携帯電話とPHS


今や、爆発的な市場の広がりを見せた移動体通信分野。ちょっと昔まではビジネスマンのための 高価な機械だった携帯電話は各社の競争によりコストダウンがはかられ爆発的な普及をもたら しました。さらに、PHS(Personal Handyphone System)のサービス開始により、料金的にも ポケットベルと変わらなくなり通話料も公衆電話並ということもあり、あっという間に高校生を 中心に普及するに至りました。 メーカー側では当初、携帯電話ユーザーはあっという間にPHSに乗り換えるだろうと予測して いましたがまだPHSの利用範囲が携帯電話に比べて狭いこともあり現在の所は携帯電話の 伸び率が高くなっています。 97年夏現在、PHSは頭打ちの状態にありますが将来的には1億人ユーザー(つまり、 子供や老人が持たないとしても一人2台)に発展するといわれています。
さてこの携帯電話とPHS。どう違うのでしょう。一般的によく知られているのは 携帯電話は新幹線などの乗り物の中でも使え、PHSは地下や公共の建物でも使えるということ でしょうか。また携帯電話は出力電波が強く遠くまで電波が届くので一つのアンテナで広いエリア をカバーするのに対し、PHSはどちらかというとコードレス電話の拡張版ということで出力電波が 弱く一つのアンテナでカバーできるエリアが小さいので2〜300メートルおきに小さなアンテナが 町中の至る所についています。

このように広いエリアをセルに分けて一つのセルに対し一つのアンテナを建てて、携帯電話やPHS の電波を受信する方式をセルラー方式といいます。 携帯電話に比べてPHSのセルは小さいのです。
携帯電話のようにセルが大きいとアンテナが出す電波も携帯電話が出す電波も強くなければなりません。 (つまり携帯電話の方がたくさん電力を消費する。)しかし、同じエリアをカバーするのに少ない アンテナですみます。一方、PHSのようにセルが小さいと電波は弱くてすみますがたくさんのアンテナが 必要となります。
また、同じのセル内にいるユーザーに対してそれぞれ異なった周波数を割り当てる必要があります。 しかもそのセルで使用した周波数は、隣接するセルでは使用できません。なぜなら、セルの境界付近 でお互いに干渉してしまうからです。周波数は無限にあるわけではなく有限の資源です。(周波数は 無限にあるが携帯電話やPHSのために使用できる周波数は決められており、さらに大気中で使用 できる周波数には限りがある。)つまり、セルが小さい方が周波数の効率的な利用ができるわけです。 この点、PHSは携帯電話よりも周波数の有効利用をしているといえます。

では、携帯電話は限られた周波数帯を多くのユーザーに割り当てるためにどうするか。 一人一人のユーザーに割り当てる帯域を小さくするのです。 もちろん帯域が小さくなると情報の伝送容量(つまり1秒間に送れる情報の量)は小さくなります。 そこで、携帯電話ではPHSよりも少ないビットレートで通話できるようにPHSは違ったデータの 送り方をしています。

「A/D変換」のところでアナログ信号のディジタル化(電話の場合は PCM)を説明しましたが、携帯電話ではアナログ音声信号をそのままディジタル信号にして送ってい るのではありません。
携帯電話は音声のさまざまなサンプルを記憶しています。 そして、携帯電話に向かってしゃべると、携帯電話はその音声がどのサンプルに近いか、そしてその サンプルとどのくらい異なっているかというデータを発信するのです。受信側の携帯電話も 同じサンプルを持っているので送られてきたデータをもとに音声を合成します。
このようにして、通常の電話回線では64kbit/sec(1秒間に64kbitという意味) のデータを送っているのに対し、携帯電話では3〜4kbit/secのデータ通信で通話が可能です。 (実際にはこれに2〜3kbit/secくらいの誤り訂正符号が足されますがそれでも通常の回線の10分の1以下です。) こうして携帯電話は割り当てられている限られた周波数帯で多くのユーザーと通信することが可能なわけです。

一方のPHSはセルが小さいので同一セルやその隣接セルにいるユーザーの数は携帯電話に比べてぐっと少ない ので一人に対する周波数帯は携帯電話よりも広くできます。つまり携帯電話よりも伝送容量(単位時間あたりに送る ことのできる情報の量)は大きくできます。実際にPHSは携帯電話よりも伝送容量は大きいのですが PHSも通常の電話回線とは違った方法でデータを送っています。
PHSの場合にはアナログの音声信号をサンプリングした後、それぞれの時間における値を次々と 送り出すわけですが、値をそのまま送るのではなく一つ前の値とどれだけ違うかというデータを送ります。

簡単にいうとPHSはセルが小さいので周波数の効率的な利用ができ、伝送容量も大きく取れるのに対し、 携帯電話はそれを技術でカバーしているのです。技術という点では携帯電話のほうかより多くの技術が詰め 込まれています。(逆に言えば機械が複雑でコストもかかるということだが。)

さて、よく携帯電話は自動車が走ってても通話できるが(運転しながらの通話危険なので止めましょう。) PHSはできないとよく言われています。これはちょっと間違っています。
実際、条件がそろえばPHSでも時速100kmくらいまでのスピードなら通信できるといわれています。 PHSの一つのセルは小さく、自動車などに乗ってるとすぐ次のセルに移ってしまいます。 次のセルに移動したした時に通話のための回線(周波数)が空いている場合には、電波が自動的に 切り替えられて通話を続けることができます。しかし、PHSの場合一つのセルにある通話のための 回線(周波数)はそんなに多くありません。つまり、誰かが使っていて回線に空きがない場合 通話(回線)が切られてしまいます。このためPHSは自動車に乗ってると次々とセルが移動し 回線の空きのないセルに入ったとたん通話が切れてしまうので、自動車に乗ってると通話できない といわれているのです。
一方、携帯電話は一つのセルが大きく、一つのセルにある程度たくさんの回線が準備されており、 さらにPHSよりも電波が強いので新幹線に乗ってても通話できます。(新幹線の線路沿いは すべてエリアに入っている。)

もう一つ携帯電話とPHSの違いがあります。携帯電話は4〜5秒に1回電波を出して 自分がどこにいるかを常に制御ネットワークに伝えています。これに対し、PHSは 電源を入れたときとエリア(着信の呼び出しをかけるためのセルの集合)が変わったときにのみ 電波を発信します。
それとPHSはアンテナから通常の固定回線(一般の家庭用の回線)と同じ交換局に接続されますが、 携帯電話は独自の回線網を持っています。(このため現在、同じ会社の携帯電話同士の通話は 自社の回線のみ使用するので固定回線からかけるのより安いのです。)

僕自身も携帯電話を持っていますが、通話料が高いんでもっぱら友達からかかってくるだけの 着信専用です。めったに携帯電話からかけないんで月の通話料も何百円程度。理系ということで 大学で1日中実験してることもあるしあと、下宿でいてもネットワークにつないでて友達から 電話がつながらないっていわれることもなくなり便利といえば便利です。
ただ携帯電話での長電話については、いろいろ議論があります。そう、あの巷で噂されている 電磁波の人体に対する影響です。これについては電磁波は危険か??? で詳しく説明しますが、はっきりいって現在の段階ではよく分かっていないということです。 ちなみにうちの電波工学の先生は「携帯電話の長電話は誰も安全の保障はしていない。」 っていってます。 まぁ、お金もかかるし長電話には注意しましょう。

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N.Wakayama update November.19.1997