その37

《平台、売ります》

 平台というのは、 書店の顔だ。 棚は書店の性格だと言える。
 平台に置かれる商品は、 それを強くアピールできるという点で、 書店は平台に売りたい商品を並べるのだし、 出版社は自社の商品を顧客にアピールしたい、 ということで平台に並べることを強く求める。 そして平台に並べられる商品の数は、 書店のスペースに限りがあることから、 それほど多くはない。 そういう事情から、 平台は売りたい、 売って欲しいという欲望が渦巻く場所となっている。
 ところが雑誌の場合、 毎月キチンと出版され、 販売部数が安定していて、 売上が高い商品の場合、 定位置というのが決まってしまう。 Aという雑誌は、20日発売で平台の右端とか、 Bという雑誌は30日発売で右から3番目とかである。 こういう雑誌というのは、 宣伝力のある大手雑誌社から発行されているものが多い。 書店では、 これら雑誌の銘柄や置き場所 (平台での位置) がほぼ決まっていて、 時折発売される別冊や話題となりそうな雑誌以外は、 これら定番雑誌をはずしてまで平積みされることはない。
 こういう事情だから、 雑誌の定番外銘柄を通常の販売促進で、 平台に乗せるのは至難の技である。 そこで最近こんな荒業が登場したという噂を、 犬田は書店の会合で耳にした。

書店 「ねえねえ、 平台買わない?」
版元 「それ、 どういうこと?」
書店 「おたくの雑誌を乗せる平台を確保するから、 そのかわりそのスペースの使用料を払って欲しいってことだよ。 うちの雑誌台は60点並ぶんだけど、 その内一コマを買ってくれたら、おたくの商品は必ず平積みってわけなんだけど。」
版元 「それ、いくらなの。 これくらいだっら出せるけど。」
というやり取りが行われたという噂だった。

 ほんとうか嘘か知らないけど、 平台の売り買いが実際に行われているというのは、 以前から耳にしていたことだった。 雑誌が売れなくても利益を確保できる書店、 そして平台の乗せることで売上増を狙いたい出版社の利害が一致したのだから、 めでたし、 めでたし、 ということになるのだろうし、 商売なんだからいいじゃないか、 ということなのかもしれないけど、 書店という商売はそういうことをしても利益を確保すべき商売なのだろうかと犬田は思った。

 犬田は、 以前猿山に、 「ブックフェアー用平台いくら」 なんていう商売したら儲かるかもね、 という冗談を言ったことはあったが、 まずそんなことを言う書店でブックフェアーをする出版社はないし書店も言い出さないという前提があったから、 二人でハハハと笑って済ませられたけど、 これは冗談ではなくなってきたみたいだと、 書店業界の寒さが犬田には身にしみた。

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