"Martichoras"の情報をギリシア人に初めて伝えたのは、アルタクセルクセース2世の宮廷で侍医を務めていたギリシア人歴史家クテーシアスだと考えられる。彼は言う
断片"45d, Beta"
AELIAN. N.A. 4, 21 (PHILES De an. propr. 38):
インドにいる不敵な猛獣で、大きさは最も大きなライオンぐらい、色は辰砂かと思われるぐらいの深紅、イヌのように毛むくじゃらの獣がいる。インドイ人たちの発音でマルティコラス(martichoras)と名づけられている。顔は、その獣のではなく、人間のを見ていると思えるようなのをもっている。歯は3列がその上顎に、3列がその下顎に生えていて、先端はきわめて鋭く、イヌのよりもこちらの方が大きい。耳は、これもまた、少なくとも形態においては、人間にそっくりである、ただし、より大きくて毛むくじゃらではある。眼は青色、これも人間にそっくり。足と爪は、ライオンのそれのようだと考えていただきたい。尻尾の先にはサソリの針を備えており、この針は〔長さ〕1ペーキュス以上あり、その尻尾はどちらの側も針で仕切られている。尻尾の先端は、遭遇した相手を針で刺し殺し、たちどころにお陀仏にする。誰かがこれを追跡すると、これは側面の針を矢弾のように発射し、しかもこの動物は遠矢の射手である。また正面に針を発射する場合は、尻尾を反り返らせる。サカイ人たちのように後方に〔発射する〕場合は、これは尻尾をのびるだけのばす。命中した相手は、殺す。ただし、ゾウだけは亡き者にすることができない。投擲される針は、長さは数プウス、太さはイグサくらいである。そもそもクテーシアスが言い、インドイ人たちも彼に同意していると彼が主張するところでは、この針が放たれた箇所には、別の〔新しい〕針が下から生え、この悪行の継続ができるようにするという。また、この同じ人物が言うには、人間を食べるのがことのほか好きで、多数の人間を亡き者にする。しかも、ひとりずつを待ち伏せるのではなく、2人でも3人でも襲撃し、たった1頭でこれだけの人数を制圧する。〔自分以外の〕残りの動物は〔いずれも〕打ち負かすが、ライオンを倒したことはいまだかつてない。この動物が人間の肉を好物として満足するということは、その名前も示唆している。というのは、その意味するところは、ヘッラス人たちの言葉(phone)でインドイ人たちのいう「人食い」である。この行動から呼ばれているのだからである。また、シカに匹敵するほど最速に生まれるいている。
だから、インドイ人たちが狩るのは、この生き物の赤ん坊で、尻尾がまだ針を持たないやつである。そして、〔捕まえると〕石でその尻尾を粉々にして、針が生長しないようにする。鳴き声はラッパの音にかぎりなく近いのを発する。
この動物が、インドイ人たちのところからペルシア人たちへの贈り物として送られてきたのを、ペルサイで見たことがあるとクテーシアスは言う。
古代ペルシア語では、"martiya"は「人間」という意味、アヴェスタ〔ゾロアスター教の教典〕の用語で"khwar"は「食う」という意味である(L&S辞書"martichoras")。
パウサニアース〔fl. c. AD 150〕は、これがベンガルトラ〔"Panthera Tigris Tigris"、右図〕であることを喝破し、合理的な解釈を下そうとしている。
この"martichoras"は、プリニウス『博物誌』の「マンティコラ(mantichora)」の簡単な記述(PLIN. N.H. 8, 75)を通して西欧に伝わるや、"Manticore"ないし"Manticora"として、数ある西欧の妖獣・怪獣のなかでも特別の地位を獲得するのである〔冒頭図〕。
PAUSAN. 9, 21, 4:
[4]インドイ人たちのことを扱ったクテーシアスの書の中に出てくる動物 インドイ人たちによってマルティコラス〔と呼ばれ〕、ヘッラス人たちによっては「人喰い」といわれていると彼は主張する を、トラ(tigris)だとわたしは納得している。しかし、この動物には両顎とも3列ずつの歯があり、尾の先に針があって、近いところではこれらの針で身を守り、離れている人間に対しては、弓を引く人の矢と同じように針を飛ばす、というが、インド人が事実に反するこの噂を認め合っているのは、この動物をひどく恐れているためだ、と思う。
[5]また、虎の色についてもインド人は間違っていて、虎が太陽の光の下に現れる際にはいつでも、単一の赤色だ、と思っている。しかし、これは虎が素早く動くか、または走っていない時でも連続して回転する とりわけ離れて見ていた場合 ためである。