「書店経営」5月号掲載分

平台で、本に語らせる

■売り手の声
 棚の前に本が積める「平台付書架」は、今では一般的であるが、以前の平台は本当の意味で、「台」として存在していた。店にドーンと台が置いてあって、その台にいろんなジャンルの本がドーンと積まれていた。今そういう「台」がある書店を見かけると、僕はその台に、書店らしさを感じてしまう。しかし店舗が大型化したことで、ジャンル別、コーナー別の展示が主流になったし、平面積をたくさん使う平台は、点数を多く置きたいという書店から敬遠され、平台付書架が多くなってしまったことについて、ちょっと残念な気持ちがしている。
 さて、その平台が今回のテーマだ。店頭でその活用の仕方が、本当に理解されているかというと、ちょっと疑問がある。
 平台に本を積む第一の目的は、本をお客さんにアピールするということだ。仕入れた商品をドーンと積み上げて、「この本はとても面白い、為になる、買って損はない。」とお客さんに訴えかける。そこには、書店の《売りたいという意識》が反映されている。また積み上げることで、「売れているよ、読まないと時代から遅れるよ。」という《書店の声》が反映されている。平台の商品というものはそういうものだ。しかしながら、たくさん配本があったから、というような書店の意識や声が反映されていない本が平台に積まれていることが多いのではないかと僕は思う。たくさん配本したのは出版社や取次店の思惑であり、書店の売りたいという想いではないはずだ。勿論それが互いに一致していれば、それはそれでいいのだが、本当にそうなのだろうか。平台を一度じっくりと見て欲しい。妥協や惰性で陳列していないだろうか。店の平台に、売りたいという想いや、読んで欲しいという想いが充満しているだろうか。溢れんばかりの新刊洪水の中、ただ単純に平台に積まれた本の入れ換え作業だけで終始していないだろうか。書店のことを「金太郎飴」と悪口を言う人がいるが、基本的には同じ商品が同じように配本されてくる今の配本システムの中で、どの書店でも単純な入れ換え作業だけをしていたら金太郎飴になるのは当たり前だ。

■ディスプレイ効果
 平台に本を積むという第2の目的は、平台をディスプレイとして機能させるということである。わかりやすく言えば、洋服屋のマネキンのようなものである。マネキンを見ればその店がどのようなセンスの洋服を扱っているのかがわかるように、平台を見れば、その書店がどのような店なのかがわかる。新刊ばかりが積んであれば、既刊書の期待度は低いし、ロングセラーがキープしてあれば、棚が新刊だけで埋め尽くされていることはない、という思いがよぎる。また新刊が他の書店より多く積んであれば、すぐに品切れするような書店ではないと思うし、他の書店ではあまり見かけない本が積まれていれば、棚に対する期待度は一気に高まる。つまり平台は、その店の特徴を示すものだと言えるし、特徴を示すために最大限利用すべきものである。
 書店においては過剰なディスプレイを必要としない。それはお客さんが本好きという極めて大人しく、気難しい人達であるからだ。だから、店先で「いらっしゃい、いらっしゃい」とは言わないし、店に入って来たお客に「何をお探しですか」とも言わない。また「お買徳!」なんてポスターは似合わない。書店のお客さんというのは店員の声ではなく、商品が発する声に敏感なものだ。だからこそ、本が最も目立つ平台が、書店の最大のディスプレイということになる。
 おまけ的な発想だが、こんな効用もある。それは商品補充に過剰な気の使い方をしなくてもいいということだ。棚だと本が抜けるとすぐ行って補充しなくてはならないが、平台なら穴があかないように気を付けていればそれでOKだ。ロングセラーのように緩やかなカーブを描いて売れている商品の展示場所にはもってこいの場所と言える。
 僕は、平台をうまく使いこなすために「本に語らせているか」「陳列された本が店を象徴しているか」これだけのことをキチンと頭に入れておけばそれでいいと思っている。

■展示ノウハウ大公開
 さて次は平台でどんな本を展示するのかということだが、結構いい加減にやっているところが多い。せっかくの平台だから有効に使いたいものだ。お客さんが平台の中央に立つ場合を想定すると、基本的にはこんな感じになる。  棚にゴールデンライン(目の高さ)があるように平台にも「黄金の場所」がある。縦4点横10点積める平台の「黄金の場所」は、左から3列目、手前から2列目の場所だ。横1列目(最前列)と横4列目(奥)は以外と目立たない場所なのだ。こういうことは実際自分がお客になったつもりで平台の前に立てばわかることだから実験してみればいい。
 平台の商品の流れは、左から右へ流れるようにする。なぜなら人間の目は、一般的に左から右へと見るようになっているからだ。売りたい商品なら、真ん中より左側に並べるのが正解だ。だから流行作家の新刊が出た場合、左側に新刊、右に既刊のロングセラーを積むようにする。売れ行きが鈍って来たら順次右側に本を送って、真ん中より左には常に売りたい商品が並ぶようにする。つまり右端まで送られて来たら、もう平台からは外す時期に来ているということだ。それから店独自のロングセラー商品は、左奥を定位置にすること。一番奥は手に取りにくい位置だが、良く目に入る位置でもある。逆に右奥は最も目立ちにくい場所だと言える。
 以上の例は、あくまでもお客さんが平台の中央に立った場合を想定しているものだから、お客さんの導線と平台の位置が違う場合は、この限りではない。とにかく一度じっくりと、どの場所が最も目につきやすいのかいろいろと試して欲しいと思う。

■どんな本を置けばいいのか
 新刊中心でOKだ。ただし新刊だけにならないようにすべきだ。まだ売れ行きが安定しているにもかかわらず、新刊が入荷して来た時、それを展示する場所がないという理由だけで外してはならない。ビッグヒットした商品は、その売れ行きが完全にストップするまで平台に残すべきだ。それが1年間でもだ。また1点積みは売上の拡大につながらないので気を付けること。例えば、人気のあるミステリー作家の新刊が出たら、それだけを積むのではなく、その作家の前著やロングセラーまたはその作家と同系列の作家の新刊もいっしょに並べるなど新刊をひとりぼっちにさせてはならない。1冊客に買わせたら、もう1冊買わせる仕掛けをしておけば売上は上がる。こうして平台を練っている内に、まるでヌカ床みたいに良い味が出て来る。
 これもおまけなのだけど、配本が少ない本でも、売れそうなだなと思ったら、ゲタ(上げ底)を履かせて平台で売ること大切だ。平台は、売れ行きを計る実験場でもある。もし売れたら、すぐさま追加発注をすること。
 最後になってしまったが、平台に本あるからといって、その本を棚に差すことを怠っている書店があるけど、書店の基本は棚であるこをお忘れなく。

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