臨時雇いのアルバイト5名を動員して、 犬猫堂の棚卸しが始まった。 なんとしても夕方までには終わらせ、 夕方からは店を開けたいと犬田は考えていた。 夕方から夜9時までの売上を何とか確保したかったからである。
毎年の事とはいえ、 ひととおりの注意事項を説明した犬田は早速棚卸に取り掛かかるよう全員に声を掛けた。
犬田の号令とともに犬猫堂の棚卸が開始された。
「1000円、3冊、950円、2冊、800円、1冊」と次々に棚の商品の値段と冊数を読み上げていく。 アルバイトが棚卸伝票にそれを記入している。 そんな姿が店内いっぱいに繰り広げられていた。
「ねえねえ、 ヒナちゃん。 棚卸って面倒臭いと思わないか。」 と寅が話しかけた。
「そうよね。 こんなに広い店の中の本を全部読み上げなきゃならないなんてサイテーよね。」 ヒナちゃんは最初から戦意喪失のようである。
「俺、 思うんだけど、 こんなのテキトーに書いちゃってもわかんないんじゃないの。 一応後でチェックすることになってるけど、 チェックされたらされたで、まあその時はその時だしね。」 と、 寅はあぶない話をしている。
店の別の場所では、 猿山と林のコンビが本の数を読み上げながら、 議論している。
「ねえ、 スズメちゃん。 これダメだよ。 こんな本棚に入れといちゃ。 書タレだよこれ。」と猿山は棚で見つけた古ボケた本を手に取って言った。
「ああ、 それ違うんです。 もう絶版になっているのを私が出版社に頼んで入れてもらったんです。 どこでも手に入らない貴重な本なんですよ。 いい本なんですから。」 と林は切り返した。
「売れるんだったらいいけど。 無理だと思うけどなあ。」 と猿山は心配顔だ。
また別の場所では、
「おいおい、 丘さん。 倉庫の掃除をたまにはしたらどうかね。 埃がたまってすごいことになってるよ。」 と犬田が言うと、
「掃除するように、 寅くんには言ってあるんですが。 あの子、 面倒臭がり屋だから、 私の言うことやってないんだわ。」 と丘は寅のせいにしている。
そしてレジ内の客注品を棚卸していた鳩山は100円玉を3個も見つけた。
あちこちで大騒ぎを起こしつつ、 犬猫堂の棚卸は早朝からスタートしたこともあって夕方までには終わることが出来た。 事務所に戻った犬田は、 机の上に置いた棚卸伝票の山を前につぶやいた、
「今年もまた、計算が合わないんだろうな。」