「雉の剥製」






初夏の夜、
昔大陸で倣い覚えたる支那剣なぞゆるりとさらっていると、
雉と目が合う。
広間のぐるりを取り巻く階段脇に其れは居て、
じつと此方を見ているのだ。
色は落ち、首ももげかけているというのに
眼光のみ爛として鋭い。
私は思わず手を止める。

目を合わせたくなくば、いっそ目を瞑って遣れば良い。
勁を聴くのに目はいらぬ。
されど目を閉じた処で、雉は消えぬことを知っている。

雉は云う。
「お前は好いな。
お前が病を理由に支那へ引っ込み
日々のうのうと書類に判をつく頃
俺等は印度洋で露西亜に落とされた。
切れぬ刀は楽しいか」
私は一息於いて、
刀ではない、剣である、と静かに云い返す。
そうすると雉は黙る。
黙ったまま、やはり此方を見ている。

この雉もまた何時から在るのかよく知らぬ。
古いが捨てるつもりはない。





 


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