。売れたらすぐに補充する。売行良好書が棚にない日を作らない。これは、売上をアップするための基本中の基本である。棚整理とは売れ筋を発見した上で、その棚の品質が常に一定であるようにすることである。棚の品質管理は棚整理によって作り出されるものである。いつもビールがうまいのは、どんなときも一定の味になるよう品質がコントロールされているからなのだ。書店の棚もこうじゃないと誰も見向きもしない。
■本に触るべき人は誰か
わかっていただけたかと思う。棚整理とは、本をキチンと並べる作業のことではないということだ。理屈の多い説明になってしまったことを反省しているが、簡単に言えば、本に毎日毎日触ってさえいれば、本を覚えられるし、その棚がどのような販売状況にあるのかが分かるということだ。
現場の担当者が、
「どうしてこんな売れない本をいつまでも展示しているんですか。」
という質問をするようになれば、それはもうその人が棚整理の意味を理解しているということだ。今日入ったばかりの新人のする棚整理との違いは明らかだ。
「でもねえ、そんなことがわかるようになるまで、どれくらいの経験が必要になるかわからないじゃないですか。そんなキャリアができるまで待てないですよ。」
というのが現実だと思う。しかしこれをやらない限り売上は上がらない。とりあえず売れていればいい、というのならそれでもいいだろう。近年の厳しい競争に勝ち残りたいのであれば、棚整理がキチンとできる人材を確保しなければならない。どんなことがあってもだ。
でも心配はご無用。これって本当は割りと簡単に身につくものなのだ。キャリアがどうだこうだという次元の問題ではない。とにかく最初の内は闇雲に本に触ればいいだけの話なのだ。あなたの店ではどれくらい担当者に本を触らせていますか。棚の前でどれくらい本について話をしていますか。本を1冊1冊抜き出して本の話をしていますか。きっと担当者は入荷した本を棚に差したり、平台に積んだりするだけ、管理者は雑用に追い回されて棚を見ている暇もないというのが現場の実情ではないかと思う。僕は、売るために棚に陳列された本を、商品として実感するために必要な時間は3カ月もあればいいと思っている。個人の能力には差があるので一概には言えないが、1日3時間程度、棚への補充も含め、棚の本を触る時間があれば10坪の範囲で棚整理の考え方が身につくと思っている。ただし管理者が雑用で走り回っているようではそれもおぼつかない。管理者が棚の商品についてしっかりとした知識を身につけていることが大前提だ。
あれ、もしかすると、棚整理を忘れてしまった管理者こそ、今最も本に触らなければならない人たちなのかもしれない。