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ペリカン(Pelican)

 生誕の女神の別のトーテムである赤ん坊を運ぶコウノトリとしばしば混同されるが、ペリカンは「聖心」の初期のシンボルであった。エジプト人は、母親は、子宮の中の(in utero)胎児を、心臓の血で育てると信じた。同様に母親のペリカンは、心臓の血がひなの口に流れ込むように、くちばしで自分の胸を「傷つけ」血を出して、子供を育てた。この伝説はおそらしペリカンがくちばしを胸の羽毛に入れて休む習性から生じたものと思われる。

 聖アウグスティヌス(345-430)は、母親のペリカンについてのこの古い空想を事実として受け入れたが、のちの時代の聖職者たちも同様であった。自分の胸を突いて血を流しているペリカンを見た者は誰もいなかったのだが、アウグスティヌスに敢えて異を唱えようとする者もいなかったからである[1]。自己を犠牲にする母親のペリカンは聖職者と世俗の者両方の紋章によく使われるモチーフとなった。


[1]Potter & Sargent, 179.

Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



pelican.jpg ギリシア語のpelekavn)が具体的に何を指すかは、じつはよくわかっていない。point.gifPhysiologos 第4話の註を参照せよ。

 『キュラニデス』第3巻39では、「自分の脇腹をついばんで押し広げ……血を、当の死んだ子どもたちの死体の上にふりかけ、これを生き返らせる」はラムピオス(rJamfivoV)と呼ばれ、ナイル河畔に棲息するという。

 いずれにしても、この残忍さと慈愛との共存するの話は、どうしたわけか、キリスト教作家たちによってことのほか好まれ、さまざまに語り伝えられた。