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back.gifAndocides第1弁論・解説

Andocides弁論集

第1弁論

秘儀について





[1]
 諸君、私の敵対者たちの裏工作と熱意たるや、やり方が義しかろうが不正であろうが、いかなる手段を使ってでも私に仇を成そうとしてきたほどであるが、それは私が当国に帰国〔403年〕するやいなや、その当初からのものであることを、ほとんどのみなさんがご存知であり、これについては私が多言を弄する必要は何もない。私としては、諸君、あなたがたに正義を、つまり、あなたがたにとってはもてなすに容易であるばかりか、私にとってはあなたがたから大いに受ける資格のあることを、お願いしたい。

[2]
 そうして、先ず第一に思いを致していただきたい。私は今ここに出頭しているのであるが、それは私にとってここに留まる必然性があったからではない。保証人を立てたわけでなく、身柄を拘束されたので仕方なくというわけでもなく、何よりも先ず正義を、さらにはあなたがたをも信じたがゆえである。義しい判決が下されよう、そして、私の敵対者たちによって私が不正に破滅させられるのを見過ごしにされることはない、いやむしろ、あなたがたの法習と、あなたがたが誓いを立てて票を投ぜられるはずの宣誓とにしたがって、義しい仕方で救ってくださるであろうと。

[3]
 当然のことながら、諸君、すすんで危難に身を挺さんとする者たちについて、彼らが自らについて有すると同じ判断をあなたがたは持っておられよう。すなわち、自分の不正を自覚して、〔裁判を控えて〕踏み留まることを拒むような者は、当然ながら、あなたがたも、彼らが自分たち自身について自分で判断したと同じ内容の判断を彼らについて下す。これに反して、何ら不正していないと信じて踏み留まったような者は、あなたがたも、彼らが自らについて有すると同じ内容の判断をこの者たちについて有して、不正だとの予断を持たないのが義しいのである。

[4]
 例えば私は、多くの人たちが私に告げて、私が踏み留まらないのはもちろんのこと、後をも見ずに亡命するに違いないと敵たちが言っていると教えてくれている。「いったい全体、何のために、アンドキデスがこれほどの争訟をひかえて踏み留まるなどということがあり得ようか。ここを立ち退いても必要な物はすべて所有することができ、自分がもといたキュプロスに渡航すれば、広大な善き土地がすでに与えられており、また贈り物も自分のものになるのに。はたして、やつが自分の身命を賭して危険を冒すことを望むであろうか。どこに眼を付けて。我々の国家がいかなる状態にあるか見えないことがあろうか」。

[5]
 だが私は、諸君、この連中とは正反対の考えを持っているのである。すなわち、異国にあってどんな善きものを所有することも、祖国を奪われていたのでは受け入れることができない。逆に、国が敵対者たちさえもがいっているような状態にあろうとも、現在繁栄していると確かに私にも思われる他国の一員となるよりも、当国の市民であることなら断然受け入れることができる。まさにこのことを自覚するが故に、我が身命の審判をあなたがたに委ねたのである。

[6]
 それゆえ、諸君、あなたがたに要望しているのである。告発者たちに対する以上に、弁明せんとする私に好意を寄せてくださるよう。それは、あなたがたが等しく耳を傾けたとしても、弁明者が不利になるのが必然だということをご存知だからである。なぜなら、前者は長い時間をかけて策謀し結託して、自分たちは危険性もなく告発を為している。ところが私の方は、恐怖と危険と最大の中傷とに見舞われながら弁明を為すのである。したがって、あなたがたが告発者たちによりも私により多くの好意を寄せてくださるのが当然なのである。

[7]
 さらにまた、次のことも思いを致さるべきである。つまり、今までにも多くの恐るべきことを告発してきた者たちが多くいるが、たちどころに虚言していることが明快に糾明され、その結果、あなたがたは、告発された者たちに対してよりも、告発した者たちに対して償いをさせることの方を、大いに喜んだほどだということである。また、他方、虚偽の証言をして、不正に人々を破滅させた者たちの方は、偽証のかどであなたがたに罪せられたものの、そのときには犠牲者たちには何の役にも立たなかったということである。そこで、今までにもこのようなことが多く起こってきたからには、あなたがたが告発者たちの言説を信ずべきものとまだ考えないのは当然である。なぜなら、恐るべきことを告発しているのか否かは、告発者の言説からは判断できる。しかし、それが真実か虚偽かは、弁明せんとする私にも耳を傾けたうえでないと、あなたがたは知ることはできないからである。

[8]
 ところで、私としては、諸君、どこからこの弁明を始めたらよいか決めかねている。結論部から、彼らが私を摘発起訴したのは違法であるというふうにか、それとも、イソティミデスの決議について、それは無効であるというふうにか、それとも、法習と過去の宣誓についてか、はたまた、初めから出来事をあなたがたに説明するのがいいか。だが、何が私を最も行き詰まらせているか、私があなたがたに言おう。それは、おそらく、告発内容の全体にわたってあなたがた全員が一様に怒っておられるのではなく、私が最初に弁明することを望んでおられる点が、あなたがた各人各様だということである。しかし、すべてについて同時に述べるのは不可能である。そこで、最も有効だと私に思われるのは、初めから出来事のすべてをあなたがたに説明し、何も言い漏らさないようにすることである。そうすれば、あなたがたは為されたことを正しく学び知ることができようし、告発者たちがいかなる点で私のことを虚言しているかを容易に判断できよう。

[9]
 ところで、あなたがたは義しい判断を下されるであろうし、また自らもその用意があるにちがいないと私は考え、そういうあなたがたを信じて私は踏み留まったのであるが、それは、あなたがたが私的訴訟においても公的訴訟においても、宣誓にしたがって票決するということ、これを最重要事としておられるのを眼にするからである。これこそが、そして、これのみが、国家を維持しているのである。それがそういうふうであることを望まない連中は気に入るまいが。そこで、次のことをあなたがたにお願いしたい。つまり、私に好意を持って弁明の聴取を為すこと、そして、私の訴訟相手の側に立つこともなく、語られたことを遅疑することもなく、言葉尻をつかまえることもないように、さらには、最後まで弁明に耳を傾けたうえで、その上で初めて、あなたがた自身にとって最善にして最も宣誓にかなっているとあなたがたが信じられるとおりに、それを票決するようにと。

[10]
 さらにまた、あなたがたに前もって述べたように、諸君、初めからすべてについて弁明を為すつもりである。先ず初めには、この摘発起訴が起こった所以、私がこの争訟に巻きこまれる基となる当の原因について、つまり秘儀について、私によって何ら涜神行為が犯されたこともなく、密告されたこともなく、〔罪が〕同意されたこともない、それについてあなたがたに密告した者たちが密告したのが、虚偽なのかも真実なのかも知らないというふうに。このことをあなたがたに説明しよう。

[11]
 周知のごとく、シケリア遠征の将軍たち、ニキアスとラマコスとアルキビアデスのために民会が開かれた時、 ラマコスの三段櫂船の旗艦もすでに湾外に停泊していた。このとき民衆の中にいたピュトニコスが立ち上がって発言した。「アテナイ人諸君、あなたがたはこれほどの軍隊と軍備を派遣して、危難を引き受けようとしている。しかるに将軍のアルキビアデスは、私邸において他の者たちといっしょに秘儀を執り行ったことを私はあなたがたに明示しよう。そして私が指名する者に免罪(adeia)を票決してくれるなら、その者は、ここなる諸氏の中のある人の奴隷奉公人で、秘儀を受けていない者であるにもかかわらず、あなたがたに秘儀のことを話すことができよう。さもなければ、私を何でもあなたがたの思いどおりに処置してくれてよい。私の言っていることが真実でないならば」と。

[12]
 そこでアルキビアデスが長々と反論し否認したが、当番評議員たちによって、秘儀を受けていない者たちは遠ざけておくべきこと、しかしピュトニコスが指名した未成年者のもとへは自分たちが赴くこと、が決定された。そこで彼らは出かけてゆき、ポレマルコスの子アルケビアデスの奴隷奉公人を連行した。アンドロマコスというのがその男の名であった。

[13]
 さて、〔評議会が〕この男に免罪を票決すると、彼は言った。 プウリュティオンの私邸で秘儀が執り行われた。それはアルキビアデスとニキアデスとメレトスで、この者たちは自ら執行し、その他の人たちも同席して、行われることを見ていたし、奴隷たちも居合わせ、それは自分と兄弟と笛吹きのヒケシオンと メレトスの奴隷とである、と。

 第一にこの男が以上のことを密告し、彼らを供述〔告発〕した。その中でポリュストラトスは逮捕されて処刑されたが、その他の連中は亡命し去り、彼らにあなたがたは死刑の有罪判決を下したのである。それでは〔伝令官よ〕、どうぞ、〔文書を〕取って彼らの名前を読み上げてください。

  名前。――次の者たちをアンドロマコスは密告せり。

 アルキビアデス、ニキアデス、メレトス、アルケビアデス、アルキッポス、ディオゲネス、ポリュストラトス、アリストメネス、オイオニアス、パナイティオス。


[14]
 これが、諸君、この連中に対してアンドロマコスによってなされた最初の密告である。それでは、どうか、ディオグネトスを呼んでください。

 あなたは、ディオグネトスよ、真相究明委員であったのか。ピュトニコスが民会においてアルキビアデスについて弾劾したときに。
 そうだ。
 それでは、アンドロマコスがプウリュティオンの私邸で起こったことを密告したのを知っているか。
 知っている。
 それでは、あの男が密告した相手の名前は、以上のとおりか。
 そうだ。

[15]
 ところが、第二の密告が生じたのである。当地の寄留民テウクロスで、ひそかにメガラに脱出していたが、そこから評議会に申し出をして、自分に免罪を与えてくれるなら、秘儀について共犯者として、その他に自分といっしょに実行した者たちばかりでなく、ヘルメス神像の毀損についても知っていることを密告しようと言った。そこで評議会は〔免罪を〕票決して――全権を有していたので――メガラの彼のもとへ出向いた。そして彼は連れ戻され、免罪を得たので、自分の共犯者たちを供述した。この人たちもテウクロスの密告によって亡命し去った。それでは、どうか、取って彼らの名前を読み上げてください。

  名前。――以下の者たちをテウクロスは密告せり。 パイドロス、グニポニデス、イソノモス、ヘパイストドロス、ケピソドロス、自分、ディオグネトス、スミンデュリデス、ピロクラテス、アンティポン、テイサルコス、パンタクレス。

 思い起こしていただきたい、諸君、以上のこともあなたがたによってすべて追加同意されているということを。

[16]
 第三の密告が起こった。アルクメオン家の女であるが、 ダモンの妻だったこともある女――その名は アガリステ――この女が密告したのである。オリュムピオス神殿のそばにあるカルミデスの邸宅で、アルキビアデスと アクシオコスアデイマントスとが秘儀を執り行ったと。そこでこの連中はみなこの密告のせいで亡命した。

[17]
 もう一つの密告が起こった。テマコス区民ペレクレスのところの〔奴隷〕リュドスが密告したのである。秘儀はテマコス区にある自分の主人ペレクレスの邸宅で行われたと。さらに他の人たちをも供述し、私の父も同席していたが、顔をうずめて眠っていたと主張した。そこで、評議員であったスペウシッポスが彼らを民衆法廷に引き渡した。そこで父は保証人たちを立て、スペウシッポスを違法提案のかどで公訴し、アテナイ人たち6000人の法廷で争い、これほどの人数の裁判官たちの中で200票も獲得できなかったのはスペウシッポスの方であった。しかし、父に留まるよう説得し懇願したのは、とりわけて私であり、さらには他の同族たちもそうしたのである。

[18]
 それでは、どうか、カリアスとステパノスとを呼んでください、――またピリッポスもアレクシッポスをも呼んでください。この人たちは アクウメノスとアウトクラトルの同族なのであり、これらはリュドスの密告が原因で亡命した人たちである。後者の甥がアウトクラトルであり、前者の叔父がアクウメノスである。この人たちこそ、あの人たちを追放した者を憎み、あの人たちが誰のせいで亡命したのかを最もよく知っているはずである。この方たち〔裁判官たち〕の方に向かって、私の言っていることが真実かどうか証言してください。

証人たち


[19]
 何が起こったのかはお聞きのとおりであり、諸君、あなたがたに証人たちが証言したとおりである。しかるに、告発者たちが何を敢言しているか、思い起こしていただきたい。というのも、弁明の義しい仕方とは、こういうふうに、告発者たちの言説を思い起こしていただいた上で糾明することだからである。すなわち、彼らの言では、私が秘儀について密告し、自分の父親を同席していたとして供述したばかりか、自分の父親に対する密告者となったと言うのだが、思うに、それは何にもまして最も恐るべき不敬至極の発言である。なぜなら、父を供述したのは、ペレクレスのところのリュドスであり、父に踏み留まって亡命し去らないよう説得したのは私であって、私は多くのことを嘆願し、両膝にすがったのである。

[20]
 いったい、私が何をもくろんでいたというのであろうか。この連中の言うとおり、一方では父親を密告しながら、他方では私によって何らかひどい眼に遭うために留まるよう嘆願していたとするなら。また父も、最大の害悪を両方ともは被らないですむわけにはいかないような、そんな争いを引き受けるよう説得されたことになる。なぜなら、私が父を在りのまま密告していると思われた場合には、私のせいで〔父が〕刑死するか、あるいは、父が助かるためには私を殺すかである。なぜなら、法は次のとおりだったからである。すなわち、何びとかが真実を密告すれば、免罪があるべし、されど虚偽を〔密告する〕なら、死刑にすべし、と。ところが実際には、このことはみなさんがご存知であるが、私も私の父も助かったのである。もしも私が父親の密告者となっていたとしたら、こんなことはあり得ず、私か父かどちらかが刑死していたはずである。

[21]
 それでは、さあ、はたしてどうであろうか。踏み留まることを望んだのが父であったとしても、彼が留まるのを友たちが認めるとか、保証人に立つとかするとあなたがたに思えるであろうか。どこでも、自分が助かり、また私をも破滅させないですむところに脱出するように要請も懇願もせずに。

[22]
 いや、それどころか、スペウシッポスを違法提案のかどで父が訴追したときも、彼が言っていたのは、テマコス区のペレクレスのところへは行ったこともないということ、このことにほかならなかった。さらには、〔自分=レオゴラスの〕奴隷人足を拷問にかけるよう、そして、〔奴隷を拷問に〕差し出している者たちには糾明を拒まず、〔奴隷を拷問に差し出すことを〕拒む者たちには強制するよう命じたのである。で、私の父がこういうことを言っていたことは、みなさんがご存知のとおりであるが、このとき、スペウシッポスに言えることは何であったか。この連中の言っていることが真実なら、こうではないか。「レオゴラスよ、奴隷奉公人たちについて何を言うつもりだ。あんたを密告して、あんたがテマコスで同席していたと主張しているのは、この息子ではないのか。お前〔アンドキデス〕が父親を糾明せよ。さもないと、お前の免罪はないぞ」と。こうスペウシッポスは言ったことであろう、諸君、そうではないか。私ならそう思う。

[23]
 だから、もし、私が民衆法廷に出廷したことがあるとしたら、案件が私についてであるとか、密告とか公訴とかが私のしたものであるとか、私が他者に対してしたもののみならず、たとえ誰か他の者が私に対してしたものであっても、望む者をしてここに登壇させて私を糾明させていただきたい。いや、とにかく、これほど不敬にして信じがたい言を為す者たちを私は未だかつて知らず、連中は、何が何でも告発するという、このことだけが必要と考えたのである。だから、虚言なりと糾明されるかどうか、彼らには気にもならなかったのである。

[24]
 それゆえ、私を告発したその内容が真実なら、あなたがたが私に憤慨し、最大の償いを課すべしと要求するように、同様に、私もあなたがたに要求するのである。彼らが虚言していると判断したからには、連中を邪悪なりと信ずるのみならず、告発される事柄の中でも最も恐るべきことで公然と虚言していることが糾明されたとすれば、はるかにもっとつまらぬことでは、彼らが虚言していることを私があなたがたに立証するのは定めし容易であるに違いないという論拠とするようにと。

[25]
 秘儀に関する密告は、以上のごとく四つであった。密告のたびごとに亡命した人たちは、彼らの名前をあなたがたに読み上げ、証人たちも証言し終わった。さらにまた、これに加えて、私はあなたがたの信頼を得るために、諸君、次のことを為すつもりである。すなわち、秘儀の嫌疑で亡命した人たちのうち、亡命中に亡くなった人たちもいるが、帰国してこの場にいる人たちも、また私の証人に呼ばれて出席している人たちもいる。

[26]
 そこで私は、望む人がいるなら、彼らの中に私のせいで亡命した者がいるとか、私が密告した相手がいるとか、あるいは、私があなたがたに明示したような密告によってみながみな亡命したわけではないとか言って私を糾明することを、私の持ち時間内に認めよう。そして、私が虚言していると私を糾明することのできる人がいるなら、何でもあなたがたの望むとおりに私を扱ってくれてよい。それでは、私は沈黙し、席をゆずることにしよう。誰か登壇することを望む人がいるならば。

〔登壇する者なし〕


[27]
 それでは、はたして、諸君、次に何が起こったか。密告が生じた後、賞金をめぐって――というのは、 クレオニュモスの決議によって1000ドラクマが、さらに ペイサンドロスの決議によって10000ドラクマがかけられていたので――これをめぐって、これらの密告者たちばかりか、最初に弾劾したと称してピュトニコスが、さらには評議会のために アンドロクレスも言い争ったのである。

[28]
 そこで、テスモテタイの法廷において、秘儀を受けた者たちがそれぞれ密告した内容を聴取して、裁定を下すべしと民会で決定された。そして、第一がアンドロマコス、第二がテウクロスと票決し、パンアテナイア祭の競技の時にアンドロマコスが10000ドラクマ、テウクロスが1000ドラクマを取得したのである。それでは、どうか、このことの証人たちを呼んでください。

証人たち〔証言する〕


[29]
 秘儀については、諸君、そのためにこの摘発起訴(endeixis)が生じ、それを〔審理するために〕秘儀を受けたあなたがたが出廷しておられるのであるが、私によって証明され終わったが、それは、私は涜神行為を犯したこともなく、誰をも密告したこともなく、それについて同意したこともなく、また、双神に対したてまつり、過ちは、より大きなのもより小さなのも、私には一つもないということ。これこそあなたがたを説得するうえで私の最大の要点である。というのも、告発者たちの言説は、内容においては恐るべくして戦慄すべきことを喚き散らし、話の筋は双神に対したてまつりかつて別人が過ちを犯し涜神行為を働いたと述べ、彼らの各々がいかなる目に遭い報復されたかという内容であるが――そういう話や所業が私にどんな関係があるというのか。

[30]
 いや、むしろ、私が連中を告発することの方がはるかにふさわしいのであって、彼らこそ破滅すべしと私が主張する所以は、彼らが涜神に及んだからにほかならず、私が助かる〔べしと私が主張する)所以は、私が何ら過ちを犯したことがないからである。さもなければ、恐るべきことであろう。別人が犯した過ちのせいであなたがたが私に腹を立て、私に対する中傷を、それが私の敵たちによって言われているのだということを知りながら、これを真理よりも勝っているとお考えになるとすれば。明らかに、過ちを犯した連中には、そういった過ちをした覚えがないと弁明する余地はない。事実を知っている人たちの前での吟味(basanos)は恐るべきものだからである。だが私には、糾問(elenchos)は最も望むところである。そこでは、私はこのような罪状についてあなたがたに助けをお願いする必要はなく、懇請する必要もなく、告発者たちの言説を糾明し、出来事をあなたがたに思い起こしてもらいさえすればよい。

[31]
 あなたがたは最大の宣誓をした上で私について投票をしてくださるはずであり、私について誓って義しい票決を為さん〔さもなければ呪いあれ〕と、あなたがた自身にもあなたがた自身の子どもたちにも呪詛をかけたのであり、かてて加えて、あなたがたが秘儀を受け双神の神事を目になさったのは、涜神者たちには報復し、何ら不正していない者たちは助けんがためであるという、そういう人たちだからである。

[32]
 それゆえ、何ら不正していない人たちに涜神の有罪判決を下すのは、涜神者たちに報復しないことに劣らぬくらいに涜神的行為であると考えていただきたい。だから、双神の前で、あなたがたに対して、告発者たちよりも私の方がはるかに切にお願いするのは、あなたがたがご存知の神事のためのみならず、参拝のために当地にやってきているヘラス人たちのためでもある。何か私が涜神行為を働いたとか、同意したことがあるとか、何びとなりと密告したことがあるとか、あるいは、誰か他の人が私に対してそうしたことがあるとかするなら、私を死刑にしていただきたい。慈悲は乞わない。

[33]
 だが、私の犯した過ちが何もなく、そのこともあなたがたにはっきりと立証し得たなら、私がこの争いに巻き込まれたのは不正であったと、このことをヘラス人たち全員に明らかにするようあなたがたにお願いする。なぜなら、票の五分の一を獲得できずに市民権喪失したのが、私を摘発起訴したこのケピシオスであったら、彼は双神の神殿に踏み入ることが許されず、さもなければ処刑されるからである。そこで、以上について十分に弁明されたとあなたがたに思われるなら、どうか、賛意を表明していただきたい。その他の点についてもっと熱心に弁明できるように。

[34]
 次に、奉納物〔ヘルメス神像〕の毀損と密告についても、あなたがたに約束した〔第8節、第10節〕とおり、同じようにすることにしよう。すなわち、初めから出来事すべてをあなたがたに説明することにしよう。

 テウクロスがメガラから帰って、免罪を得るや、秘儀について知っていることを密告したばかりか、奉納物を毀損した者たちの中から20人に2人足りぬ者たちを供述した。しかしこの者たちは供述した後、そのある者たちは亡命し去り、ある者たちは逮捕されて、テウクロスの密告に基づいて処刑された。それでは、どうか、彼らの名前を読み上げてください。

[35]
  名前。――テウクロスはヘルメス神像の件で密告せり
 エウクテモン、グラウキッポス、エウリュマコス、ポリュエウクトス、プラトン、アンティドロス、カリッポス、テオドロス、アルキステネス、 メネストラトスエリュクシマコス、エウピレトス、エウリュダマス、ペレクレス、メレトス、ティマンテス、アルキダモス、テレニコス。


 ところで、この人たちのうち、帰国してここにいる人たちもおり、刑死した人たちの親類も多くいる。その中で望む者は誰でも、私の持ち時間内で登壇して私を糾問するがよい。この人たちの中に私のせいで亡命した人がいるというふうになり、刑死したというふうになり。

[36]
 さて、そういったことが起こった後、ペイサンドロスと カリクレスとが、――彼らは真相究明委員会の一員であり、当時は民衆に最も好意的な人物と思われていたのだが、――事件は少人数の仕業ではなく、民主制の解体を目的としたものだと言い、捜査を中断すべからずといった。かくて国家の有り様たるや、評議員たちが評議場へ入るよう触れ役が告知して旗印を降ろすや、その同じ合図で、評議員たちは評議場へ入場する一方、市場にいる人々の方はそこから逃げ失せた。一人ずつ逮捕されるのではないかと恐れたためである。

[37]
 すると、この国難に乗じて、 ディオクレイデスが評議会に弾劾し、ヘルメス神像を毀損した者たちを知っている、それはおよそ三百人いると主張した。さらに、いかにして目撃し事件に遭遇したかを、彼は語った。このことにこそ、諸君、心を傾注して、私の言っていることが真実かどうかを想起し、他の人たちにも教えるようあなたがたにお願いしたい。なぜなら、この言説はあなたがたの面前で為されたのであり、だから、私にとってあなたがたがこのことの証人なのである。

[38]
 すなわち、彼が言ったのは、自分の奴隷人足がラウレイオン〔鉱山〕で使役されていて、賃金を徴収しなければならなかった。ところが、時候を間違えて朝早く起きすぎたが出かけた。ところで、満月であった。さて、ディオニュソス劇場の門前にさしかかったとき、多くの人たちが音楽堂から合唱舞台の方へ降りてくるのを目にした。だが彼らが恐ろしかったので、物陰に隠れて、柱と青銅の将軍像のある台座との間にしゃがんだ。人々の数はおよそ300人と見え、5人、10人ずつ、また20人ずつが輪になって立っていた。だが、月の光で見たので彼らの大多数の顔を判別できたという。

[39]
 こうして、先ず第一に、諸君、これが彼の話の始めであるが、何とも恐るべきことだと私が思うのは、アテナイ人たちのうち誰でも自分が望む相手を、この連中の一員だと称し、誰でも自分が望まぬ者はそうでないと言うことができるようにしているということである。さらに、これを目にした後、彼の主張では、ラウレイオンに行き、次の日、ヘルメス神像が毀損されたと聞いた。そこですぐにあの連中の仕業だとわかった。

[40]
 そして、市域に着いて見ると、真相究明委員会がすでに選ばれて、密告の報酬が100ムナと公示されていたところであった。そこで、テオクレスの子カリアスの兄弟エウペモスが鍛冶場に座っているのを見て、彼をヘパイストス神殿に連れて行き、あなたがたに私が言ったのと同じことを言った。つまり、あの夜、私たちを目撃した。ついては、国から金品をもらうよりも、むしろ、私たちからもらい受け、それによって私たちを友として持ちたいと願ったのである。すると、エウペモスが、言ってくれるとはありがたい、と言った。レオゴラスの屋敷まで今すぐ自分についてくるよう言いつけたという。「そうすれば、そこで、自分といっしょにアンドキデスや、その他必要な連中とも交われよう」と。

[41]
 彼の主張では、次の日にやって来ると、戸を叩く。すると、たまたま私の父が出てきて、父は言った。「ここの連中が待っているのは君なのか。いやはや、こういう友たちを退け者にしてはいかんぞ」。彼はこう言って出ていったという。これこそが、私の父が関知していたように見せかけて、破滅させようとした仕方だったのである。さらに私たちが次のように言ったという。つまり、公庫から出る100ムナの代わりに銀2タラントンを彼に与え、我々が目的を達成した暁には、彼を我々の一員に加えるが、しかしそのことの保証を取り交わすよう我々によって決定されたと。だが、これに対して彼は考えてみると答えたという。

[42]
 けれども、私たちが彼にテロクレスの子カリアスの屋敷に行くよう命じ、カリアスにも立ち会わせるようにしたという。こうして、彼は今度は私の義兄弟をも破滅させたのである。彼の主張では、カリアスの家に行き、アクロポリスで私たちに保証を与えると彼が誓約したので、私たちも翌月までに彼に銀を与えると取り決めながら、言いくるめて与えなかった。そこで、出来事を密告するために〔評議会に〕やってきたという。

[43]
 以上が、諸君、彼の弾劾内容である。彼が知っていると称して供述した人たちの名前は、42人。筆頭にはマンティテオスやアプセピオンといった、評議員として議席を占めていた者たちや、さらにその他の人たちもいた。そこで、ペイサンドロスが立ち上がって主張した。スカマンドロス時代の決議を廃止して、供述された者たちを刑車にかけるべきである、さすれば、夜にならないうちに犯人たち全員を訊き出せよう、と。評議会は、その言やよしとばかりに喝采した。

[44]
 すると、それを聞いて、マンティテオスとアプセピオンとは竈にすがって、〔拷問で〕ねじ曲げないように、そして、保釈保証人に立ってもらうから裁判にかけてくれるようにと嘆願した。どうにかこうにか聞き入れてもらって、保証人たちを立てたが、馬に飛び乗ると敵国人たちのもとに脱走し去り、保証人たちを置き去りにしたので、保証人たちは自分たちが保証に立った相手が陥るはずの同じ情況に陥らざるを得なかったのである。

[45]
 そこで評議会は閉会したが、〔その前に〕ひそかに〔わたしたちの逮捕を決定して〕私たちを逮捕し、枷にかけた。そのうえで将軍たちを召喚し、布告を出させ、アテナイ人たちのうち、市内に居住している者たちは武器を採って市場に行くよう、長壁内に居住している者はテセイオン神殿に、ペイライエウスに居住している者はヒッポダモス市場に、騎兵たちはラッパの合図で夜になるまでにアナケイオン神殿に行くよう、評議員たちはアクロポリスに行ってそこで泊まり込み、当番議員たちは円形堂で泊まり込むよう命じた。一方、ボイオティア人たちは事件を聞きつけて、国境地域に出陣してきていた。しかるに、これらの害悪の張本人たるディオクレイデスは、国家の救い主であるかのごとく、乗り物に乗せてプリュタネイオンに運び、花冠を冠し、彼はそこで食事したのである。

[46]
 さて、先ず第一に、以上のことを、諸君、あなたがたの中で居合わせた人たちは思い起こし、他の人たちにも説明してほしい。さらにその上で、どうか、その時の当番であった当番議員たちを呼んでください。ピロクラテスと他の人たちを。

証人たち〔証言する〕


[47]
 それでは、どうか、彼が供述した人たちの名前をもあなたがたに私が読み上げよう。それは、私の親類をどれほどたくさん彼が破滅させたかをあなたがたが知るためである。父を始めとして、さらには義兄弟を。前者は共犯者として明示し、後者はその家で会合が開かれたと称して。さらにはその他の人たちの名前をあなたがたは耳にされるであろう。それではこの方たちに読み上げてください。

  アリストテレスの子カルミデス

これは私の従兄弟である。彼の母親と私の父親とが兄妹なのである。

  タウレアス

この人は父の従兄弟である。

  ニサイオス

タウレアスの息子である。

  アルクメオンの子カリアス

父の従兄弟である。

  エウペモス

テロクレスの子カリアスの兄弟である。

  オルケサメノスの子プリュニコス

従兄弟である。

  エウクラテス

ニキアスの兄弟。カリアスの義兄弟がこの人である。

  クリティアス

この人も父の従兄弟。母親どうしが姉妹なのである。

 以上の者たちが皆、彼が供述した40人の中に含まれていたのである。

[48]
 さて、我々がみな同じ獄につながれ、夜になって牢獄が閉じられると、ある者は母親が、ある者は姉妹が、ある者は妻や子どもたちがやってきて、ふりかかった害悪に泣き叫び慟哭する者たちの鳴き声と悲嘆にあたりが満たされていたとき、カルミデスが私に向かって話しかけた。彼は従兄弟で、年齢も同じ、子どもの時から私たちの屋敷で一緒に育ったのであるが、こう言った。

[49]
 「アンドキデスよ、目下の害悪の大きさは貴男の眼にするとおりであり、私は、今までは、何も言いたいとも貴男を苦しめたいとも思ったことはないが、今は我々の目下の災禍ゆえに言わざるを得ない。すなわち、貴男が親密にしてきた相手、我々親類以外で交わってきた相手、その者たちは、我々の破滅の原因たる罪状によって、そのある者たちは刑死し、ある者たちは亡命し去った。自分たちを不正と自覚したからである……

[50]
 この件について何が起こったか聞いているなら話してもらいたい。そうして、まずは貴男自身を救うのだ。次には貴男がいちばん深く愛しているのが当然な父親を、次には貴男にとってたった一人の貴男の妹を妻に持っている義兄弟を、次にはその他の親類とこれだけ多くの血縁者を、次には全生涯にわたって貴男を未だかつて困らせたことがなく、貴男が何をしたいと思おうと、貴男と貴男のことのために最も献身的であった私を〔救え〕」。

[51]
 カルミデスが、諸君、こう言うと、その他の者たちも懇願し、一人一人がそれぞれ嘆願したので、私は自分で思いを致した。「ああ、私ほど恐るべき災禍に見舞われた者がいようか。自分の親類が不正に破滅させられ、彼らが刑死するのみならず、その財産を没収され、かてて加えて、事件に何の責任もないのに神々に対する叛徒なりとして標柱に書き出され、さらにその上、アテナイ人たちのうち300人が不正に破滅させられようとしており、また人々が最大の害悪に陥っている国家と相互不信とを有するがままに見過ごしにするか、あるいは、実行犯その人であるエウピレトスから聞いたとおりのことをアテナイ人たちに言うか、どちらかだとは」。

[52]
 さらにまた、以上のことに加えて、次のことにも私は思いを致し、諸君、過ちを犯し事を起こした者たちのことを胸の裡で計算したのである。すなわち、彼らのある者はテウクロスに密告されてすでに刑死し、ある者たちは亡命し去ったので、この者たちには死刑が宣告されているが、実行者たちのうち、テウクロスに密告されないまま残っているのは、パナイティオスとカイレデモスとディアクリトスとリュシストラトスの4人である。

[53]
 これらの者は、全員の中でも、ディオクレイデスが密告した連中に最もよく該当する者と判断されるのが当然の連中であった。それまでに破滅した者たちの友なのだからである。しかも、彼らには救いはまだ確実ではなかったが、私たち家族には、誰かがアテナイ人たちに出来事を陳述しないかぎりは、破滅は明白であった。そこで、この4人から祖国を義しく奪うことの方が――現に彼らは今も存命で、帰還して自分たち自身の物を所有しているのだが――勝っていると私に思われた。後者が不正に刑死するのを見過ごしにするよりは。

[54]
 ところで、あなたがたや、諸君、その他の市民の方々の中に、私について、私が自分の同志を密告したおかげで、彼らは破滅し、私は助かったと――こういうことを私の敵たちは、私を中傷しようと望んで話を拵えているのだが――そういう気のしたことがかつてあった方がおられるなら、出来事そのものを基に考察していただきたい。

[55]
 なぜなら、今、私がしなければならないのは、私によって為されたことの説明をするに、真実をもってすることだからである。それは、列席しているのが、過ちを犯しそれを実行したがゆえに亡命した当人、したがって、私が虚言しているか真実を言っているか最もよく知っている人たち、しかも、彼らには私の持ち時間内で私を糾明することが認められている人たちだからである。私が認めたのだから。他方、あなたがたがしなければならないのは、出来事を学び知ることである。

[56]
 というのは、諸君、私にとってこの争いの最大の要点は、助かったのだから悪人だと思われるのではなく、先ずはあなたがたが、さらにはその他の人たちも、みなが次のことを学び知ることだからである。つまり、出来事のうち、私の性悪さによっても男らしさの無さによっても、私によって為されたことは何もない、むしろ、何よりも国家にとって、さらには私たちにも生じた災禍ゆえに、親類と友たちに対する配慮、国家全体に対する配慮から、私はエウピレトスから聞いたことを話したが、それは有徳行為であって、悪徳行為ではなかった、そう私は信じているということである。そこで、事情が以上のとおりであるとするなら、助かるのみならず、悪人にあらずとあなたがたに思われてしかるべきだと考えるのである。

[57]
 それでは、はたして――というのは、諸君、事件については、自分が災禍に遭遇しているかのように、人間的に考量すべきであるから――あなたがたご自身だったら何が為し得たであろうか。すなわち、美しく破滅するか、醜く助かるか、二つのうちどちらかを選ばねばならないとしたら、為された結果が悪いと言うことのできる人は居よう。たとえ、現に多くの人たちが、生きることの方を、美しく死ぬことよりも重んじ、前者を選んでいるにしてもである。

[58]
 しかるに、状況はこれとは正反対で、自分が黙っていれば、何ら涜神行為を働いていないのに醜悪きわまりない破滅を被るばかりか、さらには父が破滅するのを見過ごしにし、義兄弟も親類もこれほど多くの従兄弟たちも、過ちを犯したのは別人だと言わないばかりに、ほかならぬ私が彼らを破滅させることになるのである。なぜなら、彼らを投獄したのはディオクレイデスの虚言のせいではあるが、彼らの救済は、アテナイ人たちが事件全体を聞き知る以外に途はなかったのである。したがって、私が聞いたことをあなたがたに言わないかぎりは、私が彼らの殺害者となったことであろう。あまつさえ、アテナイ人たちの300人を破滅させ、国家も最大の害悪に陥ったことであろう。

[59]
 私が言わなければ、以上のことが結果したことであろう。これに反し、在りのままを言えば、自分が助かるばかりか、父をもその他の親類をも助けることになるし、国家をも恐慌と最大の害悪から解放することになろう。たしかに、私のせいで亡命者が4人出るが、彼らは現に過ちを犯した当人である。だが、その他、最初にテウクロスに密告された人たちのうち、死んだ人たちが死んだのも、亡命した人たちが亡命したのも、もちろん、私のせいではないのである。

[60]
 さて、以上のことをすべて考察してわかったのは、諸君、目下の害悪のうち最少なのは次のこと、つまり、出来事をできるかぎり速やかに話して、ディオクレイデスが虚言していることを糾明し、やつが報復を受けるということであった。我々を不正に破滅させ、国家を騙し、それによって最大の善行者と思われて金品を受け取ろうとしていたやつなのだから。

[61]
 以上の理由で、私は誰が実行者なのかを知っていると評議会に言い、出来事を次のように糾明したのである。つまり、我々が呑んでいる時にエウピレトスがこの計画(boule)を提案したのであるが、私が反対し、その時には私のおかげで何事も起こらなかったが、後になって、私の方は私のものであった若駒に乗っていてキュノサルゲス〔アテナイの東ヘラクレス神殿と体育所のある地域〕で落馬して、鎖骨を潰し頭骨を割り、寝椅子に乗せられて家に運び込まれた。

[62]
 エウピレトスの方は、私の状態を感知して、仲間の者たちにこう言った。つまり、私がいっしょに事を起こすことを説得され、犯行に参加してポルバス神殿近くにあるヘルメス神像を毀損すると彼に同意したと。だが、これはあの連中を騙して彼が言ったことである。だからこそ、あなたがたみなさんが眼にされているヘルメス神像は、私たちの父祖伝来の屋敷のそばにあり、アイゲス部族の奉納したものだが、アテナイにあるヘルメス神像のうち、これのみが毀損されなかったのは、私がそれをすることになっていると、そう仲間の者たちにエウピレトスが言っていたからである。

[63]
 だから、感知した者たちは、私が事を知っていながら、実行しなかったと言って、気色ばんだ。そこで、後日、メレトスとエウピレトスが私のところに来て言った。「事は起こってしまったのだ、アンドキデスよ、つまり我々によって実行されてしまった。ところでお前は、おとなしくして黙って居るつもりなら、今までどおり我々を親友として持つことができよう。さもなければ、我々がお前の敵になってやる。我々のことでお前の友だちになるやつらよりももっと困難な敵にな」。

[64]
 私は彼らに言った。やったことはエウペレトスが悪いと確信しているが、あの連中にとって心配すべきは、私が知っているとしても私ではなくて、むしろ、自分たちが何をしでかしたのかという、所業そのものの方だ、と。

 さて、真実は以上のとおりであったが、私は自分の従僕を拷問にかけるよう差し出して、私は病気で寝台から起き上がることもできなかったということを証したばかりか、当番議員たちも、あの連中が事を起こした際に進発基地とした屋敷の奴隷奉公の女たちをとらえた。

[65]
 かくして、評議会と真相究明委員会とが事件を糾明した結果、私が言ったとおりであり、あらゆる点で一致を見たので、その時初めてディオクレイデスを召喚した。すると彼は多言を弄することなく、虚言したことをすぐに認め、あれを言うよう彼を説得した連中を白状するから助けてくれと懇願した。それは ペグス区民アルキビアデスとアイギナ出身のアミアントスだと。

[66]
 するとその連中は恐れをなして亡命し去った。そこであなたがたはこれを聞いて、ディオクレイデスは民衆法廷に引き渡して処刑し、投獄されて破滅しかかっていた者たち、つまり私の親類は、私のおかげで解放し、また、亡命者たちは迎え入れ、武器を採っていたあなたがたの方は解散して、多くの害悪と危難から解放されたのである。

[67]
 こういう事情からして私は、諸君、私が見舞われた運命ゆえに万人に同情されるのが義しく、〔私によって〕為された事柄のゆえに最善の人物と思われて当然であったろう。人間界の不忠の中でも〔国にとっては〕不忠きわまりない〔同志に対しての〕忠誠を提案したエウピレトスに対しては反対し反論し、やつにふさわしい悪罵を浴びせ、あの連中が過ちを犯した後には、その過ちを隠すことに協力し、彼らに対するテウクロスの密告でそのある者たちは刑死し、ある者たちは亡命し、ついには私たちまでがディオクレイデスのおかげで投獄され破滅しそうになったのである。その時になって初めて、私はパナイティオス、ディアクリトス、リュシストラトス、カイレデモスの四人を供述したのである。

[68]
 この連中が亡命したのは私のせいである、それは認める。だが、少なくとも助かったのは、父であり、義兄弟であり、3人の従兄弟であり、その他の親類7人である。不正に破滅しかかっていたのだが。この者たちが、今、日の目を見られるのは私のおかげであり、彼ら自身も認めるところである。さらに、国家全体を混乱させ極端な危難に巻き込んだ張本人は糾明され、あなたがたは大いなる恐慌と相互不信とから解放されたのである。

[69]
 このことも私の言っていることが真実かどうか、諸君、思い起こしていただきたい。そして知っている人たちは他の人たちに教えていただきたい。それでは、あなた〔触れ役〕は、どうか、私のおかげで釈放された当人たちを呼んでください。彼らは出来事を最もよく知っているから、この人たちに話すことができようから。そのとおりである、諸君。彼らは、あなたがたが耳を傾けることを望んでおられるところまでは、登壇してあなたがたに語るであろうから、その上で、その他の事柄については私が弁明することにしよう。

〈証人たち〔証言する〕〉


[70]
 さて、あの時に起こったことについては、すべてお聞きになったとおりであり、私によって十分に弁明され終わったと、私としてはそう確信する。だが、あなたがたの中に、何か物足りなく感じるとか、何か十分には述べられなかったと思うとかする人がいたり、何か私の言い漏らした点があったりするなら、起って指摘していただきたい。そうすればその点についても弁明しよう。だが今は法習についてあなたがたに説明したい。

[71]
 すなわち、このケピシオスが私を摘発起訴したのは、現行の法に基づいてであるが、告発を為すのは昔に成立した決議に基づいており、この決議はイソティミデスが提案したものだが、私には何ら当てはまらないものなのである。なぜなら、彼は涜神行為に及んだ者またそれを認めた者たちを神域から閉め出すべしと提案したのだが、そういうことは私によって何一つ為されたことがない。涜神行為が犯されたことも、また〔涜神罪だと私に〕認められたこともないのである。

[72]
 さらに、その決議そのものが廃止もされ無効でもあるということを、私はあなたがたに説明しよう。確かに、これについて弁明するのは、あなたがたを説得できなければ自分が罰を受けることになり、説得できても、敵対者たちのために弁明してやることになるようなものだが。しかし、とにかく、真実が述べられよう。

[73]
 さて、艦船が壊滅し〔405年、アイゴス・ポタモイ〕攻囲が生じた時、あなたがたは同心(homonoia)について評議し、市民権喪失者たちを復権させるべしとあなたがたによって決定され、パトロクレイデスがその議案を述べ立てた。しかし、市民権喪失者とは誰であり、いかなる仕方でそうなった人たちなのか。私があなたがたに説明しよう。先ず、公的に罰金の債務を負うのは、公職に就いて執務審査で有罪となった者、強制執行の訴えとか公訴とか罰金とかで有罪となった者、あるいは、公から〔徴税の〕請負権を購入しながら請負金を支払わなかったとか、あるいは公に保証人を立てたとかする者、こういう者たちにとって、支払いは第九プリュタネイア月までであって、それをしないと、2倍の債務を負い、彼らの所有物が競売される。

[74]
 これが市民権喪失の一つの仕方であるが、他は、身は市民権を喪失していても、財産は保持し所有している場合である。さらにまた、横領罪や収賄罪の咎のある連中がいる。この者たちは、自分たち自身も彼らから生まれた子供たちも市民権喪失者とならなければならなかった。また、戦列を離れ、兵役忌避罪とか怯懦罪とか海戦忌避罪とかの咎があるとか、盾を投げ捨てたとか、三度偽証したり三度偽誓した咎があるとか、生みの親たちに仇を成したとか、これらの者はすべて身は市民権喪失者だが、財産は保持するのである。

[75]
 他には、今度は、特例法による市民権喪失者たち、つまり、完全な喪失者ではなく、部分的な喪失者で、例えば、「四百人」時代に市内に留まったかどで、他の点ではその他の市民たちと同じ権利を有するが、民会で発言することが許されず、また評議員になることもできない兵士たちがそれである。彼らがこれらの権利を喪失したのは、彼らに特例法が適用されたからである。

[76]
 別の者たちには公訴権が認められず、ある者たちには摘発起訴(endeixis)が、ある者たちにはヘレスポントスに渡航することが認められず、ある者たちにはイオニアに〔渡航することが認められない〕。またある者たちには市場に立ち入るべからずとの特例法が適用されたのである。

 ところが、あなたがたは票決して、すべての決議を、決議そのものもまた何か写しがどこかにあっても、すべてを廃棄し、アクロポリスでお互いに同心について保証を交わし合ったのである。それでは、どうか、こういうことが起こる基になったパトロクレイデスの決議を読み上げてください。

[77]
  決議。――パトロクレイデス提案せり。アテナイ人たちは市民権喪失者ならびに〔公的〕債務者たち(opheilontai)とに関して免罪を決議し、かくして発言と投票との権利を認めしゆえ、民会は、メディア戦争が起こりし時に決議して、アテナイ人たちのために大いに寄与したる時と同じき決議を為すべし。されば、カリアスの執政下〔406/5〕において評議会が休会に入る時までに、収税吏あるいは〔アテナ〕女神その他の神々の財務官あるいはバシレウスの手許に記録されし者たち(あるいは、書き取られざりし者あるも)、市民権喪失者ないしは〔公的〕債務者たち、

[78]
  また、何らかの執務審査において執務審査官や補佐役たちによって会計検査庁において有罪判決を下されし者、あるいは、民衆法廷に未だ回付されざるも、執務審査に関して何らかの公訴がなされし者、あるいは、特例法が〔適用されし者〕……、あるいは、同時代までに何らかの保証人として有罪判決を下されし者、さらには、「四百人」の一員として名前が記録されし者、あるいは、何か他のことで寡頭制のもとで為された事柄についていずこかに記録されし者――ただし、当地に留まらざりし〔亡命〕者たちのうち、標柱に名を記されし者、あるいは、アレイオス・パゴスないしエペタイたちによって、プリュタネイオンにおいてであれデルピニオンにおいてであれ、バシレウスの主宰のもとで殺人罪で追放刑ないし死刑に類する有罪判決が下されし者、あるいは、殺人者たちあるいは僣主たちは除く――

[79]
  これ以外の名はすべて、収税吏とバシレウスは、上述のごとく、いずこなりと公的機関にあるものは残らず削り、写しのごときものがいずこかにあらば、テスモテタイその他の公職者たちは提出すること。しかも、民会決議の後、三日以内にこれを為すこと。また、削除すべしと述べられしものを私的に所有すべからず、また、いついかなる時も遺恨を残すべからず。さもなくんば、これに違反せし者は、アレイオス・パゴスにより追放刑に処せられし者たちが落ち入りしと同様に罪せらるべし。さすれば、アテナイ人たちは、今も将来にわたっても安泰たるべし。

[80]
 この決議にしたがって、あなたがたは市民権喪失者たちを復権させたのである。だが亡命者たちの復帰のことはパトロクレイデスは何も述べておらず、あなたがたも決議しなかったのである。だが、ラケダイモン人たちとの和約が成立したとき、あなたがたは城壁をも取り壊し、亡命者たちをも迎え入れ、かくして「三十人」が樹立し、そうしてその後、ピュレが占拠されムニキアを占拠し、あなたがたに何が起こったか、私は言及したくないし、生じた害悪をあなたがたに思い起こさせたくもない。

[81]
 とにかく、あなたがたがペイライエウスから帰着した後、報復はあなたがたの意のままであったにもかかわらず、過去のことを容赦することに決め、国を救うことの方を私的な報復よりも重視し、かくて両派ともに過去のことに遺恨を残さぬよう決定されたのである。そこで、以上のことがあなたがたによって決められたので、20人の人物を選んだ。そしてこの人たちが、法習が制定されるまでの間、国を監督すること。だがそれまでは、ソロンの法とドラコンの掟とを適用することとなった。

[82]
 ところが、評議員〔403/2年の〕を抽選しノモテタイを選出したとき、ソロンの法とドラコンの掟との中には、市民たちの多くがそれまでの過去の罪状によって有罪となる条文が多くあることに気づいて、民会を開き、その件について評議して、かくして決議したのは、法令をすべて審査し、しかるのちに法令の中で合格審査された条文を〔バシレウスの〕柱廊に書き上げるということであった。それでは、どうか、その決議を読み上げてください。

[83]
  〈決議〉――民会決議、テイサメノス言えり。アテナイ人たちは父祖伝来の定法どおり為政し、法習はソロンの法を、〔容積の〕量目も重量も適用し、またドラコンの掟をも、従前適用してきたとおりに適用すること。しかし、そのほかに必要となる法令は、評議会によって選出されしノモテタイをして、望む者が見られるよう公示版に書き上げて、名祖の像の前に掲示し、今月中に公職者たちに回付せしむるべし。

[84]
  しかして、回付されし法令は、評議会及び、同区民たちの選出せし500人のノモテタイをして、宣誓のうえ、あらかじめ審査せしむるべし。さらに、私人も望む者あらば、評議会に赴きて法令に関して改善の余地あらば何なりと忠告することがゆるさること。されど、いったん法令が制定されたる暁には、アレイオス・パゴスの評議会が法を管理し、公職者たちをして現行法として適用せしめること。また、法令のうち施行されたる法は、先に書き上げたる〔バシレウスの柱廊の〕側壁に書き上げ、望む者に見られるようにすること。

[85]
 さて、諸君、法が審査されたのは、この決議によってであり、施行された法は柱に書き出した。だが書き出した後、あなたがたは法を制定し、これをみなで適用しているのである。それでは、どうか、その法を読み上げてください。

    法。――しかしながら、不文法は、公職者たる者これを一つとして用うべからず。

[86]
 はたして、ここに、公職者が提訴するとか、あなたがたの中の誰かを処罰するとかができる場合が、書き上げられた法令による以外にあるかどうかについて、何か言い足りていないところがあるであろうか。だから、不文法を適用することが許されないからには、もちろん、いかなる不文の決議も適用してはならないのである。ところで、われわれは市民たちの多くに、ある者たちには法令により、ある者たちには昔に成立した決議によって、災禍がふりかかるのを見てきたので、現在進行中の事柄そのもののために、このような法令を制定したのだが、それはそういったことが生じず、告訴屋稼業が誰にもできないようにするためであった。それでは、どうか、その法令を読み上げてください。

[87]
  法令。――しかしながら、不文法は、公職者たちはこれを一つとして用うべからず。また、いかなる決議も、評議会のにせよ民会のにせよ、法よりも有効たるべからず。また、法は、同一の法が全アテナイ人に適用されるのでないかぎりは、一個人のために制定することはできない。6000人の匿名投票による票決で決せられざるかぎりは。

 すると、残るところは何か。次の法である。それでは、どうか、この法令を読み上げてください。

  〈法令〉――しかしながら、私訴判決および裁定は、民主制国家において成立したものであるかぎり、有効たること。また、エウクレイデス執政以降の法令は、これを適用すること。

[88]
 私訴判決は、諸君、また裁定も、民主制国家において成立したものは、これを有効とあなたがたがしたのは、負債の免除があるためでも、私訴判決の再審が行われるためでもなく、私的契約の履行のためであった。これに反し、公訴(graphe)とか申し立て(phasis)とか摘発起訴(endeixis)とか連行起訴(apagoge)とかの対象となる公的な事柄、これのためにはエウクレイデス執政以来の法令を適用すべしとあなたがたは決議したのである。

[89]
 さて、あなたがたの決定により、法令を審査し、審査を通ったものを書き上げ、不文の法は公職者たちは一つとして用いず、決議は、評議会のも民会のも、法より有効なものはなく、同一の法が全アテナイ人たちに適用されるのでなければ、個人のために法を制定することも許されず、法令はエウクレイデス執政以降のを用いることになった、――ここに、エウクレイデスが執政する以前に成立した決議で、大なり小なり、有効として生き残ったものが何かあるか。私としては何もないと思う、諸君。あなたがた自身も、とくと考察していただきたい。

[90]
 ところで、はたして、あなたがたの立てた宣誓とはどのような内容であったか。国家全体に共通の宣誓は、和解〔403年〕後にあなたがた全員が宣誓したもので、「そして、同市民たちの中の何びとにも遺恨を持たない。ただし、「三十人」と「十人」と「十一人」とは除く。しかし、このうち、就いた役職の執務報告をすすんで提出した者にも〔遺恨を持たない〕」。このように、「三十人」という、最大の害悪の原因となった張本人たちにさえ、執務報告を提出すれば、遺恨を持つまいとあなたがたは宣誓したからには、まして、その他の同市民たちの中の誰かに遺恨を持つ気にならないのはいうまでもなかろう。今度は、評議会の方は、開催の都度何と宣誓しているか。

[91]
 「過去に起こったことを理由とする摘発起訴を受理せず、連行起訴も〔受理すまい〕。ただし、亡命者たちは除く」。今度はあなたがたの方は、アテナイ人諸君、何と宣誓して裁判に臨んでいるのか。「そして遺恨を持たず、他者に説得されることもなく、現行法のみに従って票決せん」。考察すべきは、あなたがたと法令とのために私が言っていると私があなたがたに言っていることが、正しいと思われるかどうかである。

[92]
 ところで、諸君、法令をも告発者たちをも考察していただきたい、彼らにいかなる資格があって他者を告発するのかを。

 このケピシオスは、公から請負権を購入し、そこからの収益として土地を耕す者たちから90ムナを取り立てたが、国には納めずに逃亡した。だから、もしも帰国すれば、枷につながれたはずであった。

[93]
 法の定めるところでは、評議会の権限によって、請け負いながら賦課を納めない者あらば、これを枷にかけることになっていたからである。ところがこの男は、エウクレイデス執政以来の法令を適用することをあなたがたが決議したことで、あなたがたから取り立てて取得したものを支払わなくてもよいと考え、今、亡命者としてではなく市民として、市民権喪失者としてではなく告訴屋として立ち現れているが、それは現行の法令をあなたがたが適用しているからである。

[94]
 さらにまた、このメレトスは、あなたがたみなさんがご存知のとおり、「三十人」時代にレオンを逮捕連行し、これを裁判なしに処刑したのである。ところで、次の法は、昔もあったし、しかもいかにも美しいので現在も存続しており、これをあなたがたは適用しているのだが、企んだ者は手に掛けた者と同じ適用を受けるべしというものである。しかるに、メレトスをレオンの子どもたちが殺人罪で追及できないのは、エウクレイデス執政以来の法令を適用しなければならないからである。逮捕連行しなかったとは、彼自身も否定できないにもかかわらずである。

[95]
 さらに、このエピカレスは、誰よりも最も邪悪にして、また、そうであることを望んでいる男で、自分で自分に遺恨をいだく者である、――言うところの意味は、この男は「三十人」時代に評議委員をしたからである。ところが法は、評議場の前方の標柱に書かれた法は何と命じているか。「民主制が解体しての後、国において為政した者は、これを殺しても罪にならず、殺害せし者は敬虔〔無罪潔白〕にして、殺された者の財産を得べし」。そうではないか、エピカレスよ、今お前を殺しても、その者は両手が清浄なのである。少なくともソロンの法に従うかぎりは。

[96]
 それでは、どうか、標柱にある法を読み上げてください。

  法。――評議会および民会にて決定されたり。アイアンティス部族が当番評議員、 クレイゲネスが書記、ボエトスが議長を務めたり。以下はデモパントスが共同起草せり。これが決議の時期は、評議会は白豆を引き当てし五百人が為政し、これがためにクレイゲネスが第一期書記を務めしとき〔410/09年〕なり。

 何びとなりと、アテナイの民主制を解体し、あるいは民主制の解体したるときに何らかの公職に就く者あらば、アテナイ人たちの敵として殺さるとも罪されることなし。また彼の財産は国に没収、十分の一は女神に帰属す。


[97]
  他方、これ〔=民主制解体〕を為せし者を殺せし者および共同謀議せし者は、敬虔にして無罪とす。さらに、アテナイ人はみな成長した犠牲獣を供え、同部族民に対しまた同区民たちに対して、これを為せし者を処刑することを宣誓すること。しかして、その宣誓とは以下のごとくあるべし。「我は、言葉により行為により票決により我が手によりて、可能なかぎり殺さん。何びとなりと、アテナイの民主制を解体し、また民主制解体後何らかの公職に就く者あらば。また、僣主たらんと志す者ないしこれを幇助する者あらば。而して、誰か他の者が殺害すとも、アテナイ人たちの敵を殺害せし者として、これを神々や精霊たちに対して敬虔な者とみなし、死者の財産はみな競売に付し、半分を殺害者に支払いて、何物をも奪わざらん。

[98]
  さらに、これらの者の何びとかを殺さんとして、あるいは手にかけんとして死にし者あらば、彼とその子どもたちをも、ハルモディオスとアリストゲイトンおよびその子孫たちと同様、厚遇せん。而して、アテナイにおいて、あるいは戦地において、あるいはいずこか他の場所において、アテナイ人たちの民主体制に反対して立てられし宣誓は、これを解消し廃棄せん」。かかる宣誓を、伝統的なしきたりにしたがいて、アテナイ人たちみなをして、成長した犠牲獣を供えて、ディオニュシオス祭の前に立てしむるべし。而して、宣誓を守る者には多くの善きことがあるように、これに反して儀誓する者にはわが身とその子孫とに絶滅があるようにと祈るべし。

[99]
 どちらなのか、告訴屋にして狡猾な狐よ、この法は有効なのか、それとも有効でないのか。有効ではないのである。しかし、思うに、この法が無効な所以は、エウクレイデス執政以来の法令を適用しなければならないからである。だからこそ、おまえも生きながらえられ、この国でのさばっていられる。その資格もないのにである。民主制下にあっては告訴屋として生活し、寡頭制下にあっては、告訴屋稼業で取得した金品を返さなくてもよいかのように、「三十人」に隷従した人物。

[100]
 にもかかわらず、おまえは私の同志活動のことをあげつらい、ひとのことを悪く言うのか。一人でもひとと同衾できたら、おまえにとっては立派であったろうに、それもなく、自分の望む相手から多くもない金を取り立てて、ここなる人たちの知るとおり、最も醜い仕事で生計を立て、しかも見てくれもこのとおりの野郎が。

[101]
 いや、それどころか、この男は厚かましくも他者を告発しているのである。あなたがたの法令にしたがえば、自分で自分のために弁明することもできないはずのこの男が。実際のところ、諸君、私を告発する間、座ってこの男を見ていたが、ほかでもない、「三十人」によって逮捕されて裁判を受けているような気がした。あの時、私が争ったとしたら、私を告発するのは誰か。この男が口火を切ったのではないか。金を握らせないかぎりは。というのも、今がそうだからである。カリクレスでなくて誰が次のような質問をして私に反対尋問するであろうか、――
 言ってください、アンドキデスよ、あなたはデケレイアに行って、あなた自身の祖国に向けて攻撃砦を築いたのか。
 私は決して。
 ではどうか。耕地を荒廃させ、陸上なり海上なりであなたの敵たちから略奪したのか。
 とんでもない。
 では、国家に敵対して海戦したのでも、城壁を掘り崩すことに協力したのでも、民主制解体謀議に荷担したのでも、力ずくで国家に帰還したのでもないのか。
 そういったことも何一つしたことはない。
 すると、あなたは他の多くの人たちとは違って、おさらばして処刑されることはあるまいと思っているのか。

[102]
 はたして、あなたがたは、諸君、私が「三十人」に捕らえられたとしたら、あなたがた〔に対する好意〕のせいで私が〔死刑以外の〕何かほかの目にあったと思うであろうか。だから恐るべきことではないか。連中によっては、私が国家に対して何ら過ちを犯していないという、このことを理由に、連中が他の人たちを殺害したのと同じように破滅させられ、他方、あなたがたの中で裁判されるときには、あなたがたに対して私は何ら悪事を為したこともないのに救われないとしたら。まったくそのとおりである。さもなければ、助かる者はこの世にほとんど誰も居ないことになろう。

[103]
 いや、それどころか、諸君、私に対する摘発起訴は現行の法に基づいているが、告発の方は、別事に関して以前に成立した決議に基づいて為されているのである。それ故、あなたがたが私を有罪票決するつもりなら、御覧になるがよい、市民たちの中で出来事について釈明するのが最もふさわしいのは私ではなく、むしろ他に多数いるのではないか。第一は、あなたがたが敵対して戦ったあげく和解し宣誓を交わした相手、第二は、あなたがたが迎え入れた亡命者たち、第三は、市民権喪失者となったのをあなたがたが復権させた相手である。この人たちのためにあなたがたは標柱を取り除き、法令を無効となし、決議を削除したのである。彼らが現在国内に留まっていられるのは、あなたがたを信頼しているからである、諸君。

[104]
 しかるに、以前に生じたことの告発をあなたがたが受理すると彼らが知ったなら、ほかならぬあなたがたに対して彼らがどんな考えを有するに至ると思うか。いったい、過去の出来事のために、すすんで争訟に巻き込まれようとする者が彼らの中にいるとでも〔思うか〕。多くの敵たち、多くの告訴屋たちが立ち現れて、片端から争訟に巻き込もうとするであろうのに。

[105]
 他方、両派の人たちが耳を傾けようとしてここに来ているのは、お互いに同じ考えを持ってではなく、一方の派の人たちは、現行の法と、あなたがたがお互いに誓い合った宣誓とを信ずべきなのかどうかを知ろうとしてであり、他方の派の人たちは、誣告や公訴、ある者は摘発起訴を、ある者は連行起訴を恐れなくてよいのかどうかを探らんとしてである。実状はこのとおりである、諸君。この争いは、私の身命に関わっているが、あなたがたの票が公的に判決を下すのは、いったい、あなたがたの法令を信ずべきなのか、それとも、告訴屋たちに対して裏工作すべきなのか、あるいは、自らが国から亡命し、できる限り速やかに退去すべきなのか、ということである。

[106]
 それでは、諸君、あなたがたが次のことを――同心を目的としてあなたがたによって為されたことは悪くはなく、ふさわしくもあり、また、あなたがた自身にとって有益なことを為したのだということをあなたがたが知るために、このことについても手短に述べておきたい。すなわち、あなたがたの父祖たちは、国家に大きな害悪が生じたとき、つまり、僣主たちが国家を掌握し、民主派が亡命したときのこと、パレネ付近で僣主たちと戦って勝利したのであるが、この時軍を率いたのは私の曾祖父であるレオゴラスとカリアスであり、後者の娘を曾祖父が娶って、彼女から私たちの祖父が生まれたのであるが、祖国に帰還して後、ある者たちは処刑し、ある者たちは追放刑に処し、ある者たちには国内に留まることを認めたが市民権は剥奪したのである。

[107]
 さてその後、〔ペルシア〕王がヘラスに侵攻したとき、迫りくる災禍の大きさと王の戦備を知り、亡命者たちを迎え入れて市民権喪失者たちを復権させること、そして、救済と危難とに共に当たることに決定した。そして現にこれを実行し、厳粛な約束と宣誓を交わした後、自分たちを全ヘラス人たちの前面に押し立てて、異邦人たちをマラトンで迎撃せんとしたが、それは異邦人たちの多さに対峙するに、自分たちだけの徳で充分だと信じたからである。戦いの結果は勝利したのみならず、ヘラスを自由となすとともに祖国を救った。

[108]
 しかし、このような功績を立てながら、以前に起こったことの何かに遺恨を残すことを拒んだ。これこそが、荒廃した国家、焼け落ちた神殿、崩壊した城壁と家屋敷を受け取りながら、相互の同心によって、ヘラス人たちに対する支配と、このようなそしてこれほどの国家とを我々に引き渡した所以である。

[109]
 ところで、あなたがた自身にも後〔405-3年〕になって、父祖にも劣らぬ害悪が起こったが、善勇の人の血筋を引く善勇の人として持ち前の徳を発揮した。すなわち、亡命者たちを迎え入れて市民権喪失者たちを復権させようとしたのである。しからば、父祖の徳でまだあなたがたに欠けているものは何か。遺恨を残さぬということである。それは、諸君、あなたがたは知っているからである。往時、国家ははるかに少ない資力によって強大となり繁栄した。それは今も国にとって可能である。我々が市民として思慮深くして互いに同心するにやぶさかでないならば、ということを。

[110]
 また、私を告発して言うには、オリーブ〔嘆願〕の小枝に関しても、父祖伝来の法では、秘儀の期間にオリーブの小枝を置く者は、死刑と決まっているのに、私がエレウシス神殿の中に置いたというのだが、彼らの厚かましさたるや、自分たちのこしらえた話を、自分たちが策謀したとおりにならないというだけでは足りず、私を不正なりとして告発さえする有り様である。

[111]
 すなわち、私たちがエレウシスから帰り、摘発起訴が起こされた後に、バシレウスは入信式のさいにエレウシスで慣例どおりに行われたことについて、当番評議員たちに報告しようとした。ところが、当番評議員たちは彼が評議会に持ち出すよう主張し、私とケピシオスとにエレウシス神殿に出席するよう通告することを命じた。評議会がそこで開催しようとしたのはソロンの法にしたがったのであり、この法は秘儀の翌日にエレウシス神殿で開場するよう命じているからである。そこで私たちは申し渡されたとおり出席した。

[112]
 評議会が満席になると、ヒッポニコスの子カリアスが〔dadouchosの〕式服をまとって立ち上がり、祭壇の上にオリーブの小枝を置いた者が居ると言い、列席者〔評議員〕たちに示して見せた。そこで触れ役が、誰がオリーブの小枝を置いたのかと触れ回ったが、誰も名乗りでなかった。ところで私たちは並んで立っており、この男も私たちの方を見た。しかし誰も名乗り出ず、尋問していた男、このエウクレスも奥に引っ込んだので、――とにかく、どうか、彼を呼んでください。さて先ず第一に以上、私の言っていることが真実だということを証言していただきたい、エウクレスよ。

〈証言〉


[113]
 私の言っていることが真実だということは、証言され終わった。だが、告発者たちが言うのとは全く反対だと私に思われる。なぜなら、彼らはこう言ったのである。あなたがたが覚えておられるなら。つまり、双神ご自身が私を誤らせたために、〔私は〕禁令のあることを知らずにオリーブの小枝を置いたのだが、それは私に償いをさせるためだったというのである。

[114]
 だが私は、諸君、告発者たちの言が紛れもなく真実なら、双神自身のおかげで私は救われたのだと主張する。なぜなら、オリーブの小枝を置いておきながら、名乗り出なかったとするなら、ほかでもない、オリーブの小枝を置くことで自分で自分を破滅させようとしながら、名乗り出ないことで幸運にも助かったのは、明らかに双神のおかげということになるのではないか。もしも私が破滅することを双神が望まれたのなら、定めし、オリーブの小枝を私が実際には置いていなくても〔置いたと〕同意しなければならなかったであろうからである。ところが、私は名乗り出もしなかったし、置きもしなかったのである。

[115]
 さらに、エウクレスが誰も名乗り出なかったと評議会に言うと、再びカリアスが立ち上がってこう言った。父祖伝来の法では、エレウシス神殿にオリーブの小枝を置く者は裁判なしに死刑という決まりであり、自分の父ヒッポニコスがアテナイ人たちにそう解説していたことがある。ところで私がオリーブの小枝を置いたと聞いた、と。そこでこの ケパロスが仰天して言った。

[116]
 「カリアスよ、あらゆる人間の中で不敬きわまりない者よ、第一に、ケリュコス一族の者ではあっても、解説するのはお前にとって敬虔なことではないのに、お前は解説をしている。第二に、父祖伝来の法を口にするが、お前が立っているそばの標柱は、エレウシス神殿にオリーブの小枝を置いた者は、1000ドラクマを負うべしと命じているにすぎない。第三に、アンドキデスがオリーブの小枝を置いたということを誰から聞いたのか。その者を評議会に呼んでくれ。我々も聞いてみよう」。そこで標柱が読み上げられ、あの男も誰から聞いたかを言うことができなかったので、自分でオリーブの小枝を置いたことが評議会に判明したのである。

[117]
 それでは、いったい、諸君、――すぐにこのことを聞きたいところであろう――、カリアスは何を望んでオリーブの小枝を置いたのか。私が何のために彼によって謀られたかを私があなたがたに陳述しよう。テイサンドロスの子エピリュコスは私の伯父、つまり私の母の兄弟であった。だが嫡出の男児もないままシケリアで死に、後に二人の娘を残したので、彼女たちは私とレアグロスのものとなった*。
 *私とレアグロスのものとなった――アテナイ法では、ひとが嫡出の男子なく、娘のみ残して死んだ場合は、彼の財産とその娘(これを家付き娘epiklerosという)とは、最も近親の男子のものとなった。(1)娘が幼い場合、彼は後見人(epitrope)となって、その財産の運用をはかり、その娘を結婚させ、娘に跡取りができて、跡取りが成年に達したとき、財産をこれに引き渡した。後見人希望者が複数いる場合は、アルコン主宰の法廷で後見人選定(epitropes diadikasia)が行われた。(2)家付き娘が適齢(14歳)にあれば(本文の場合がこれに該当する)、最近親者は彼女に嫁資をつけて結婚させるか、あるいは、みずからが結婚することができた。この場合は、当該者は文書によりアルコンに届け出る必要があった。この届け出がepidikasiaと呼ばれる手続きである(本文では、動詞の場合は「裁定を求める」ないし「裁定を得る」と訳した)。届け出を受けたアルコンはこれを公示し、異議ある者が現れると先のdiadikasiaの手続きをとった。(3)家付き娘に財産がなく(本文の場合がこれに該当する)、結婚したいと思わせるほどの魅力もないときは、アルコンは近親の男子一人を後見人に指名する権限があったと推測されている。(アリストテレス『アテナイ人の国制』第56章 6、7および村川堅太郎の註を参照)。

[118]
 だが家にある財貨は困窮していた。目に見える財産は2タラントンも残っておらず、負債は5タラントン以上もあったからである。それでも私はレアグロスを呼んで、友たちの前でこう言った。善人の為すことは、こういうときこそお互いに親密さを示すことだと。

[119]
 「すなわち、我々が他人の財貨やひとの繁栄を選り好みするあまり、エピリュコスの娘たちを蔑ろにするのは義しことではない。というのも、エピリュコスが生きていたら、あるいは、死んでも多くの財貨を残していたら、最も近親の同族として娘子たちを娶る気になったろう。言うまでもなく、この場合にはエピリュコスのためか財貨のためである。ところが今は我々の徳によってそうだということになろう。そこで一方の家付き娘との結婚はあなたが裁定を求めよ、他方のは私が裁定を求めよう」。

[120]
 彼は私に同意したのである、諸君。私たちは二人ともお互いの同意どおりに裁定を求めた。ところが、私が裁定を求めた娘子は、不運にも病気にかかって死んだ。しかし他方のは健在である。この娘をカリアスは、自分のものにするのを認めるよう、金品を約してレアグロスを説得しようとしたのである。これを感知して私はすぐに供託金(parastasis)を納めて、先ずはレアグロスに対する訴訟権を引き当た、「もしもお前が裁定を求めるなら結構、さもなければ、私が裁定を得るつもりだ」というわけである。

[121]
 これを知ってカリアスは、自分の息子に代わって女相続人に関する私訴権を引き当てたが、〔ボエドロミオン(9-10)月の〕十日目に立件したのは、私が裁定を得られないようにするためであった。つまり、秘儀があったこの二十日の間に、ケピシオスに1000ドラクマを与えて私を摘発起訴させ、この争いに巻き込んだのである。しかし私が留まっているのを見てオリーブの小枝を置いたのだが、それは、私を裁判なしに処刑するか追放するかして、自分はレアグロスを金品で説得してエピリュコスの娘と同居せんとしたからである。

[122]
 しかし、そういうふうにしても争訟なしに事が成就しないと見てとったので、そこでリュシストラトス、ヘゲモン、エピカレスに接近し、彼らが私の友にして馴染みなのを見て、傲慢にも違法にも、彼らに向かってこう言ったほどである。つまり、今からでもまだエピリュコスの娘に関する訴訟を放棄するつもりなら、私に仇を成すことをやめ、ケピシオスを解雇して友たちの前で今まで私にしてきたことの償いをする用意があると。

[123]
 私は彼に言ってやった。告発するがいいし、他の人たちに裏工作するがいい。「しかし、私がやつの魔手を免れ、アテナイ人たちが私に関して義しい判決を下すなら、自分の身を賭けて危険を冒すのは彼の番だと思う」と。この点では彼に私は虚言したことになるまい。もしもあなたがたに、諸君、よいと思われるならば。そこで私が言っていることが真実だという証人たちを、どうか、呼んでください。

証人たち〔証言する〕


[124]
 いや、それどころか、彼がエピリュコスの娘に関する〔私訴権を〕引き当てる気になったのは、自分の息子当人のためということになっているが、その息子を、いかにして生まれ、いかにして彼がこれを認知したか考察していただきたい。これこそはきわめて耳を傾ける価値があるのだ、諸君。彼が娶ったのはイスコマコスの娘であった。しかし、この女と同居したのは1年にも満たず、彼女の母親を手に入れ、あらゆる人間の中で最も恥ずべきこの男は、母親とその娘と同居した。母〔神=デメテル〕とその娘〔神=コレ〕との神官でありながらである。そして同じ家の中で両方をものにしたのである。

[125]
 しかも、この男の方は双神に対したてまつり恥じることも恐れることもしなかった。しかしイスコマコスの娘の方は、何が起こったかを見て、生きるよりは死んだ方がましだと考えて、首を吊ろうとしている最中に引き留められ、息を吹き返してから、家から逃げ去った。つまり母親が娘を追いだしたのである。だが今度はこの女に飽き飽きして、この女をも放り出そうとした。だが女は彼の子を孕んでいると主張した。しかし彼女が息子を生むと、彼はその子は自分の子ではないと否認した。

[126]
 そこで女の親類縁者が、その児をつれて*アパトゥリア祭の祭壇に登り、神事を受けようとし、カリアスに犠牲祭を執り行うよう命じた。そこでこの男がこの児は誰の子かと尋ねた。「ヒッポニコスの子カリアスの子だ」。「それは私だ」。「そう、あなたの子だ」。彼は祭壇にしがみついてこう宣誓した。グラウコンの娘から生まれたヒッポニコス以外に、誓って、自分に息子が生まれたことはない。さもなければ、自分も家も、絶滅してもいい、と。そのとおりになるであろうが。
 *アパトゥリア祭――ピュアノプシオン(10-11)月に各フラトリアで3日間にわたって挙行された。第1日目は会食、第2日目は供犠、第3日目は新メンバーの紹介が行われた。新メンバーには、新生児と同様、新妻も含まれる。

[127]
 ところがその後、諸君、しばらくして再び厚顔きわまりない婆ァに恋いしなおして、彼女を家に戻し、その子どもを、すでに大きくなっていたので、ケリュクス一族に入籍させようとして、自分の息子だと主張した。カリアデスが受け入れられないと反対したが、ケリュクス一族は自分たちの法習どおりに票決した。父親が入籍させるために誓って自分の息子なりと誓った場合は入籍させるべしというのである。彼は祭壇にすがって宣誓した。誓って自分の嫡出の子であり、クリュシクレスから生まれたと。誓って否認したことのある当の子をである。それでは、どうか、以上すべての事柄の証人たちを呼んでください。

[128]
 それでは、さあ、諸君、かつてヘラス人たちの間にこうしたことが生じたことがあるかどうか考察しよう。妻を娶った者が娘の上にさらにその母親と重婚し、母親がその娘を追いだしたというようなことが。さらに、その女と同居しながら、エピリュコスの娘をものにして、孫娘が祖母を追い出さそうとするというようなことが。いや、それどころか、彼の子どもは何と名づけるべきか。

[129]
 思うに、その名を見出せるような善き人が誰か居るとは、私としては想像もできない。なぜなら、彼の父親が同居してきたのは三人の妻たちであり、一人は、息子の母親、と自分で主張しており、もう一人は息子の姉、もう一人は、息子が叔父に当たる女である。この子は何者か。オイディプスか、はたまたアイギストス*か。それとも、彼を何と呼ぶべきか。
 *アイギストス――テュエステスとその娘ペロピアとの間に産まれた子。

[130]
 いや、それどころか、諸君、カリアスについてちょっとしたことをあなたがたに想起していただきたい。すなわち、覚えておいでなら、国がヘラス人たちを支配し繁栄をきわめ、ヒッポニコスもヘラス人たちの中で富をきわめていたとき、実にこのときに、みなさんがご承知のとおり、年端もいかぬ子わっぱや優女たちの間で、国中に流布していた噂があった。ヒッポニコスは家に極道を養っていて、これが彼の両替卓を台無しにしたというのである。このことを思い起こしていただきたい、諸君。

[131]
 いったい、かつてのこの風聞はどうして起こったとあなたがたに思われるか。ヒッポニコスは息子を養っているつもりで、実は極道を養っていたのであり、それが彼の富、慎み、生き方のすべてを台無しにしてしまったからである。したがって、こういうふうに、彼のことをヒッポニコスの極道というふうに判断すべきである。

[132]
 いや、それどころか、諸君、はたして理由は何であろうか。カリアスといっしょになって今私に攻撃を仕掛け、この争訟を共謀し、金品を寄付している連中にとって、私が復権してキュプロスから帰ってからの三年間は、私に関して涜神的だと彼らに思われたことがなく、デルポイ人A…に秘儀を受けさせ、その他にも自分の客友たちに〔秘儀を受けさせ〕、さらにはエレウシス神殿に立ち入って犠牲を供えていたが、それは自分は有資格者だと信じていたからにほかならない。いや、そればかりか反対に、この連中は公共奉仕をするよう提案し、先ず第一には、ヘパイストス祭の体育主宰者を、第二にはイストモスとオリュムピアへの神聖使節を、第三には国家〔アクロポリス〕における神殿の財産の財務官を私は務めたのである。ところが今は、神域に足を踏み入れたとして私が不敬にして不正だというのである。

[133]
 今になってこの連中がそんな判断をする理由は何か、私があなたがたに話そう。すなわち、この アギュリオスは、生まれも美しく育ちも善い人物であるが、一昨年、五十分の一税の請負主任(archones)となり、30タラントンで請け負ったが、この連中がみな白楊〔ポプラ〕のたもとで談合して彼と分け合ったのであるが、彼らがどんな連中かはあなたがたがご存知である。連中がそこで談合したのにはわけがあると私には思われる。すなわち彼らにとってそれは、一つは高値をつけないため、もう一つは安値で落札して、その分け前に与るため、この二つである。

[134]
 かくして6タラントン儲けて、事がうまく運ぶと知って、皆で結託し、その他の者たちに参加させて〔翌年〕再び30タラントンで請け負おうとした。そのため競り合おうとする者が誰もいなかったので、私が評議会に出向いて高値をつけ、ついに36タラントンで請け負った。しかし連中は除外し、あなたがたに保証人を立てて、金品を徴収して国に納め、自分も損はせずに、わずかながらも参加者たちは利益を得た。かくしてこの連中には、あなたがたのものから銀6タラントンを分け合えないようにさせたのである。

[135]
 連中はこれを知って、自分たちで話し合いを持ったのである。「この野郎は、公共の財産を我がものにしようともせず、我々にも任せず、おまけに公共物を分け合うのを監視して邪魔までしようとする。そればかりか、我々の中に不正者がいると捕らえて、アテナイ人たちの大衆の前に引きずり出して破滅させようとする。だから我々にとってこいつは、やり方が義しかろうが不正であろうが、排除する必要がある」。

[136]
 これこそが、裁判官諸君、この連中によって為されたことであり、あなたがたにとって為すべきことは、それとは反対のことである。すなわち、あなたがたにとっては、できる限り多数の人々が、私と同じような人物になること、つまり、連中を真っ先に破滅させ、さもなければ、連中を容赦しない者たちとなることが望ましい。この人たちこそ、あなたがた大衆に対して善良でも公正でもあるのがふさわしく、あなたがたに良くすることが、望めば可能な人たちなのだから。だから私は断言する。連中がこのようなことを為すのやめさせ、より善い者にさせるか、あるいは、あなたがたの前に引きずり出して、連中の中の不正な者たちを懲らしめるつもりだと。

[137]
 さらに、彼らは回船業についても貿易についても私を告発している。あたかも、神々が危難から私を救った所以は、当地に戻って、どうやら、ケピシオスによって破滅させられるためであるかのように。しかし私は、アテナイ人たちよ、神々が私によって不正されたと信じていたなら、最大の危難の中に私を捕らえていながら、それなのに報復しないでおくというような、そんな考えをお持ちになるとは認められないのである。いったい、人間たちにとって冬の季節に海を航海するより大きな危難が何かあるであろうか。

[138]
 このときに、私の身体を手中にし、私の生命と財産を手中にしながら、それでもなお助けたのか。神々には、身体が埋葬もされないようにすることができたのではないのか。その上、戦争が起こり、海上は常に三段櫂船や海賊たちのもので、連中のせいで捕らえられ、財産を喪失し、奴隷となって生涯を終えた人たちが多くいるにもかかわらず、さらにまた陸上は異邦人のもので、今までにも多くの人たちがそこに打ち上げられて最大の暴虐に見舞われ、自分たちの身体を虐げられて死んだにもかかわらず、――

[139]
 それでも神々はそれほどの危難から私を救っておきながら、自分たちの復讐者として、アテナイ人たちの中でも最も邪悪なケピシオスを推し立てたのか。自分ではアテナイの市民だと主張しているが、実際はそうではなく、裁判官の席を占めておられるあなたがたでさえ誰一人、奴がどんな人物か知悉しているがゆえに、私的なものを何も委ねる気にならない相手を。いや、私としては、諸君、このような危難は人為的なものだが、海上でのそれは神慮だと信ずべきだと考えるのである。したがって、神意を推し量るべきだとするなら、確かに神々は怒り憤慨なさるに違いないと私は思うのである。自分たちのおかげで助かった者たちが、人間どもによって破滅させられるのを御覧になれば。

[140]
 さらにまた、次のことにもあなたがたは、諸君、思いを致すべきである。つまり、現在あなたがたが最善にして思慮深い者たちだと全ヘラス人たちに思われているのは、過去に起こったことの報復に専念しているからではなく、救国と市民たちの同心に専念しているからだということである。なぜなら、今まで他の人たちにも、私たちに劣らぬぐらいの災禍が生じた。だがお互いの間に生じた仲違いを美しく解決すること、これこそは、当然ながら、善良で思慮深い人たちの仕事と今までにも思われてきた。そこで、それはあなたがたの務めだと万人から同意されてきたのだから、たまたま友であろうと、敵対者であろうと、あなたがたは変節してはならず、この名声を国から奪うことも、自分たちが信念によってよりはむしろ偶然によって票決しているように思われるようなまねもしてはならないのである。

[141]
 ところで、あなたがたみなさんに、私の先祖についてと同じ考えを、私についても持つようお願いしたい。そうすれば、私にも先祖を真似る機会がうまれるのである。彼らのことを思い起こしていただきたい。彼らは国家にとって最多最大の善行の原因となった人たちと等しい者となったが、自分たちをそういう者として提示したのは、多くのことのため、特にあなたがたに対する好意のためであり、また、いつか自分たちや自分たちから生まれた子孫たちの誰かに、何らかの危難や災禍が生じたときに、あなたがたからの容赦に与って助かるためである。あなたがたが彼ら〔祖先〕のことを思い起こすのは当然であろう。

[142]
 というのも、国家全体にとってあなたがたの祖先の徳が最も価値が高かったのである。すなわち、諸君、艦船が壊滅し、多くの人たちが国家を致命的な災禍に陥れることを望んだとき、ラケダイモン人たちはそのとき敵であったにも関わらず、あの祖先たちがヘラス全体の自由の端緒を開いたという、彼らの徳に免じて国を救うことを決定したのである〔404年〕。

[143]
 さて、国家でさえもが公的にあなたがたの先祖の徳に免じて助けられたのであるから、私にも私の先祖の徳に免じて救いがあることを求める。というのも、国家が救われる所以となった業績のうち、少なからざる役割を私の祖先もともに果たしたからである。そのために、あなたがた自身もヘラス人たちから受けたと同じ救いを、私にも与らせるのが義しいのである。

[144]
 さらに、次のことも考察していただきたい。あなたがたが私を助けたら、どのような市民を持つことになるかを。あなたがたがご存知のように、私は初めは大いなる富裕者の生まれであったが、自分のせいではなく国家の災禍のせいで、大いなる貧困と窮乏に陥った者、しかしその後義しい仕方で、つまり自分自身の才覚と両の手で新たな生計を立てた者である。なおその上に、このような国家の市民たることがどういうことかを知っており、

[145]
 隣国の客友とか居留民たることがどういうことかを知っており、思慮深くし正しく評議することがどういうことかを経験しており、過ちを犯した者に仇を成すことがどういうことかを経験しており、多くの人たちと交わり、さらに多くの人たちの信用を得て、このことから多くの王たちや国々や他の私的な客友たちとの客遇と親愛とが私に生じたのだが、私を助けたら、あなたがたはこれに与ることができ、あなたがたに何かが起こった機会に、いつでも彼らを用いることがあなたがたにできるのである。

[146]
 事実、あなたがたにとって、諸君、事情は以下のとおりである。今、私を壊滅させたら、あなたがたにとって私の同族で残った者はもはや誰もなくなり、みな根絶やしになるであろう。しかしながら、アンドキデスとレオゴラスの家があるのは、あなたがたにとって汚名ではなく、むしろ、私が亡命して、琴作りの クレオポンがその家に住んだ時の方こそ、もっと汚名であったろう。なぜなら、あなたがたの中に、私たちの家の前を通りかかったとき、私的にせよ公的にせよ、その持ち主によって何か悪いことを被ったと思い起こすような者はいないからである。

[147]
 何度も将軍職については、陸上でも海上でも敵国人たちに対する多くの勝利牌をあなたがたにもたらし、他の役職に何度も就いては、あなたがたの財務を管掌したが誰にも咎められたことがなく、過ちも、私たちがあなたがたに対しても、あなたがたが私たちに対しても、犯したことがなく、さらにはあらゆる家系の中でも最古にして、必要な者にとってはいつも共有であったのである。そんな善き人たちの中に、争いに巻き込まれた者がいたときもなく、これらの業績のお礼を返還要求したこともない。

[148]
 したがって、彼ら亡き今、彼らによって為されたことに関してもあなたがたは忘れてはならず、業績を思い起こしたら、私をあなたがたの手で救うよう彼らが懇願している、その姿を眼にするように考えていただきたい。というのは、いったい、私は自分のために誰を懇願者として登壇させられようか。父親をか。いや、死んでしまった。それとも兄弟たちをか。いや、いない。それとも、子どもたちをか。いや、まだ生まれていない。

[149]
 それ故、あなたがたに、私の父親代わりとも、兄弟たちの代わりとも、子どもたちの代わりともなっていただきたい。あなたがたに庇護を求め、懇願し、嘆願する。あなたがたが私をあなたがた自身から釈放要求して救っていただきたい。そうして、男たちに窮しているからとて、テッサリア人たちやアンドロス人たちを市民とすることを望んではならず、市民として認められてきた人たち、善き人たちであるのがふさわしく、また、望めばそれが可能な人たち、この人たちを破滅させてはならない。むろんである。さらに、次のこともあなたがたにお願いする。あなたがたに善くしてくれる者があなたがたに重んじられるようにと。さればこそ、あなたがたは私に聴従して、私が何らかの点であなたがたに善くすることが可能な限りは、奪ってはならないのである。これに反して、私の敵対者たちに聴従するならば、後になってあなたがたに後悔の念が生じても、もはや取り返しはつかないであろう。

[150]
 それ故、あなたがたが私にかけている希望を、あなたがた自身から奪ってもならないし、私があなたがたにいだいている希望を、私から奪ってもならないのである。

 それでは、私の要望としては、あなたがた大衆に対して最大の徳の吟味をすでにあなたがたから受けたような人たちが、ここに登壇して、私に関して知ってることをあなたがたに忠告するようにということである。こちらへ、 アニュトスよ、ケパロスよ、それからまた同部族の人たちで、私のための共同弁護人たるべく(syndikein)選ばれた人たち、つまりトラシュロスおよびその他の人たちも。
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