そして1週間が過ぎ、 林が出社してきた。
「スズメちゃん、 海外旅行は面白かった?楽しかった?。 まあ、 土産話は後でゆっくり聞かせて貰うとして、 とりあえず、 私の仕事を見てよ。 スズメちゃんがいなくてもちゃんとやっておいたから。」
そう言うと、 林の手を引っ張って売り場に連れて行った。
「どう?」 と自信ありげに言うヒナの指さす棚を見て、 林は目を疑った。 自分が休暇に入る前の棚とすっかり様子が変わってしまっていたのだ。
「ヒナちゃん、 あそこにあった本どうした。」
「どうした、 って。 ちゃんとあそこにありますけど。」
「そういうことじゃなくて、 どうしてフルカバーをはずしたのってこと。」
「はい、 それは、 新刊が多くて展示できなくなったんです。 在庫が減っていて、 ちょうどあの本を差しにすると新刊が展示するスペースが出来たんで。」
「じゃどうして、 あの本は私が休む前と同じなの。」
「あれは、 在庫が減っていないから、 差しにしても新刊をフルカバーするスペースが出来ないから、 そのままにしてあるんです。」
「平台は変わっていないけど、 何か平積みするような本は出なかったの。」
「平台の本ははずすと、 棚に入れなきゃならいでしょう。 はずしても入れる棚が分からないから、 そのままなんです。」
林は絶句した。
「あのね、 平台でもフルカバーでも減っているものは補充、 新刊が出たら、 減っていないものをはずして、 新刊を積むの。 確かに、 あれも売りたいこれも売りたいという場合、 動きがやや鈍いものについて、 補充をやめて差しにするということはあるけど、 この場合本当によく考えて、 新刊の方が売れるという自信がある場合のみやってもいいことなの。 平台の場合、 展示品を変えるぞ、 っていう感じになるのだけど、 フルカバーの場合、展示のスタイルから、 心理的にちょっと気楽になってしまう。 だけどやることは同じなんだから。」 そこまで言うと、 林はちょっと落ち着きを取り戻した。
「まあ、 いいや。 あとでゆっくり見ましょう。 ヒナちゃんのやったことがすべて悪いことじゃないんだから。 よくぞフルカバーをはずしてくれたなんて本もあるわけだから。」
というと、 カバンからヒナへのお土産を取り出した。
「留守中、どうも御苦労様でした。」
そう言われたヒナは、「ありがとう」というのが精一杯だった。