この様子を猿山はじっと遠くから見ていた。 そして寅が平台の本を外し始めると、 寅と林のところへ飛んで行った。
「こらー。」 と猿山は、 店中に響き渡るくらいの大声で怒鳴りつけた。
「寅、 何をやってるんだ。 店の商品を勝手に動かすんじゃない。 いったいどういうつもりだ。」
寅は、 さきほど考えていた自分の考えを猿山に伝えた。 寅にはどうして猿山が怒っているのかが理解出来なかった。 このアイデアは売上増につながるという自信があったからである。
「元に戻せ。」
と猿山は強い口調で言った。 そして続けて、
「店の商品レイアウトは、 店全体のバランスの中で、 いかにお客さんが買いやすいか、 そして商品をどう売るのかを考えて決めてある。 それに商品を動かすということは、 犬猫堂をいつも利用してくれている人に違和感を与えることになるんだ。 商品を動かすということは、 店全体の売り方の問題だから、 君が勝手に決める問題じゃないんだよ。」
と寅の行動を諭した。 寅は、 これまで一度も見たことのない猿山の激高ぶりに、 たいへんなことをしたと思ったが、 なぜこれほどまでに猿山が怒っているのか分からなかった。 お客さんのため、 店のためと思ってしたことが、 どうしていけないことなのか、 何度考えても分からなかった。
寅はこのとこを仕事を終えた後、丘に話をした。それは一日中考えたがどうしても自分のしようとしていることが間違っているとは思えなかったからだ。
「丘さん、どう思います。僕のアイデアは、間違っているんでしょうか。」
「スズメちゃんも言ってたそうじゃない、寅くんのアイデアは理にかなっているって。私もそう思うわよ。」
そう丘が言うと、寅は得意満面な笑顔を浮かべた。
「やっぱり、そうっすよね。僕のアイデアは間違っていないっすよね。」
「でもね、寅くん。あなたの考え方は間違っていないかもしれないけど、猿山さんがダメということは、やっぱりダメなのよ。つまり店全体の売り上げを考えて、いろいろと商品の販売方法を考えるのが猿山さんの仕事。つまり猿山さんは、店のプロデューサーってことなのよ。もしもみんながそれぞれの考え方で、勝手に店のレイアウトを変えたり、商品構成を変えたりしたらどうなると思う。ひとりひとりのアイデアが正しくても、店全体がそれでバラバラになってしまったら、正しいアイデアだって間違った結果を生むことになるということかしら。
まあ、そう気にしなくてもいいわよ。きっと猿山さんだって増え続ける雑誌の展示について、何か考えているはずだから。」
丘からそう言われてもすぐには納得のいかない寅だった。
「そういうもんですかねえ。結構自信のあるアイデアだったんですけど。」
そう言い残して寅は店を出て行った。