いま考えていること 133(2003年05月;9月;10月;2004年1月)
――イラク戦争を振り返る(4)――

「萬晩報」というメール配信の論調が送られてきますが、興味深い記事に出会うことが多いのです。今朝受信したドイツ在住ジャーナリスト美濃口 坦氏の記事は「ドイツ人考古学者からのバクダッド便り」でした。このドイツ人考古学者というのはヴァルター・ゾンマーフェルト教授(マールブルク大学)でドイツとイラクの間を発掘の仕事で行き来する人のようです。

興味を持ったことがいくつかありますが、バクダッドの陥落が意外に早かったのは、アメリカの軍事力の巨大さを感じたイラク軍の幹部が軍事的抵抗の無意味さを感じ、サイフ・アドーディン・アルーラウイ大将が4月8日抗戦停止命令を出します。同大将はフセインによって銃殺されましたがもはや軍の戦意の喪失を阻止できなくなっていたというのも新たに知った事実でした。現在のイラクは無政府状態で、アメリカは人々の生活の上での困難を放置しているようです。新しいイラクの支配を狙う勢力にはアメリカに支持されたイラク国民会議・アハメド・チャラビ代表のグループ、イランと近い関係にあるシーア派、バクダッド周辺のスンニ派などがありますが 、チャラビ代表のグループは資金は豊富だが「外国人」と感じられて誰にも受け入れられていないといいますし、シーア派はアメリカの支配に反対ですから徐々に民主的手続きを経て支持を固め、将来はイスラム国家を作るのではないかと見られているようです。ゾンマーフェルト教授は触れていないのですが、イラク戦争を振り返る(3)に書いたようにクルド族の動きを考慮すると下手をすると内戦勃発の危険さえ感じます。スンニ派は組織されていないようですが、シーア派の支配には反対のようです。バクダッドでの政府機関やフセイン宮殿への略奪騒ぎもアメリカの誘導があった兆しも記されていますが、アメリカは占領軍への反感をそらすためにフセインの独裁制への批判へ人々の関心を向けたようです。イラクの人達の間には生活の困難を克服するためには「穏やかな独裁制」願望さえあるようです。しかし、人望もありまとめる力も持つ指導者がいないのです。

イラクの経済制裁の解除は国連安保理で承認されましたが、この承認がアメリカの侵略的なイラク侵攻を後追い承認する終末を危惧させますが、いつまでも現実を放置するわけにも行かず政治的には制裁解除承認になるのも止むを得ないものかも知れません。この承認で、石油利権の支配はアメリカに委ねられましたが、イラク人自身の政権樹立を中軸として、石油利権を含む新生独立イラク誕生までには長い時間が必要になる気がします。

“イラクで大量破壊兵器を見つけようとしていた米軍査察チームが近々帰国の 途につくそうです。さがしても何も出て来ないからだそうです。”とも書かれていました。

(5月26日追記)今朝の毎日新聞「イラク戦後のG8」という記事の中に、安保理事会のイラク経済制裁解除4時間後に開かれた米上院外交委員会イラク復興に関する公聴会の発言が出ていました。どうも楽観的なものではなさそうで米軍駐留の長期化予想、原油生産のために必要な設備投資の巨大な見積もり予想などに懸念と政府批判が鋭くかわされたようです。今度のG8のアメリカ側の目的は、石油管理、親米政権の樹立、米軍駐留は譲らないが、費用もかかるその他の治安維持、インフラ整備、人道支援などに国際社会の分担を導入することにあるようです。早くも日本はこの方向で動き始めています。

(9月20日追記)今朝の毎日新聞“世界の目”「米英は危険な「疫病神同盟」」という記事の中に、南アフリカの作家コリン・スマッツ氏は次のように述べている。

この危険な同盟により、世界は非常に物騒な場所となった。つまり、米英から拡散するテロ(被害)に関する偏執狂的行動が国際政治の支配的なテーマになったのだ。(米英の)思考形式の異常さは、テロ行為を生む原因の分析を許さず、テロ事件に反応するだけだ。 我々はこの忌まわしい同盟に抵抗し、挑戦するため、健全な考えと、両国の正しい思考力を持つ人々を必要としている。

基本的にはこの主張に同感です。来るべきアメリカ大統領選挙に期待を持ちます。

(9月25日追記)今朝のasahi.comによると、イラクで大量破壊兵器(WMD)の捜索をしている米中央情報局(CIA)のデビッド・ケイ特別顧問は、「WMDの具体的な証拠は見つかっていない」という内容の暫定報告書をテネットCIA長官に近く提出するということです。

(9月29日追記)今夕の毎日新聞は、米下院情報特別委員会は4ヶ月にわたる調査の結果として、イラクの大量破壊兵器に関してCIAは古くて断片的な状況証拠しか持たず、情報収集能力に「重大な欠陥」があると指摘する書簡をテネットCIA朝刊に送った、と報じています。

(10月28日追記)萬晩報2003年10月25日堀田佳男氏の見解では現在やはり共和党の基盤は堅く、結束の度合いが高く、資金的にも豊富で来年の大統領選ではブッシュ再選の可能性が高いとの見方です。

(2004年1月13日追記)オニール前米財務長官がイラク戦争に絡み、「ブッシュ政権は同時多発テロ発生以前の01年春、政権発足直後から、フセイン(イラク元大統領)を取り除く必要があるという信念があった」と米CBSテレビに語りました。これは同時多発テロの前からイラク戦争を始める意図があったと示唆したものです。日本時間12日午前自らが出席した会議のメモや資料も示して、ブッシュ政権がポストフセイン後の統治計画や石油権益についても当時調査を始めていたことを暴露、批判しました。 オニール前長官は機密書類を 持ち出した疑いが かけられていることについて、「財務省の法務責任者の許可を得て 入手していて、 機密指定のものがあるとは 思わなかった」と 発言しています。

。  ウォールストリート・ジャーナル紙の元記者が近く出版するブッシュ政権の内幕を描いた本「忠誠の代償」にもオニール氏は協力していて膨大な在任中の資料を提供したといわれ、「国家安全保障会議で、なぜイラクを侵略すべきなのか、だれも疑問を呈さないのに驚いた」「大統領は、イラク戦争を実行する方法を探し出せ、と言っていた」などと証言しているといいます。

(2004年1月14日追記)「忠誠の代償」が発売されました。その内容は恐るべきことが暴露されています。毎日新聞14日夕刊中島・竹川両記者の記事によると、政権発足10日後に開かれた最初の国家安全保障会議(NSC)(01年1月30日)の主題は中東政策で、イスラエル・パレスチナ問題でブッシュ大統領は政策をイスラエルよりに戻すと宣言。引き続き話題はイラクに移り、大統領は▼01年の湾岸戦争当時の軍事連合の再構築▼イラク南部・北部への米軍投入▼イラク反体制派への軍事支援▼新たな対イラク経済制裁▼情報収集力の改善を担当長官に指示し、2日後のNSCでは「フセイン政権後のイラク危機のための政治・軍事計画」などの文書が討議資料とされました。経済政策ではチェイニー副大統領やカール・ロープ大統領上級顧問が01年大統領選挙での支持者への“借り”を返す必要を説いて譲らず、中間選挙後の追加減税案にたいするオニール氏の懸念を押し切ったといいます。この反減税姿勢がオニール財務長官を更迭に導いたのです。

(2004年1月24日追記)asahi.comによると「米調査団団長としてイラクで大量破壊兵器(WMD)の捜索に当たってきたデビッド・ケイ氏は23日に辞任し、ロイター通信に対し、「イラク戦争が始まった段階で、イラクに生物・化学兵器の備蓄があったとは思えない」と語った。イラクの核兵器開発は初期段階とみられており、ケイ氏の発言は、開戦時にイラクが核、生物、化学の3分野にわたるWMDのいずれをも保有していなかったことを強く示唆するものだ。  調査団のトップがWMDの存在を否定したことで、ブッシュ政権が戦争開始の最大の理由に掲げたWMD問題の信頼性をめぐる議論が大統領選の争点として再燃することは必至とみられる。」

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いま考えていること 134(2003年05月)
――世間の波から一歩離れて考えよう――

昭和初期には肥料会社が全盛で大学の化学科卒業生の多くが就職したといいます が、早くも昭和20年の敗戦後には壊滅に近く、30年前、収入もよく身分も安定もしていると思われた銀行に自分の将来の夢を賭けた多くの文科系卒業生も現在は夢の挫折を味わう時代となっています。近くはバブル期の建設ブームの中で建築科志望の高校生が溢れました。現在ピークにあるものに、もはや未来はなく坂を転げ落ちる運命が待っている。これが私の考えです。人間金に眼を奪われると、道を踏み外してしまいます。本当にやりたいことを見付けて苦しくても志しを立てたいものです。この様なことを書こうと思ったのは、甥の家業は種苗業なのですが、もはや国の森林政策の不毛から未来への展望が開けないので、跡取り息子には家業を継がせず医師への道を歩ませようと考えているようで、私にはそう簡単には賛成しがたいものを感じるからです。医師は人の命を救う職業ですから尊敬に値し、立派なよい職業です。ただ医師になろうとした動機にもし安定した、収入のよい職業だという意識が働いていたのなら、やめておけといいたいのです。もはやこれから医師は儲かる職業ではないと思います。本当に医学を修める純粋な希望があるのなら医学部進学大いに結構です。しかし甥の息子に勧めたいのは東大農学部の森林科学科です。自分の家に実験林も持ち、祖父も父も実力のある森林育苗専門家なのですから、その生き様と経験を継いで健闘してほしいのです。確かに森林育苗はもはや斜陽の分野に見えますが、無くてよい分野ではありません。他の大学でなく東京大学を勧めるのはこの大学はさすがに歴史といい、予算規模といい恵まれていて懐が深く、他の大学では存続できないような基礎的な地味な分野でもしっかり抱え込み伸ばすだけの力を持っているからです。現在ピークにあるような分野はもはや衰退の道を辿る分野で、もう一歩先を眺望して未来に必要な分野に志を置くべきだというのが私の考えです。お金は入ってこないかも知れません、しかし、その道を歩んだというかけがえのない満足という報酬が得られます。

1990年頃の株や土地のブームを覚えておられるでしょう。一億総不動産屋の趣がありました。マスコミなどでブームを報じるときはもはやピークで、この時点で煽られて私も一儲けと株や土地・投信を購入した人はトランプのジョーカーを掴んだような結果になったことは多くの人の経験したところです。
現在のデフレ進行中という条件の下では、原則としては株による投資は勧められません。しかし金融、中でも銀行以外の企業はかなり改革を進めているとみます。新しい努力と発展の芽を感じるのです。例えば三洋化成やソニーは最近2006年を目標とした計画を発表しましたが、私は両者ともに見るべき展望を持っていると思います。神戸製鋼も底から脱却できる目途がついてきました。未来への夢など描きにくい現状ですが、考えようによっては株価も異常なまでに安く、買い時でもあります。これも短期的な株売買の儲けを考えるのではなく、一投資家としてその会社の姿勢と計画を分析検討した上での話ですが。私も多少この考えを実行に移しています。

イラク戦争以来小泉さんも中東訪問・ヨーロッパ訪問・米国訪問・サンクトペテルブルグ訪問・中国胡錦濤主席との会談・G8と大忙しのご様子ですが、脚下照顧も必要です。イラク復興の使命感も誰に対するものでしょう。それよりもまず国内の中途半端な改革完遂にもう少し情熱を燃やしてほしいものです。イラク復興といわれても最大の破壊責任は米英にあり、忌憚なくいわせてもらうと日本人にとっては対岸の火事です。日本が本当に経済的に復興することの方が世界への貢献では無いでしょうか。あわててアメリカのお先棒担ぎに積極的に専念するようでは、民主党の菅さんだけでなく世界から“金魚の糞”と見なされることになりそうです。人間万事まず自分のなすべきことを果たして信用を得なければ、何を言っても人は信じてはくれません。

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いま考えていること 135(2003年06月)
――光る一言――

国会で「武力攻撃事態法」「改正自衛隊法」「改正安全保障会議設置法」の有事三法案が今日成立しました。新聞はゴミの回収日に出しておくと古紙回収業の人が持って行きます。今夜の毎日新聞夕刊にはこれら三法案に対する識者の言葉が出ていましたが、古紙として没滅させるには惜しい光る一言もありました。ここに記録して残しておこうと思う言葉です。私は賛同します。

“「有事」とは、数十万人の外敵が、制空、制海権を確保して上陸侵攻し、国土が焦土と化す国土戦だ。周辺諸国に仮想敵もないこの時期に、国民に国土戦を戦えと迫る立法が適切であったのか。治安問題に過ぎぬ北朝鮮の工作船や米国へのテロが、国民の危機意識をあおることになった。
国土が戦場になるというのに、自衛隊員以外の一億の国民は戦うのかどうか、全く明らかにされなかったのはなぜか。原発が52基もある狭い国土で、どう戦い、かつ成算はあるのか、その戦術論もなかった。
「自衛隊は抑止力であり、国土を戦場にしてはならない」。これが当時のわたしたちの願いであり、有事法制はあくまで「研究」に留めた。国民を挙げて戦うには、国家総動員法や国民皆兵制度が問題になる。政府の見解を明らかにすべきであろう。”これを言った人は福田内閣の竹岡勝美・防衛庁官房長です。

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いま考えていること 136(2003年06月)
――多面的な内容の「しんぶん赤旗」――

今日は新聞休刊日なので昨日配達されたが読まないままになっていた共産党の機関誌「赤旗」をじっくりと見ました。党員ではない私にとって平日挟まれてくる別刷り「日本共産党学習・党活動のページ」は見もしないし、記載されている見解も例えば生活の安定・福祉の充実を主張しても、かってのソ連社会主義の教訓もあり、やはり企業収益が上がらないと財源は確保できないのですから経済については共感できないものも多いのですが、政府や与党に最も鋭く対立する政党共産党の見解は物事を多角的に捕らえる資料となるので欠かせません。

政党の発行する日刊紙ですが、内容は多面的です。昨日日曜の紙面を見て、まず眼を引かれたのは名作映画「戦場のピアニスト」の主人公シュピルマンの息子さんとの大内田編集局次長とのインタビュー記事でした。息子さんは現在英国籍でその為か名前もクリストファー・スピルマンとお呼びするのですが、九州大学の非常勤講師をされています。インタビューに書かれた「父はいつも人間を人種とか集団で判断するなと言っていました。一人の人間として見ろと。・・・・・自分が何ものであるかは自分で決めればいい、「私はピアニストだ」それが父の価値観だったわけです。」という言葉が印象に残ります。
赤旗の記事で光るのは外信記事なかでも赤旗特派員の記事です。前にも「いま考えていること 131(2003年05月;6月)―イラク戦争を振り返る(2)―」でイギリスの地方選挙の結果のことを書きましたが、私の見ている日本の新聞で書いていたのは赤旗だけでした。昨日の外国記事でまず眼を引いたのは生物兵器施設と報道されているイラクの“トレーラーには滅菌装置がないので疑問だ”というニューヨークタイムズの記事でした。稲熱病菌の研究経験のある私には、滅菌装置がない生物化学研究は考えられないのでこの記事は意味のあるものでした。(注もご覧ください)
もう一つは、パウエル米国務長官も安保理で紹介賛美した英情報機関文書が、実は学術論文の無断コピーであったことは広く周知の事実ですが、このもとの論文の著者イブラヒム・アルマラシ氏が5日付デリー・テレグラフ紙に“自分の論文には(イラクは)「敵対国の反体制組織を援助する」と書いたのに英情報局はこれを書き換えて「敵対体制のなかでテロリストのグループを支援する」とし、またブレア首相が英情報文書を引用し「イラクは四十五分以内に生物・化学兵器を配備・使用することが可能だ」と述べた点についても「このような数字を公にすることは英政府に適切な研究機関がないことを示すだけだ。プロフェッショナルな分析家はこのような数字は明らかにしない」と指摘”という赤旗特派員記事でした。(注もご覧ください)
“伝説の舞姫「崔承喜」”は現在その生涯をたどっている西木正明氏の文章でしたが、崔承喜の名前を記憶する私たち世代のものには興味を引かれました。
内政に関係する記事では皆さん特定療養費ってご存じですか? 医者の領収書に「保険外領収金額」欄があり、ここで請求されているものには予約診療・時間外診療・200床以上の病院での紹介状ナシの初診料・200床以上の病院での再診料・180日を越える入院の場合入院基本料の15%まで(五万円ほど)が特定療養費になりその取扱は医療機関に任されているというのです。このようなことはこの記事を読むまで全く知りませんでした。特定療養費になるものは他にもあり、これも載っていました。

科学記事にも面白いものが三つほどありました。一つは2日付ネイチャー・マテリアル誌に発表されたヤモリの足の裏の毛の構造からヒントを得てポリイミド樹脂を使ってガラス板にも接着できる強力なテープが出来たというものです。マジックテープは貼り合わせるものの双方に毛がありますがこちらは片方だけでよいのです。二つ目は沖縄生物学会の発表からです。カニアナヤブ蚊が干潟などにいるミナミトビハゼという魚の血を吸うという記事で魚の血を吸う蚊の世界二例目ということです。もうひとつの東原和成・東大助教授のにおいの仕組みの話もかって文学部の学生に“においと化学”について講義した経験がある私には参考になりました。

連載漫画「まんまる団地」(オダ シゲ)もセンスのよいものです。昨日のは雷にあわてて帰ろうとする子供が傘を貸してあげようと言う人に自分のおなかも便意のためかゴロゴロいっているので“それどころじゃないんです”と走りすぎる情景が描かれていました。

万景峰号の入港が見合わせられたというニュースがありました。現在の日本では万景峰号というとミサイルの部品を日本から密輸するための船あるいは在日北朝鮮スパイへの指令に幹部がやってくる船という見方に凝り固まっていますが、そういう面を否定する気はさらさらありませんが、物事にはいろいろな側面があり、在日朝鮮生徒の修学旅行など平和的な側面も持つ船であることも忘れたくないのです。最近のように「ブッシュウイルス」が次第に浸透してきている日本では、物事を多角的に見る事ほど必要なことはありません。心なしか小泉さんの物言いにもブッシュ的高圧感が漂い出しました。これに反し、今日の盧韓国大統領のわが国国会議場での演説は、歴史に残る名演説で「ブッシュウイルス」を感じないものでした。
政党発行の機関誌的新聞“赤旗”も内容は多面的で、物事を多角的に見る資料として価値あるものだという気持ちからこの記事を書きました。

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いま考えていること 137(2003年06月;7月;9月;11月;2004年01月)
――よそ事ではない!情報の信頼性に対する疑いの帰趨――

先のイラク戦争開戦の引き金となった大量破壊兵器の情報をめぐって米英両国で次第に批判的取り組みの声が高くなってきています。政府の情報が国民を欺いて他国を転覆する軍事作戦の引き金になった可能性の追求です。私たちの国にもキナ臭い動きが次第に浸透してきていますが、先日承認された「武力攻撃自体等におけるわが国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」という長い名前の法律のなかには、武力攻撃予測事態が定義され「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう」と書かれ、第三条の2には「武力攻撃予測事態においては、武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない」といい、また第二十二条の三には「米国合衆国の軍隊が実施する日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置」が適切かつ効果的に実施されるようにするとなっています。

これら条文も他の法律と同様にいろいろな読み方が出来るのでしょうが、素人の私から見ると、

1.事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態という認識を誰がどうしてするのだろう? 日本の情報収集能力から見るとおそらくアメリカからの情報がベースになるだろう。それで大丈夫なのだろうか。イラク開戦時と同じような曖昧な情報に基づいて行動を開始しても大丈夫なのだろうか?

2.アメリカは危険に対しては先制攻撃を公言しています。敵国の武力攻撃を排除するためといってアメリカが先制攻撃を開始し、それが円滑かつ効果的であるためにわが国が行動すると我が国自体も誤った攻撃を自動的に開始する結果を招くのではないのか(自動参戦機構)? 攻撃開始と同時に国民は本土戦に巻き込まれ、先の沖縄での戦争のような悲惨な結果を受けなくてはならなくなります。俎上にのぼってきたイラクへの自衛隊派遣についても非戦闘地域に活動を限定すると言いますが、非戦闘地帯認定はアメリカから提供される情報に大きく依存するでしょう。こういうわけでイラク開戦で提供された米英両国の情報に実際にインチキがあると、今後も米側から提供される情報は信頼できず、イラク派遣自衛隊員を始め将来武力攻撃を前にした日本国民全体の運命を直接左右しかねない危惧があります。米英両国で盛り上がってきた大量破壊兵器情報への批判的取り組みの帰趨は決して私たちと無関係なものではありません。注目したいですね。(注もご覧ください)

(7月12日追記)ブッシュ大統領は今年1月、一般教書演説で「英国政府もフセイン元大統領が最近アフリカから相当量のウランを入手しようとしたことを突き止めた」と述べ、戦争を始める理由の一つに挙げてきました。しかし、その後の調査で証拠が偽造だったとわかったため、大統領は11日、外遊先のウガンダで「情報部門の許可を受けていた」と語り、CIAに責任を転嫁する姿勢を明確にしました。  これを受けてCIAのテネット長官は同日夕、2ページの声明を発表。(1)CIAは一般教書演説の配布前に(内容を)承認していた(2)私は一連の承認過程に責任がある(3)大統領は届けられた演説の内容が適切だと信じるのは当然だ、として一切の責任を負う考えを表明。疑惑を記した16語が演説に盛り込まれた経緯を説明したうえで、「16語は大統領の演説に決して入れるべきではなかった。これは誤りだった」と明確に非を認めました。CIAが責任を負う形になっていますが、米NBCテレビは、テネット氏が昨年10月、ホワイトハウス側に「情報は信頼できない」と伝えたが、ホワイトハウスや国防総省の対イラク強硬派がこの進言を無視したと報じています。いずれにせよ、アメリカCIAの情報あるいは情報操作された情報を信じることの怖さを示す一例となりました。

(7月21日追記)米中央軍空軍司令官モスリー中将は、表向きにはイラクの「飛行禁止区域」でのイラクの違反への反撃としてきたイラク戦争開戦直前までの空襲は、「サザン・フォーカス」という名の計画で、イラク軍指令管制システム崩壊を意図し、イラク軍の光ファイバー・ケーブル網と主要司令センター、レーダーを狙ったもので、フセイン政権に対する軍事作戦の土台の構築を目的とした、とネバダ州ネリス空軍基地で17日行われたイラク戦争の評価と教訓をテーマとした会議で証言(20日付ニューヨーク・タイムズWeb版)

(9月19日追記)AP通信にはチムニー副大統領、パウエル国務長官、トムソン保険国民福祉長官らが、イラクは細菌戦争を仕掛けて天然痘や炭疽菌などによる攻撃をする可能性があると表明した事例を列挙していますが、今日の毎日新聞夕刊は専門家チームが5月から7月にかけて現地を調査したが細菌所有の証拠は認められなかったと米軍当局者が証言したことを述べています。

(11月10日追記)asahi.comと『しんぶん赤旗』ワシントン特派員浜谷浩司及び共同通信によれば、イラク戦争中に捕虜になり、戦争のヒロインとして大々的に報道された元米陸軍兵士ジェシカ・リンチさん(20)が、米テレビのインタビューを受け、「私は利用されただけ」と軍当局の情報操作を批判した。
 米軍当局は3月23日にリンチさんが捕虜になった状況を「イラク軍に応戦した末、敵弾で重傷を負った」と広報した。しかし実際は、襲撃を受けて混乱した味方の車どうしが衝突した事故が負傷の原因だった。リンチさんは「本当の話を知っているのは私だけ」と、軍の広報を改めて否定した。
 米軍の特殊部隊は4月2日、収容先のイラクの病院からリンチさんを救出した。当時、劇的な救出場面が全米に繰り返し放映された。しかし、リンチさんは当時、ナシリヤで乗っていた車両が車列から取り残され「披露と空腹で頭が回らなくなり」車は「はじける弾丸の音や叫び声に包まれ」「動けなくなり」「ガソリンがなくなった」「手にした銃は作動せず」「一発も撃てず、しゃがみ込んで、そこで記憶が途切れた」病院には既にイラク兵は一人もおらず、交戦もなく、医師達は彼女を米軍に返そうとしたというのです。「誰も叩いたりはしなかった。女性看護師の一人は私のために歌を歌ってくれた」。「なぜ彼ら(米軍)が救出場面を撮影しているのか理解できなかった。私は負傷していて、救助だけが必要だったのに」と話し、軍当局の演出を非難した。さらに帰国後、戦争のヒロインに祭り上げられていることを知り、「真実を知らない人たちが物語を作ったことに傷ついた」とうち明けました。"
またアメリカの情報の裏側が一つ明らかになりました。簡単に『大本営発表』は信じるな、これが私のこれまでの経験からの鉄則です。

(2004年01月19日追記)本日のasahi.comによれば、
 『シンクタンクのカーネギー国際平和財団(ワシントン)は8日、「イラクの大量破壊兵器(WMD)は、米国や世界の安全保障に対する差し迫った脅威ではなかった」と分析する報告書をまとめた。「米国に気づかれることなく、数百トンの生物・化学兵器や何十発のスカッドミサイル、関連工場などを破壊したり隠したり、国外に持ち出したりできたとは考えにくい」と指摘している。
 米政府の国家情報評価報告書(02年10月)がWMDの脅威を強調した背景について、「情報当局が政策立案者から影響を受けたからだ」と指摘。ブッシュ政権中枢の「圧力」を批判した。』

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いま考えていること 138(2003年06月)
――今朝の想い――

日曜の朝は大抵サンデープロジェクトを見ます。今朝は長野県の田中知事が出ておられ国のこれまでの補助金政策がどんなに無駄を生んできたかを具体的に知ることが出来ました。道路補修も1500m以上ですと国から補助金が40%くらい出ますが、補修を本当に必要とする小規模な1000mだけの工事ですと補助金が出ないので、自治体が支出しなければならないお金はむしろ高くつく。そこで無駄でも1500mの工事をするというのもその例です。現在はもはや長野県では談合入札は無くなって工事費は以前の半分以下の費用で実施できているようですが、長野県でのこれまでの談合具体例が田中さんの後の番組でレポートされました。どうも一番のガンは役所の高級官吏が在職中退職後の天下りに備えて情報を業者に流しグルになって談合をお膳立てしていたことであったようです。

こういう事実を見ていると、やはり日本にはもはや要らない土建屋さんがかなり存在しているのだなと思わざるを得ません。失業者が増えるからといっても、要らない余った業者を守るために梃子入れするというのはどうも納得できないことです。金融機関にも同じことが言えそうです。まだまだ無駄な支出を国も地方も重ねているようです。

現在デフレの克服がいわれますが、デフレによる資産の減少は考えてみればかっての土地バブル、株バブルの後遺症が残っていてその修復にデフレが大きくのしかかっているからでは無いでしょうか。皆さんもあの当時はそれなりにバブルに浮かれ甘い汁も吸った経験はありませんか? だとすれば私も含めて現在はそのお返しを受けているだけです。バブルに踊らなかった人にとって、今のデフレはそんなにダメージのあるものでしょうか。人間というのは勝手なものだと思います。6月支給分から年金も減額されましたが、物価がどんどん上がっていったインフレ時代に比べればまだしも生活の脅威ではありません。「いま考えていること 3(1998年3月:10月)― インフレは死んだ―」で取り上げたR.ブートル著 高橋乗宣監訳の「デフレの恐怖」は現在も入手可能ですが、この本には歴史を見るとインフレの時代の方が希だったと書いてあったと記憶します。利息についても2〜4%が適正だと述べてありましたが、現在の日本ではインフレターゲットはおろかこの程度の利息になっても国債の価格の暴落が起こりますから、政府はよいとしても国債を多量に保有する金融機関は軒並みに再び危機に陥ります。これからしばらくは緩いインフレの時代が世界的に続くことを覚悟しなければなりません。それはともかく、郵便局の定額貯金の5年間利回りが年0.06%という現在ですが、私の持つわずかの株式でも時価に対して現在の配当でも年0.92%あります。工夫次第ではある程度カバーも出来るのです。戦後の恐ろしいインフレの思い出を持つ私にはインフレよりもデフレを歓迎します。

最後にもう一つ。毎日新聞のカラム「東論西談」にプノンペンの竹之内満氏が“プノンペンで開かれたASEAN外相会議共同声明に「国連憲章を含む、国際法の原則による多国間外交堅持の重要性を再確認した」という一項があると述べ、その重要性を指摘していることです。ニュース面ではほとんど触れられていませんでしたが、これは確かに重要です。ASEANの外相が協同してブッシュ大統領流の「アメリカ単独行動主義(ユニラテラリズム)」を否定し、国際問題は法に則り、それぞれの立場を尊重して解決しなければならないという正しい立場を表明しているからです。

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