竹トング
普段私たちが目にしている竹工芸品のスタイルは、おそらく江戸時代頃に完成され、その技術を代々磨き伝えてきたものと想像しますが、素材の特徴を余すところなくいかした「用の美」も、20世紀以降の急激な生活様式の変化によって、どこかにズレを生じてきているように思えるのです。
実際、竹工芸を手がけるメーカーも、環境面でも優れた竹という素材を何とか役立てたいと、製品開発に取り組んでいるようですが、まだズレを埋めるまでには至っていないようです。そのズレとは、現代の生活環境のなかの素材感が非常に薄くなっていることに関係しているのではないかと考えています。つまり、家電製品に代表されるような樹脂成型による自由な形態や色彩の氾濫、無機質な建材たちに支配されてしまって、「竹の持つ天然の素材感が調和しきれていない」という印象を受けるのです。
そもそも、そのような住環境自体がおかしくなっているわけで、地球環境が破壊されつつある事実がそれを証明しているのですから、当然そのあたりの修正が必要なのですが、それには時間を要するため、平行して環境に負荷の少ない、しかも日本人にとって身近な素材である竹を、より違和感なく取り込める製品の開発をおこなうべきだと考えました。
たとえば、家具のような大きな部材には、竹集成材のような技術の応用が有効ですが、ちょっとした生活道具であれば、特殊なプレス機や接着剤など使わず、簡単な工具と伝統に培われた職人の腕のみで、量産的なモノづくりが可能なのではないか(職人技術の必要ない量産品であれば、中国製品には競合できませんから)と…。そこで考えたのが、竹の表面、つまり竹の特徴でもある青い皮の部分を削った際に現れる繊維の部分を、ちょうど木材にカンナをかけて木目をだすような要領で、視覚的な個性を和らげながら、木材の持つあたたかみとは異なる、しっとり・すべすべした「手触りのよいモノ」を。ひとつのパーツで金具はおろか組み立ての作業も必要ない、竹細工ならではの「曲げ加工」を取り入れたプロダクトをつくる、というアイデアです。
そこで、何気なくて目立たないけれど、皆が日々手を触れる生活道具。それも普段目にするモノが金属に象徴されるような、どこか冷たい感触の印象があった「トング」を対象としました。すっきり素直な竹の繊維の表情が食材との相性に優れているのでは、とも考えたからです。竹特有のバネのある粘り具合が、トングに必要な機構と合致するのも好都合でした。金具や別部材を使うこともなく、伝統の曲げ加工が応用でき(アルコールランプの炎のみ使って数秒間で完了します)、それ自体が立派なデザインとなり得ます。必然的に発生する節の跡もしかり、「竹のアイコンとしてデザインになる」というわけです。
「竹トング」は、2010年に京都工芸繊維大学での「サスティナブルデザイン力育成プログラム」に一般参加した際に、製品の企画・デザイン、および自力による制作を試みたものです。詳細につきましてはお問い合わせください。
●竹トング(プロトタイプ)
サイズ : L≒215
W≒85
H≒42
素材 :真竹(切削加工および曲げ加工)
オイル・フィニッシュ(くるみ油)
・径10cm、長さ50cmくらいの真竹を四分割した部材が、トングひとつ分の材料となります。