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エッセイ集
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結 婚 式 寸 描
吉 田 大 治

 十、十一月はいわば結婚式シーズンで、日曜日ともなると、中には一日で二十組以上のカップルを生産する大手ホテルもある。披露宴に招かれる方も大変で、列席した場合の御祝金も最低三万円といわれている。親戚や知人の結婚が二つも三つも続いたなら、家計を圧迫することは間違いない。
 いっぽう、真夏や真冬のシーズンオフに挙式する人もいる。こういう人の大半は学校の先生であるか、または早くも間違って妊娠してしまいとてもシーズンまでまっていられない人々である。
 結婚披露宴専門のプロ司会と呼ばれる人々が関西でもたくさんいる。友達に司会を頼むより安心でしかも要らぬ気を使わなくて済むので結構重宝されている。数えたことはないが、私もおそらく三百組以上の披露宴を司会したと思う。子供も生まれて幸せな家庭生活を送っている者もあれば、すでに離婚してしまっているカップルもある。詳細はわからない。
 披露宴全体の雰囲気は、およそ新郎のキャラクターが反映されるといってよい。打ち合わせの時に初めて新郎新婦に会って、新郎が暗ァ〜い人だったら、その日から結婚式の当日まで、司会者は憂鬱な日々を過ごすことになる。類は友を呼ぶというのは真実で暗い人々ばかりが集まり、それを盛り上げるために通常の倍以上疲れる。葬式の司会もしたことがあるが、どうせ暗いのなら葬式の方が楽である。盛り上げなくて良いし一時間で済んでしまう。逆に新郎が目茶苦茶な人でも困る。飲めや歌えの大騒ぎ、ただの酔っぱらいの集団となり収拾がつかない。
 新郎のキャラクターとも関連するが、新郎の職業も大きな影響力を持つ。私が常日頃披露宴の司会をあまりやりたくないと思っている新郎の職業として、まず坊さん、警察官、学校の先生、医者などがあげられる。これらをよく見ると、なんと聖職といわれる職業ばかりである。
 まず最初にあげた坊さんであるが、結婚式は仏式で挙げるため新郎の衣裳は黒か紫の法衣で、頭は当然ツルピカに剃ってある。そんな人が嫁さんを連れて入場し、ウェディング・ケーキに入刀したりするのだから、異様な光景としか言いようがない。それに仏前の結婚式といえば、玉串奉奠の代わりに焼香、指輪交換の代わりに数珠の交換をやるそうで、ケーキにナイフを入れている手には、その数珠がキラリと光ったりしている。
 異様といえば列席者のほうも負けてはいない。新郎側の列席者は半分以上が坊さんで、黒い着物を着て座っているのはまだマシなほうで、黒いスーツなどを着て来られると、頭がツルピカなだけにとてもまともな職業の人には見えない。おまけにご丁寧にサングラスなどを掛けて成りきっている人もいる。でもそんな人達も可愛いもので、乾杯が済んで宴会になると、ビールびん片手に方々に挨拶に回って名刺の交換などをしている。行儀の方はすこぶる悪い。最後に誰がどの席なのか分からなくなったりしている。また人前で話をすることを何とも感じない人ばっかりなので、スピーチをさせると長くてクドイ。
 あまり坊さんの悪口ばかり書くとバチが当たりそうだが、よく考えてみるとお寺に生まれたばっかりにこんな結婚式をしなければならないお坊さんのほうも、気の毒といえば気の毒である。
 次の警察官のはうは長いスピーチで困ることはないが、日頃堅い仕事ばかりをやっているせいと多少体育会系のノリも加わって破廉恥になりやすい。司会者が新郎にインタビューして「新婦の何処が気に入りましたか?」と質問すると、すかさず列席者の中から「あそこ!」と声がかかり、新婦の父親を怒らせてしまったこともある。
 学校の先生はやはりスピーチが長く、特にお遊戯や替え歌を得意としている。中には生徒の声をテープに録音してきて、披露宴で聞かせる人もいる。やっている本人はよかれと思ってやっているのだろうが、中には生徒全員に一人一人にしゃべらせて二十分以上も録音してきて、しかも全部かけてくれと言う人がいるので困る。全部聞かされる者の身にもなって欲しい。
 最後の医者であるが、話が長くてつまらないばかりでなく結構プライドが高かったりしてやりにくい。金に糸目をつけず豪華にやるが、全体の雰囲気は地味を好む人が多い。しかし私が問題にしたいことは、医者の結婚式というと薬屋からの祝電がドッと山ほど届くことだ。開宴前に段ボール箱いっぱいの祝電を受け取ると読む気がしなくなる。
 以上、職業別結婚式の状況である。私も色々な職業の人の結婚式を司会してきたが、今度新しい法律ができて取締りを受けるようになった職業の人のだけはまだやったことがない。やったことのある人に聞いてみるとやはり怖くて異様な雰囲気だったそうだ。
 だいたい話の下手な人はど長い傾向にある。この人は話が長くなると思ったら、司会者もありとあらゆる手段を講じて話を終わらせようとアピールするが、そんな人に限って何も感じないのである。
 高い御祝金を出して長い話を聞かされて、おまけにスピーチを頼まれでもしていると、おめでたいはずの結婚式も最後まで楽しめないものとなる。しかし当人達にとれば一生に一度のこと、せめて司会者だけでも明るく楽しくご陽気に・・・・・・。

(1992年秋「てまり文庫」第8号に掲載)


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