待ち合わせの時間になっても現れない友達に少し苛立ちながら、 待ち合わせ場所に指定した売り場の棚を見て回っていた。 たまには犬猫堂にない棚の本も見ておこう、 と教育書の棚の前に立った。
やっぱし、 大正書院の本は売れるのだな、 とか最近の先生はいじめとか暴力とかいろいろあって、 僕じゃ務まらないなとか、 そんなことを考えながらボーッと棚を見ていた。犬田は、 ズーッと棚を順番に見ていてなんか変だなと思い始めた。 「小学一年生理科」 とか 「学級の育て方」 いういわゆる授業のテクニックや困ったときの解決法、 それから学校行事の進め方なんていういわゆる先生授業の中で使う技術的な部分の解説書がすごい量あるのに、 《先生としてどうあるべきか》的な自己啓発にかかわるような本が少ないのだ。 これじゃまるでビジネス書の売り場と同じじゃないかと犬田は思った。 「財務諸表の書き方」 「簿記・会計事典」 「管理能力の高め方」 「会社の数字がわかる本」 なんていう本が並んでいるのと同じ雰囲気だと思ったのである。 ありゃありゃ、 最近の先生はこんな本ばっかり読んでいるのか。 パソコンのお勉強じゃあるまいし、 そんなにテクニックばかり磨いてもしょうがないのに、 と思った。 そしてこういう本ばかりを提供している書店がおそらくニーズばかりを追求した結果こんな棚を作ってしまったのだろうと思った。
俺だったら《先生こんな本読んでみたら》みたいな展示をしてみるんだけどな、と思っていた。 教育の現場が乾いているという報道があるけど、 教育書の棚も乾いているなあと犬田は思っていた。また、 休日に友人を待ちながら、 本の売り方を空想している自分も乾いているなあと思うのだった。
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