ダウン症は、常染色体異常のなかで最も多い疾患です。いろいろな似通った症状が特徴的に見られるので、1866年イギリスの眼科医 J. L. H. Down が独立した疾患として報告したのが症候群としてひとまとめにされたはじまりですが、もちろん、昔からこのような症状を持つ人がいることは文献に現れています。
Downが、本症の特徴のひとつである内眼角ぜい皮とつりあがった眼尻を蒙古人に似ている顔つきとしたことから、しばらくは蒙古症と呼ばれていました。
これは、人種差別的用語であるため、現在は発見者の名前をとって、ダウン症と呼ばれています。その後、1959年になってから、フランスの Lejeuneらの研究者によってダウン症の原因が染色体異常(21番染色体が3本あることから、21トリソミーと呼ばれる)によることが確かめられました。
私たちの体は小さく分けていくと、すべて細胞というひとつの基本単位に行き着きます。細胞はそのひとつひとつの中に私たちの体が生きてゆくために必要なそして、子孫を作るために必要な遺伝情報を持っています。それは、細胞の中の核と呼ばれる特別な部分(核膜で囲まれている)に保管されています。その遺伝情報は、DNA(デオキシリボ核酸)で担われているのです。DNAは、デオキシリボースという五炭糖とリン酸と、塩基からなっています。塩基は、プリン塩基のアデニン、グアニンおよびピリミジン塩基のチミン、シトシンの4種である。この4種の文字でかかれた暗号文という形で遺伝情報が書かれています.それらの遺伝情報のひとつひとつは遺伝子と呼ばれています。それらの遺伝子はたくさんつながって螺旋状になり、さらに糸が巻きついたように凝縮され染色体と呼ばれる構造を作っています。普通の状態ではそれがよく見えませんが、細胞分裂期になると塩基性染色物質で染めると、はっきりとした形をとって見えるようになります。それが名前の由来です。
ヒトは、46本の染色体をもっています。22対の常染色体と2本の性を決定する染色体からなっています。女性は2本のX染色体、男性はXY染色体を1本づつ持っています。
常染色体は大きさの順に1から22まで番号がついていますが、21番と22番は染色体検査の初期ダウン症で過剰なのは大きい方の21番染色体だと誤って考えられていました.のちの研究で小さいほうの染色体だとわかりましたが、混乱を引き起こさないために21番と22番の名称を逆にすることで、すでに定着していた21トリソミーの名称がそのまま用いられています。
ダウン症の人は、21番染色体が1本過剰で3本あります。21番染色体は最も小さい常染色体のため、それに乗っている遺伝情報も少ないためか、比較的他の染色体のトリソミーよりも軽度の先天異常です。したがって、正常に生まれて来る頻度が高いのです。
標準型(不分離型)21トリソミー、転座型、モザイク型
標準型21トリソミー:ダウン症全体の90ー95%
これは通常第1減数分裂期での不分離によります。(80%)が、第2減数分裂時におこることもあります。両親は一般に正常な染色体数を持っており、子供が偶発的にトリソミーになったのです。
モザイク型:ダウン症全体の1%ー3%
21トリソミー接合体(80%)や正常細胞接合体での体細胞分裂における不分離で生じます。このような場合は完全型に比べて臨床像は軽くなります。通常、両親の染色体数は正常ですが、偶発的な染色体の不分離が受精卵の細胞分裂時に起こり、子供の細胞の一部がトリソミーとなっているものです。
転座型:ダウン症全体の5%ー6%
ダウン症の転座は、21番染色体が付随体をもつD群(13、14、15番)またはG群(21番22番)のひとつと付随体同士の融合により生じます。転座型は、ダウン症全体の約5%ですが、その半分は散発性転座、つまり両親の染色体は正常です。あとの半分は遺伝性転座で片親に転座染色体保因者が見らます。この家系には、保因者の先祖や兄弟、ダウン症の姉兄に同じタイプの保因者が見つかる可能性があります。
ダウン症は、出生児のなかではもっとも多い染色体異常です。
一般にダウン症の出生頻度は、民族間や社会、経済クラス間には差がなく、最近のわが国の統計では、一般出生頻度は約1000の1です。
ダウン症の発生頻度は母親の加令とともに増加することは、よく知られています。これは、母親の加令によって卵子形成過程に起こる染色体不分離の増加の結果と考えられています。しかしながら、約80%のダウン症児は35歳以下の母親から出生しています。すなわち、これはもともと35歳以下の妊娠が多いということによっています。
また、過剰な染色体は父親由来のこともあり、母親由来と父親由来の比は4:1といわれています。