「象ノ足」






十数年も前になるだろうか、大きな包みが届いた。
開けてみれば、幾十も新聞紙にくるまれた中から
象足が出てきた。

本物の象の足である。
強いナフタルの匂いが辺りに漂うた。
身を刳り貫かれた皮は、炭をなすりつけたように黒く、厚く硬い。
強張った表からは、指一節分ほどの毛が処々生えている。
裾には鈍色のひづめが三本。
内と底には黒い綿布が木乃伊のように張られている。
触れば薄墨様のものがうっすら指に付いた。
思いの他重い。

果たして、如何なる経緯でこの象足を手にしたのであったか。
何かの礼に知人が寄したのであったか。
或いは、誰その異国土産のつもりであったのか。
そもそも一体これは飾るべきものなのか、容れ物として扱うべきものなのか。
皆目見当の付かないままである。

いづれにせよ家人は困り果て、
早々に蔵へ仕舞ってしまった。
以来、象足は仕舞われたままになっている。

今日、久し振りに出してみた。
ナフタルの匂いは既に消えて久しい。





 


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