「裸婦像」






一枚の巨大な油繪である。
何時から其処に掛かっているのか定かでない。
おおよそ先々代の頃からではなかろうか。
何しろ生まれた時から壁の一部として見上げていたので
好き嫌いはさておき、無いとなると妙に落ち着かぬ。
幾度か展覧會に貸し出したことがあるが、
残された空白を見るだにつけ、
まるで見知らぬ館にでも居るような奇妙な心持ちがした。

人が裸体を禁忌なるものとして目を逸らすようになるのは、
幾歳くらいからなのだろう。
幼い私は
毎日目にするこの裸体の女達を、
何の屈託もなく、何故か遠縁の娘達であると決めていた。
折しも繪の中の背景は壁と同じ水色をしており、
女達の後ろにある鏡台は
家の手洗いに取り付けられた洋鏡棚と幾分似通っていた。
絵は、大人に囲まれた狭い世界に暮らす小生にとって、
一族と館、しいては知り得る世界そのものであった。

先の地震では落ちた繪画も多かったが、
不思議とこの繪は無事にあった。
・・・そろそろ掛け具を替えてやった方が良いかも知れぬ。





 


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