「亀屋町の町家」 -京町家改修-
明治後期に建てられた築100年の京町家を、洋菓子の製造および販売、カフェスペースとしての使用を前提とした店舗兼住居へと改修したものです。
古い建物に住み続けるためには、必要に応じて修繕をしたり、手を加えたりといったケアが欠かせませんが、時流に流された安易な改修工事のために建物本来の機能や魅力が失われている例も少なくありません。これは伝統的な京町家にもいえることです。
幸いにして「亀屋町の町家」は、代々、住まい手の建物に対する愛着を感じるに十分なコンディションで維持されており、町家本来の洗練された暮らしのようすをうかがい知るに足るだけの建物でしたから、建物の声にそっと耳を傾け、飲食店として必要な設備機能を後年増築された倉庫部分に付加することで補い、母屋はそのままいかしながら、失われつつあった庭の浸透性や調湿機能を回復させ、しっとりとした、風通しのよい、陰影のゆたかな佇まいを過たず継承することで、ここを訪れる方々に京町家の魅力を体感していただければと思います。
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② 柱から建具、出格子に至るまで、繊細な「線」で構成された伝統的な建物は、昨今の建物では得られない美学が貫かれている。これは最小の材料で最大の効果を得るための知恵。構造的な欠陥や目立った損傷もないため、一部の鴨居や建具の修正、障子やフスマの張替えを除いては、可能な限り現状のまま手入れをして使用している。写真はいずれもカフェスペースとなる「オモテノマ」と「オクノマ」。家具や照明のコーディネートはショップオーナーによるもの。
③ 住居の台所となる「トオリニワ」。もともと薪で煮炊きをしていたものを、ガスの導入にあわせ白いタイル貼りの調理台や流しに改修された50年以上前の面影をいまだにとどめている。二槽の流し台は、内井戸に設置した手押しポンプから汲み上げた水を片方の槽に汲み置き、もう一つの槽で調理や洗い物をおこなうつくりになっている。現在は水道が取り付けてあるが、ほぼ当時のまま使い続けている。写真は改修前の撮影で、改修箇所はタイルの補修、老朽化したガス管と電気配線および照明器具の調整のみ。
④ 後年、敷地奥に増築された鉄骨造の倉庫を洋菓子製造の工房に改修。オーブンなどの機器による熱負荷を抑えるための換気計画を重視し、既存の開口部をフィルター付きの給気口に、オーブン全体を囲うように取り付けたフードからダクトを通して天井裏より上階を経由して、近隣家屋に臭いや熱の影響を及ぼしにくい位置に排気口を設けることで、コンパクトな工房で調理に集中できる環境をつくり出している。各種設備配管は既存壁や構造を傷めないよう配慮。
⑤ 母屋より庭をのぞむ濡縁づたいにアプローチする客用便所。窓はガラスさえも使用せず障子のみで、過去の丁寧な修繕によって町家本来の姿が維持されている。店舗便所に欠かせない手洗い器は床置きのカウンター式とし、給水は便器用の止水栓から分岐し目立たないよう露出で引込み、土壁を傷めないよう取り付けている。棚と一体化した鏡もしっくい壁を傷付けないよう、天井より吊り下げ取り付けている。いずれもショップオーナーが発注した特注品。
⑥ しばらくの間手入れを怠っていたと思われる庭は、植栽の状態も悪く、濡縁屋根からの雨を受けた樋の水が直接庭の地面に放流され、じめじめとした不快な湿気が人にも建物にも好ましくない状態。調査の結果、庭の下に何箇所か雨水を落とすピット状の空洞部があり、そこから地中に自然浸透する仕組みであることが分かり、浸透機能を復活させゴロタ石や砂利を敷いて明るい印象に。樋は横引きでピット付近まで延長し、竹筒で化粧(写真右手前)。植栽は主木のイロハモミジが強剪定により見栄えが悪いため、別品種のモミジ(ノムラモミジ)を対になるように植えることで彩を与え、背後に常緑樹のアラカシを加えることで主木を引き立てるよう修正。右後方の白い壁はしっくい塗りの土蔵。
亀屋町の町家(改修)
所在地/ 京都市中京区釜座通竹屋町下る亀屋町
施工/ 小川工務店
構造/ 木造2階建一部鉄骨造
敷地面積/ 160.56㎡
建築面積/ 119.23㎡
延床面積/ 219.78㎡
「Marque-page(マルク・パージュ)」
TEL&FAX : 075-252-5678
10:00~19:00営業、火曜日定休