猿山は、 棚詰めをしている蟹江に、 突然告げた。
「蟹江くん、 そこの平台、 ミニコーナーが2週間後に終わるんだけど、 その後のコーナーを君にやってもらうからね。 アイデア出してよ。」
この突然のことに、 蟹江は驚いた。
「え、 いいんですか。 ここの商品を僕が手配してもいいんですか。」
驚いている様子の蟹江をちょっと見ながら、 猿山は続けた。
「そう、 何をやってもかまわない。 何をやるのか僕に相談しなくてもいい。 君がやりたいようにやればいいんだ。 そのテーマや結果について、 誰も何も言わないから。」 何をやってもいい、 そう言われると蟹江は困ってしまった。 突然言われても、 そんなプランを準備していなかったからである。 しかも残された日数は2週間。 商品の手配もしなくてはならない。 しかし蟹江は燃えていた。 初めて手にする自分の売り場である。 誰にも干渉されない自分で作り上げる売り場なのである。 自然と武者奮いを覚えた。
蟹江は早速アイデアを絞り出す作業に取り掛かった。 こうなると仕事も手につかない。 テーマ、 テーマ、 テーマと頭の中が混乱した。 そしてその夜、 テーマを絞り込み、 これだというものを見付けた。 そうだ、テーマは 「釣り」 だ。
彼は、 『釣魚大全』 を初め 『オーパ』 など、釣りに関するうんちく本を選書しはじめた。 最近の釣りブームもあり平台を埋めるべき点数はすぐに見付かった。 そして発注を完了させた。
早いもので数日後には、 ミニコーナーに乗せる商品が入荷し始めた。 そして、 ミニコーナーを始める1日前にすべての本が揃った。
蟹江は、 何もない平台に、 自分で選んだ本を並べ始めた。 自分でも胸がドキドキしているのが分かった。 そしてそれらが売れる瞬間を空想したとき、 さらに胸がときめいた。そして蟹江にとってこの瞬間は、 一生忘れられないものとなった。
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