鶴田は、 いつものように笑顔で、 レジに立っていた。
「いらっしゃいませ。 420円になります。」
文庫本を1冊買ったお客にそう告げたとき、
「領収書ください。」 とそのお客は言った。
普通、 領収書を求められるのは、 その本を会社で買ったりするときだ。 だから本もそれなりの本で、 金額もそれなりの場合が、 ほとんどだ。 鶴田が今売った本は、 ミステリーで、 領収書が必要になるような本とは思われなかった。 変なお客さんだなと思いながら、
「はい、 少々お待ち下さい。」 と言って、 領収書に日付と金額を記入し、 そして判を押してそのお客に渡した。
「ああ、 悪いけど、 日付を抜いて欲しいんだけど。」
そのお客は、 渡された領収書を見ながらそう言った。
「日付を抜くんですか。 そういうのはできないんですけど。 お買い上げに日付を入れるようにと言われてるのですが。」 と鶴田が言うと、
「できない。 そんなことはないよ。 どこでもやってるよ。 金額の入ってない領収書だってくれるところもあるんだから。」
鶴田は、 思った。 この人は何か不正をしようとしていると。 鶴田はなんだかいやな気分になり、 きっぱりと言った。
「できません。」
隣で鳩山が、 ニヤニヤしながら見ていた。
出来る、出来ないという押し問答がしばらく続いた後、そのお客は、
「しょうがないな。」と言って、 店を出て行った。
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