その32

《痩せた大地に種をまく》

 乾燥した大地にもくもくと種をまく、 わすかな実りを期待する。 やがて雨が降り、 種は芽を出した。 しかしそれ以降また空から雨は降らず、 芽吹いたその植物は枯れそうになった。 心から 「雨よ降れ」 と祈り毎日空を見上げた。 やがて空は曇り一粒の雨が空から落ちて来た。

 地球環境について話題になることが多く、 誰もがこの地球が危機を迎えていることは知っている。 このままでは大変なことになる。 そういう意識を持っている。 だけどこれを書いている僕を含めて、多くの人は地球を救う具体的な行動を行わない。 「燃えるゴミと燃えないゴミはちゃんと分けているし、 地球にやさしい商品を買っているもん。」 という言い訳は、 無駄ではないが、 ほんとうはもっと根本的な部分で生活を変えてしまわないと、 地球はヤバイのだ。 それも知ってると思う。 でもしないのは、 とりあえず今日と言う日を無事に暮らすことができるからだ。

 猿山は、 犬猫堂の棚のすべてにおいて商品が十分回転していないことを知っている。 人手の問題やそれぞれが 棚の管理だけを受け持っている訳ではなく、レジ業務や雑用で一日中棚を触れずに終わる日だってあるのだ。 そんな中で棚が荒れていく、 いくら頑張ってもお客のつかない棚が出来ていくのはしかたないことだと思っている。 しかし、破れた帯をはずしたり、ジャンル構成がおかしくなっている本を整えたり、 番号順になっていない本を並べかえたりと、 そんなことすら諦めてしまえば、 棚は一体どういうことになるのだろうかと思う。
 棚は、 触らないとどんどん荒れていく。 それは畑を耕すのに似ている。 耕さない畑に種をまいたところで、 雨が降っても植物は成長しない。 種をまく前にどれだけ丁寧に畑を耕したかで収穫の量は決まる。 勿論、雨が降らなければいくら耕しても収穫はゼロだ。

 猿山は考え込んでいる。 今日無事であればそれでいいのか。 痩せた土地に種をまくのは、 無駄なことなのか。 いつ雨が降るか分からないから畑は耕す必要がないのか。 棚を整理しながらこんなことを猿山は考えていた。

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