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ギリシア占星術文書目録4350_107

月の宿について





[底本]
TLG 4350 107
De mansionibus Lunae (e cod. Oxen. Cromwell. 12, P. 402)
Astrol.

Date of manuscript = A.D. 15-16

S. Weinstock, Codices Britannici [Catalogus Codicum Astrologorum Graecorum 9.1. Brussels: Lamertin, 1951]: 141-156.



9.
(141)

月の28の宿は以下のとおりである(AiJ ei[kosi ojktw; monai; th:V SelhvnhV e[xousi ou{twV.)

 第1宿はスゥルタイン<つまり「牡羊」の小角>と呼ばれる。〔これは〕木星の領するところで、「牡羊」の第1度〔端緒〕から、その12度11〔51?〕分26秒までである。インドイ人たちは言う。月がこのような宿にとどまるとき、善いのは飲み物を飲むこと、騎乗用動物〔言葉なきものら〕に青草をやること、調教すること、買い入れること、旅すること。しかしながら、このような宿にある月の出口の第1日の終わりは悪いと言われる。他方、ドーロテオスは言う。結婚の約定にとっては、「おひつじ」の全星座も逆である。奴隷たちの購入にとっても逆である。なぜなら、逃亡する恐れがあるからである。海を旅するのは美しい。というのはと彼は謂う、美しく航行するから。他方、公的な行為は善くない。ペルサイ人たちは言う。善いのは、戦車で行くこと?、樹木を植えること、爪や毛髪を切ること、新しい織物を裁断し、これをまとうこと、言葉なきものら〔動物〕を訓練すること。奴隷たちを購入したり公的な行為は縁起が善くない。なぜなら、このような宿には、「牡羊」の2つの小角に2つの星〔牡羊座β星γ星〕があるからである。他方、この宿は火のごとくで悪を為すものである。そうして、この〔宿〕で誕生が起こるとき、男性の場合は、悪人、同性愛者、人生において放埒な者、非難さるべき者たることを特徴とする。女性の場合は、ムスティコポルネイア?を働く者たることを〔特徴とする〕。男たちの方は、彼女に対する欲求者となる、ただし、彼女がそれを禁じることなく、熱心ならばだが。
この〔宿の?〕図像。
 互いに頷き合う2人の女が、装身具に飾られている。その着衣は、帯に至るまで真紅で、そのほかは青色である。

 第2宿は<プゥタインつまり><「牡羊」の>腹と言われる。金星の〔宿〕であるが、同じ星座の12度11分26秒から25度42分12秒までである。この宿は火のごとくにして、乾燥し、縁起が善いと謂われている。だから、月がこの〔宿〕にあるときに誕生が起こると、善人、有徳者、密儀の守り手、称讃され、よい暮らしをする者であるが、数多くの敵をもつことを特徴づける。他方、女性の誕生が〔起これるときは〕、恥知らずで悪い女で、男どもによって狂わされる女を (142) 特徴づける。インドイ人たちは言う。月がこのような宿を支配下に置いているとき、種播くこと、葡萄樹を植えること、ビーバーを獲ることは善い。ドーロテオスは言う。商売や、奴隷どもの購入には逆である。〔月が〕この宿にあるときに人間が捕まれば、その見張りは強力で、長期に及だろう。だが、海路による出郷は善い。ペルサイ人たちは謂う。戦車で行く?ことは善いが、飲み物を飲むのは善くない。この宿には「牡羊」の腹に3つの小さな星〔牡羊座δ星ε星ρ星〕がある。
図像としては。
 冠の下、臍まで裸の女が、その両手に黄金の林檎を持っている。臍から下には、轅のついた2つの青い車輪があり、その車輪の中と外は真紅、車輪は1つに合わさっている。

 第3宿はトロイアつまり六星〔プレイアデス(昴)〕と言われる。これは水星の〔宿〕で、「牡羊」の25度42分12秒から「牡牛」の8度34分2秒までである。インドイ人たちは言う。月がこのような宿を支配下に置いているとき、敵勢を襲撃するのは善、旅行は中吉である。ドーロテオスは言う。結婚の約定は逆。善いのは、馬匹を買い入れること、これを笛で指図すること。航行は不善である、というのは、航行が難儀で大波が立つのは明らかだから。しかのみならず、共同することも〔不善である〕、共同者たちの只中に混乱が生ずるであろうから。捕虜たちや囚人たちにとっては自由を得るに手間取ると彼は謂う。しかし、神託や、下された神託の口実でその囚人をつかまえるときは、連中が自由になることはないであろう。火の働きや、雌豹やコイヌザメ〔HA 565a16〕による狩りには善である。また、生きた???を為すのにも。しかし、豚や羊や奴隷たちを購入するのは縁起が善くないのは、種播くことも植樹することも新品を着ることも〔縁起が善くない〕ごとし。たほう、この宿が善いのは、暑さ寒さによって判断されるからである。またこの宿に月があるときの誕生は善く、幸運と有用さと気立てのよさを特徴とする、ただし、高位の者ではなくて、貧乏人は別である。
図像。
 女が臍まで浅黄色の衣をまとい、その衣は真紅。肘まで裸の両手に林檎を持っている。

 第4宿はパラーンつまりヒュアデスの洋灯と言われる〔牡牛座α星=アルデバラン〕。これは金星の支配下にあり、「牡牛」の8度 (143) 34分2秒から、同じ宮の21度25分4秒までである。この宿は土的で、乾燥し、悪を為す。この〔宿〕における男性の誕生は悪性で、不穏で、盗賊たることを特徴づける。他方、女性のそれは、ふしだら、恥知らず、男狂いたることを〔特徴づける〕。それも愛なくしてそうなのである?。<インドイ人たちが言う。>種播くこと、女が装うことは善であり、新しい衣をまとうこと、ビーバーを捕り旅することは善であるが、しかし第1日の初めとその日の終わりとは別である。ドーロテオスは言う — 結婚をするのは縁起が善くない。誕生が起こる場合、女はふしだらであろう、と。奴隷たちを買いつけるのは善である。なぜなら、忠実で、謙虚で、善き魂の持ち主たることを特徴づけるから。獲得をすること、四つ足を買いつけることは善であるが、訓練されていないものは否である。海路旅するのは縁起が善くない。危険だからである。公事を為すのは<……>もしひとが捕虜になったり収監されたら、捕囚とか幽閉に手間取り、罪過を払って辛うじて解放されるであろう。同じ人が謂う。— 万事において結婚しないのが美しい。ペルサイ人たちは<言う>。— 結婚や航海なしに衣服を作ることには称賛される。この宿には、「牡牛」の眼に明るい星が1つある。同じ宿の
図像。
 互いに振りかえった2頭の鹿、互いを見るかのように頭をめぐらせて。

 第5宿は(+Akga)つまりイナゴと呼ばれる。これは月の支配下にあり、「牡牛」の21度25分4秒から「双子」の4度17分10秒までである。この宿は火のごとくで、乾燥し、善を為しかつ悪を為す、つまり中間である。そうして、この宿における男性の誕生は非難され、女性のそれは称賛され、静かで、貧しい生に属し、男たちから名誉を得る。インドイ人たちは言う。— 月がこの〔宿〕にあるとき、子どもたちに学びを与え、手術を始め、旅行するのは美しい、ただし、日の初めは別である。ドーロテオスは言う。— 馬匹を買い入れるのは美しい。なぜなら、おとなしくて美しいのが来るだろうから。獲得し、航行し、共同するのは善である。もしひとが閉じこめられた場合、手間取るだろうが、しかし解放されるだろう。毛髪や爪を切り、化粧し、奴隷どもを買い入れるのは美しい。(144) ペルサイ人たちは言う。— 財貨の返還要求や旅行に美しいが、話し合いや裁判沙汰には逆である。この宿には3つの星〔オーリーオーン座λ星φ星φ星〕がある。
図像。
 両腕を伸ばした女、どうやら、真紅のカンドゥス(kabbavdioV)と青い胴着をまとっているらしい。

 第6宿は(!Anga)つまり「双子」の脚と呼ばれる〔双子座γ星ξ星〕。太陽の支配下にあり、「双子」の4度17分10秒から、その17度8分36秒までである。この宿は風のごとくであるが、しかし縁起が善い。男性的誕生は美しく、称讃さるべきであり、人間たちから愛されるものであり、女性的〔誕生〕も同様、人間たちから愛され、たいてい男性との交わりに傾く。だが、秘儀的には逆の働きをする。インドイ人たちは言う。月がこの宿にあるとき、善いのは王たちに跪拝すること、夜間荒らすこと、砦のそばに宿営すること、機械を使って敵勢を襲撃すること。しかし逆なのは、種播くこと、委託を求めることである。ドーロテオスは言う。何びとであれ航行する者は、???は早いが、???は遅い。公事も助けになるのは、神への畏れを持ってこそである。牢屋に幽閉された者は、3日の間に釈放されなければ、解放されることはあるまい。獣たちの狩りにも善いが、飲み物を飲むことと傷を治すこと、しかのみならず新調した衣服を着ることは悪い。なぜなら、死の恐れがあるから。ペルサイ人たちは言う。井戸を掘ることは善く、契約は逆である。この宿に2星あり。
図像。
 第1宿に同じ。彩りは反対である。

 第7宿は(Dreivg)つまり〔獅子の〕前脚と呼ばれる〔双子座α星β星〕。しかし土星の領するところで、「双子」の17度8分36秒から、巨蟹宮の1度つまり「双子」の終端までである。この宿は空気的で且つ縁起が善い。男性的誕生を、生まれよく、明敏で、巧者で、幸運者、異なった前提から財の分け前に与るが、女性の誕生は、密かにふしだらにして後悔者である。インドイ人たちは言う。善は種播くこと、羊を屠殺すること、新調した服を着ること、女たちを気取ること、馬に騎乗すること、旅行すること、ただし、最後の3度は別である。??(145) ドーロテオスは言う。もしひとが航行するなら、美しく且つ元気に航行し、遅くなっても美しく生き残れるだろう。公事は善くかつ真実である。なぜなら、神に対する恐れとともにあろうから。幽閉された者は、3日間解放されないと、獄中で亡くなるだろう。毛髪や爪を切るのは善、新しい服を裁断し、これを着ること、奴隷や言葉なきものらを買い入れること、敵に愛を示すこと、旅することも〔善〕。しかし逆は、不動産を購入すること、治療を受けること。ペルサイ人たちは言う。財の事業をすることは美しい、だが対話したり訴訟は悪である。この〔宿〕に大きな星が2つあり、その真ん中により小さなの。
図像。
 男が真紅のコップを持っている、右手には、???

 第8宿は(Navqra)つまり「獅子」の鼻と呼ばれる〔蟹座のプレセペ星団〕。そして月の領するところで、巨蟹宮の第1度〔端緒〕から、同じ宮の12〔度〕11分26秒までである。また水っぽく、水的で、縁起の善さと縁起の悪さとから混合されている。男性の誕生は混乱状態、すこぶる争訟的で、集合的、???的である。女性の〔誕生の〕方は、有用で、称賛され、性格善く、男たちに欲求されるばかり、みずからも男たちに対する欲求を有する。インドイ人たちは言う。月がこの宿に入るとき、種播くべからず、陸路の旅するべからず、貸すべからず、何かに着手してはならない。ドーロテオスは言う。美しいのは海路による旅、温暖な地方へ出郷すること、短期間で還ること。公事を為すのは不善である。なぜなら、信仰仲間に混乱さえ生ずるであろうから。収監された者は投獄が長引くであろう。新しい衣服を裁断したり着たりするのは不善。なぜなら、それらで窒息するであろうから。もちろん、毛髪や爪を切ってはならない。だが、晩餐に招待すること、夜間掠奪すること、投票すること、計算することは善。ペルサイ人たちは言う、善いのは、宝石や真珠を買い入れること、逆は、獲得すること、種播くこと。この宿に2星あり。
図像。
 頭の黒いイヌザル、(146) 両手を広げ、内も外も青く円い臍をして、真紅の翼のように上に???

 第9宿は(Tavrf)つまり「獅子」の眼〔単数〕と呼ばれる。しかし星は2つ〔蟹座χ星獅子座λ星〕で、土星の支配下にあり、巨蟹宮の12度11分26秒から、同じ〔宮の〕25度12分11秒までである。土性と縁起の悪さの支配下にある。男性の誕生は物乞いで、手仕事で生活し、生活必需品を獲得するに大いに巧みである。女性の誕生はふしだらで親を得損なう。インドイ人たちは言う。騎乗すること、仕事で財貨を送ることは善。ドーロテオスは言う。美しいのは馬匹を買い入れること、旅行すること。というのは、暖かい地方への旅行が生ずるだろう。放血や手で掬うことが不善なのは、鉄で焼くのも不善であるごとし。ペルサイ人たちは言う。美しいのは共働すること、買い入れること、だが悪いのは出血や手で掬うこと、単純に鉄を使うこと、美しいのは海路で旅すること、世話を焼くこと、奴隷たちを探すこと。
図像。
 臍まで裸のネーレーイスが、両手を広げ、左手で自分の尾を掴んでいる。なぜなら、臍を持った魚身が、彼女の左手の方に反っているからである。

 第10宿は第1(Tzavfa)つまり「獅子」の額と呼ばれる。この〔宿〕には4星〔獅子座α星ζ星γ星η星〕がある。また火星の領するところで、巨蟹宮の25度12分11秒から、「獅子」の8度34分18秒までである。水っぽく、温と混合し、縁起が善く、縁起の悪さに向かっている。男性の誕生は修行者を特徴づけ、女性の〔誕生〕は恥知らずで、放縦、男どもとの交わりに流れ、物乞い〔を特徴づける〕。インドイ人たちは言う。この〔宿〕に月があるとき、美しいのは穫り入れ、新しい酒を飲むこと、悪いのは旅行、借金、誰かに恩恵を要求すること、新品を身につけること、身を飾ること。ドーロテオスは言う。月がこの宿にあるとき、獲得する者は誰しも、その獲得物を盗まれる。また共働は儲けになると彼は謂う。牢にある者は、そこで長引く。ペルサイ人たちは言う。美しいのは放血、仕事すること、悪いのは話し合いや争訟。
図像。
 顎の長い男が、(147) 冠をつけ、??からのびる暗い薄緑色の翼と、??から〔のびる〕本当の鳥の脚をもっている。

 第11宿は(Zevmpra)つまり2つの壺〔ウサギ?〕と呼ばれる。この〔宿〕には2星〔獅子座θ星δ星〕がある。また月の領するところで、「獅子」の8度34分18秒から、21度25分44秒までである。火的で乾燥、縁起が善い。この〔宿〕における誕生は男女とも幸運、有用、人間美しく、両親からも、氏族からも、家に属する者らからも、祝福され、感謝され、人間たちから称讃されるものである。インドイ人たちは言う。捕虜たちを自由にすることが美しく、砦の傍に住むのが美しく、種播くこと、樹を植えること、旅すること、世話すること〔が美しい〕。ドーロテオスは言う。所有物は安全、公事は得になり、牢にある者は長引く。悪いのは新しい衣服を着ること、裁断すること。爪や髪を切るのも悪い。ペルサイ人たちは言う。美しいのは財貨を要求すること、旅すること、だが、飲み物を飲むことと医者にかかることは逆である。
図像。
 女が2匹の兎?を携え、装いを凝らし、両手は裸、真紅を着ている。

 第12宿は(Sarfav)つまり「獅子」の尻尾と呼ばれる。この〔宿〕には1つの大きな星〔獅子座946;星デネボラ〕が、そのまわりの9つの小さな星とともにある。また木星の支配下にあり、「獅子」の21度25分34秒から、「乙女」の4度17分8秒までである。火的且つ土的支配の混合で、縁起が善いとともに縁起が悪い。男性の誕生は、月がこの〔宿〕にあるとき性悪で、おぼつかなく、人間たちに受け容れられやすいことを明らかにする。女性の誕生は恥知らずで、饒舌、男好きで、男たちから悪口をたたかれる。インドイ人たちは言う。月がこの宿にあるとき、美しいのは獲得すること、地所を借りること、種播くこと、樹を植えること、婚約すること、新品を身につけること、装うこと。また、第1日に、その日の第3時に旅立つこと。ドーロテオスは言う。同じ宿に月があるとき、汝が貸すなら、汝に戻ってくることはないか、〔帰ってくるにしても〕やむを得ずである。海路旅する者は負傷し、公事を為す者は (148) 儲け、牢にある者は虐待されるだろう。だが、馬匹を飼育することは美しい。なぜなら、ずっと善い性格でありつづけるだろうから。奴隷たちを買い入れるのも善いのは、月が「乙女」の区界に入ったときである。なぜなら、俊敏で謙虚なことを特徴づけるからである。ペルサイ人たちは言う。美しいのは騎乗し狩猟すること、逆は、結婚し、新調羅を着ること。
図像。
 縛られ、寝台の上に坐っている女が、互いに見合っている。

 第13宿は(=Aoua:)つまり「獅子」の尻と呼ばれる。この〔宿〕には5星〔乙女座β星η星γ星ε星+?〕がある。金星の支配下にあり、「乙女」の4度17分8秒から、同じ星座の17度8分36秒までである。土的ないし乾の支配下にあり、縁起が悪いとともに縁起が善い。誕生の男性のが月がこの〔宿〕にあるとき素性の善さを特徴づける。女性のそれも男たちに歓愛され、有用、清浄、富裕な人生に属し、自分の夫に愛され、追従される。インドイ人たちは言う。この〔宿〕に月があるとき、美しいのは種播くこと、寡婦たちと結婚すること、旅すること、掠奪のために軍勢を派遣すること、しかし、月がこの宿の終わりにあるとき、旅行してはならない。ドーロテオスは謂う、奴隷と交わるのは悪いが、奴隷たちを買い入れるのは善い。また、海路旅から戻るのは善い、短期間で我が家にたどり着けるだろうからである。牢にある者はしばらくしたら釈放されるだろう。飲み物を飲むのは善い、また、新品を着ることは善いし、獲得すること、食事に招くことも、王と交際することも〔善い〕。ペルサイ人たちは言う。美しいのは年長者たちや文書を遣すること、逆は医療を受けること。
図像。
 山の上にグリフィン。

 第14宿は(Smakeizevl)つまり麦の穂と呼ばれる。この〔宿〕には「獅子」の脚に星がある〔乙女座α星スピカ〕。そうして土星の支配下にあり、「乙女」の17度8分36秒から、同じ星座の終端また土的、乾、縁起の悪さの (149) にある。誕生は男女とも難運、性悪、非難に曝され、悪霊的である。インドイ人たちは言う。月がこの〔宿〕にあるとき、結婚すること、飲み物を飲むことは善い、しかし種播くことと樹を植えることは逆である。旅行は美しい、契約を交わすこととか贈り物を贈ることとか恩恵を施すことは不善である。しかしドーロテオスは謂う、結婚をすることは不善である。なぜなら、処女はしばらくいっしょに暮らした後すぐに別れるだろうが、寡婦はふしだらであろうから。奴隷たちを買い入れるのは善。なぜなら、謙虚で、主人を愛し、忠実なこと明らかだから。海路旅すること、公事を為すことは善い。牢に入れられた者はすぐに自由にされるだろう。ペルサイ人たちは言う。善いのは教育や投票?を始めること、墓や井戸を掘るのは逆である。
図像。
 女が臍まで裸になって、次いで2匹の魚体を持ち、その尻尾は上に反って、彼女の広げられた手に掴まれている。

 第15宿は(Gavfr)つまり……と呼ばれ、この〔宿〕には、「乙女」の脚に2つの小さな星〔乙女座ι星κ星λ星〕がある。水星の支配下にあり、「天秤」の第1度〔端緒〕から、同じ星座の12度11分26秒までで、この〔星座〕は空気的であって、縁起が善い。誕生は男女とも幸運で、両親から祝福され、富裕で、有用すなわち清浄にして称讃されるものである。インドイ人たちは言う。月がこの宿にあるとき、宝物を隠すのは善く、黄金や銀細工をこしらえること、墓や井戸を掘ることは〔善い〕。しかし出郷は不善である。また打ち傷や怪我その他を治療するのも〔不善〕だが、ただし空気的病は別である。ドーロテオスは謂う、婚約を交わすことは悪い、別離を特徴づけるからである。貸したり借りたりするのも、そればかりか陸路や海路の旅をするのも、共働するのも同様である。寄留に善いのは、不動産や矮小な生き物を買い入れたり売り払ったり、???するのにも同様である。だが、四つ足の購入や、爪や毛髪の切るのには逆である。同様に、ペルサイ人たちも、奴隷たちの購入や、井戸や墓の掘鑿にも美しいが、話し合いや訴訟には逆だ、と謂う。
図像。
 二人の女が互いに交 、臍まで青い??冠を身につけ、それと同時に???


 第15宿はアラビア語で「アル=ガフル」と言われ、乙女座ι星、κ星、λ星から成り、アラビア語は「覆い」の意だという(近藤二郎『星の名前のはじまり』)。 

(150) 第16宿は(Zepavneia)つまり「天秤」の〔棹の〕両肩と呼ばれる。この〔宿〕に2星〔天秤座α星β星〕あり、「天秤」の12度11分26秒から、同じ〔星座〕の25度32分14秒まで、水星の支配下にある。というのは、空気的で、縁起の悪い自然とわずかに一致した縁起が善さに属する。男性の誕生は有徳、修行者的で、祝福されるが、女性の誕生は両親にとって縁起が悪く、ふしだらで性格が悪い。インドイ人たちは謂う。月がこの宿にあるとき、旅をしてはならない、飲み物を飲むことも結婚することもせず、種播くことをせず、植えることをせず、女たちを装うことをし〔てはなら〕ない。しかし、布を裁断すること、これを着ることは善い。ドーロテオスは謂う。結婚することは逆である。なぜなら、女は死亡するであろうから。しかし、奴隷を買い入れることは善い。なぜなら、謙虚で、主人を愛する者たることを特徴づけるから。陸路と海路の旅行、公事を為ることは逆である。なぜなら、混乱があるからと彼は言う。捕らえられた者はすぐに釈放されるだろう。ペルサイ人たちは謂う。美しいのは、装うこと、着物を買い入れること、逆は、返還要求すること、旅行すること。
図像。
 猿(mimwv)の頭、グリフィンの両耳、そのうえパーシス河産の鳥〔雉〕の装身具と上を向いた尻尾。

 第17宿は(=Aklivl)つまり王冠と呼ばれる。この〔宿〕に3星〔蠍座β星δ星π星〕あり、火星の支配下にあって、「天秤」の25度32分14秒から、「蠍」の8度38分<2秒>までである。空気的で、水っぽく、縁起が悪い。誕生は男女とも悪く、無謀、憎まれる。インドイ人たちは言う。美しいのは羊の毛を刈ること、言葉なきものらに餌をやること、新品で飾ること。砦の傍にいるのはもっとよい。ドーロテオスは言う。 ひとが処女を得るなら、不倫されるだろう、寡婦を〔得るのは〕善い。馬に乗るのは善い、船で出郷するのは恐ろしい。公事には愛勝を特徴づけ、愛の始まりが善いのは、友たちが離れないことを特徴づけるからである。美しいのは医療と服薬を使うこと、四つ足を買い入れ、土地の財の獲得には善いが、獲得は逆である。??
図像。
 鷹の頭、そのぐるりに金箔でこしらえられた冠をつけた、十字架にかけられた人間の背骨とともに。肉体は胸まで裸で、同時に車輪のように (151) 金箔でこしらえられた真の星をまとっている。そして車輪のここそこは翼のように青い。

 第18宿は(Kavlp)つまり<「蠍」の>心臓と呼ばれる。この〔宿〕に明るい星辰〔蠍座α星アンタレス〕があり、真ん中に2つの小さいのがある。「蠍」の8度38分2秒から、同じ星座の21度25分14秒まで。この宿も水っぽく、縁起が善い。誕生は男性女性とも幸運で、祝福され、性格よく、愛され、助言美しく、性格美しいが、著名な生には属さない。インドイ人たちは言う。獲得すること種播くことは善く、敵勢に使いを遣ること、東に旅することは〔善い〕。善宇宙的にふやけることが特徴づけられる。ドーロテオスは謂う、月がこの宿に火星とともにあるときにひとが女を得るなら、彼女は堕落するだろう???。また、奴隷たちの購入は不善だが、この星座が確かな間に所有するのは美しい、しかのみなら海路旅することも〔美しい〕が、共働してはならない。なぜなら、共働が協調しないこと、貸すことと貸してもらうことのごとくだからである。また毛髪を刈ったり、装うことは得にならない、しかのみならず医者にかかることや飲み物を飲むことも。これにはペルサイ人たちも同調している。旅すること、世話することは得にならないと彼らは言う。
図像。
 裸の女が、頭を右に傾け、自分を殺害したかのように、手に心臓を持っている。また心臓とともに、ここそこに星の散らばった青い車輪。彼女の身につけているのは真紅のスカート。

 第19宿は(Sou:la)つまり「蠍」の尻尾と呼ばれる。この〔宿〕に2つの小さな星〔蠍座λ星υ星〕があり、木星の支配下、「蠍」の21度25分14秒から、「射手」の4度17分10秒までである。水っぽく、火的、ほどほどの悪を伴って縁起が善い。誕生は男性女性とも両親と同族にとって逆で、憎まれ、非難され、性悪である。インドイ人たちは言う。この宿に月があるとき、美しいのは敵を襲撃し、都市を掠奪し借金を求めないこと。しかし種播くことと樹を植えることは善。ドーロテオスは言う。ひとが海路出郷するなら、(152) その船が難破する恐怖に遭おう。幽閉された者はひどい目に遭うだろう。ペルサイ人たちは謂う。所有は善、旅行と公事を為すことは不善。
図像。
 花冠をかぶり、真実げな、顔に翼のある女。???

 第20宿は(Naevm)つまり2頭の駝鳥と呼ばれる。この〔宿〕に8つの星〔射手座γ星δ星ε星η星σ星ζ星φ星χ星τ星〕がある。4つは2つの星座の真ん中に、もう4つは外にある。水星の支配下にあって、「射手」の4度17分10秒から、同じ星座の17度8分36秒までである。火的で縁起の善い自然を有す。誕生は男性女性とも幸運、敵に対してであれ共働においてであれ 着手する者たちに巡り逢い、???歓愛され、性格美しいが、著名ならざる生に属する。インドイ人たちは謂う、この〔宿〕に月があるとき、言葉なきものらに草をやるのは美しく、旅行は真ん中である。雨が降れば、しばらくの間を除いて水浸しとなる。ドーロテオスは言う。美しいのは言葉なきものらに草をやること、悪いのは共働すること。囚われた者ははなはだひどい目に遭うだろう。ペルサイ人たちは謂う。善いのは財貨の返還要求すること、武具を買い入れること、だが、装いを凝らしたり結婚するのは逆である。
図像。
 2頭の駝鳥。

 第21宿は(Spaltav)つまり砦と呼ばれる。この〔宿〕に12の小さな星辰が囲むようにある〔射手座π星?〕。土星の支配下にあって、「射手」の17度8分36秒から、同じ星座の終端までである。火的自然に属し、縁起が悪い。誕生は男性女性ともに不運、両親の一人を亡くし、多婚、性悪ではないが不正される者らの???。インドイ人たちは謂う。この宿に月があるとき、獲得すること、種播くこと、所有物や四つ足を買い入れること、装いを凝らし布地を裁断すること、新品を着ることは善だが、旅行することは真ん中である。ドーロテオスは謂う。結婚することは得にならない、奴隷たちを買い入れることは真ん中である。なぜなら、横柄なることを特徴づけるから。ペルサイ人たちは謂う。美しいのは王たちに拝跪すること、しかし旅行が逆であるのは、奴隷たちや、馬以外の四つ足を買い入れることと同様である。
図像。
 四方に樹のある砦。

 第22宿は(Sa;t ta;f povx)つまり屠殺者の僥倖 (153) と呼ばれるが、アッラビタイ人たちはこれを羊と呼ぶ。この〔宿〕には2つの小さな星がある〔山羊座α星β星〕。土星の支配下にあって、「山羊角」1度〔端緒〕から、同じ星座の12度51分26秒までである。土的自然に属する。この〔宿〕における男性の誕生は祝福され、幸運、人間たちから歓愛され、性格美しく、その仕事は善。女性の〔誕生〕は、しまりなく、恥知らず、交合のために報酬を与えるのと同じである。インドイ人たちは言う。月がたまたまこの宿にあるとき、美しいのは飲み物を飲むこと、どんな医療をも受けることである。だが、このような宿の終わりあたりにあるのでないかぎりは、旅行は逆だと彼らは謂う、装うことも逆であるように。ドーロテオスは謂う。月がこの宿にあるときに結婚すれば、いっしょになると同時に、すぐに別れるだろうが、夫は1時間後に命終し、妻はふしだらであろう。奴隷たちの買い付けは逆である。船で出郷するのは善だが、その旅は悲惨、儲けの期待に疑いをもたらす。囚われた者は、短期間で自由になるだろう。ペルサイ人たちは言う。美しいのは財貨を返還要求すること女奴隷を求めること、乗馬は逆である。
図像。
 女が素敵な手を延ばし、右手に筬を携え、それで自分を切っている、女は臍まで裸。それと同時に、自余のものらを〔刻字用の〕鑿で同様に。???

 第23宿は(Sa;t pou;lg)つまり喉すなわち呑噬者の僥倖と呼ばれ、この〔宿〕の「水瓶」の素晴らしい把手に2つの小さな星がある〔水瓶座ε星アルバリ〕。また、水星の支配下にあって、「山羊角」12度51分26秒から、同じ〔星座〕の25度42分までである。また、土的自然に属し、混合の支配下にあり、縁起の善い???。男性の誕生は性悪で恥知らず、それゆえ彼との交わりを避けるべきこと、不運と悪のごとくである。女性の誕生の方は恥知らずのふしだらで、性格悪く、はなはだ放縦である。インドイ人たちは言う。この〔宿〕に月があるとき、美しいのは医者にかかること、装いを凝らすこと、新しい服をきることだが、借りや恩恵を求めるのは不善である。また旅することも、(154) このような宿の1/3区界に月があるときには〔不善である〕。なぜなら、自余の区界には不善だからである。<ドーロテオスは言う。> もしひとが結婚するなら、短期間のうちに別れるであろう、女がふしだらであるから。奴隷たちの購入には逆であるが、共働は善である。囚われた者はすぐに自由になるであろう。ペルサイ人たちは、美しいのは逃げることだが、旅行と治療にかかることは逆である、と謂う。
図像。
 顔と身体を臍まで縛られた女が、右手を地面まで延ばし、左手は喉に当てている、と同時に鳥が、臍を放縦者のそれのように。どうやら、同じ星座の2足の鵞鳥らしい。???

 第24宿は(Sa;t siouvt)つまり僥倖者の中の僥倖と呼ばれる。この〔宿〕には、「山羊角」の尻尾に3つの星がある〔水瓶座β星=サダルスドξ星+?〕。火星の支配下にあって、「山羊角」の25度42分から、「水瓶」の8度34分18秒までである。土的にして空気的自然に属し、縁起が善い。男性的・女性的誕生はともに幸運で、祝福され、???人間たちから愛され、性格美しく、行い美しい。インドイ人たちは謂う、月がこの宿にあるとき、善いのは羊の毛を刈ること、傷の治療を受けること、夜間に荒らすこと、だが、装身具を作り、布地を裁断し、着るのは逆である。だが、旅行は真ん中だと彼は謂う。ドーロテオスは謂う、しばらく結婚が持続すれば、別れることはないだろう。奴隷どもを買い入れることは善いが、海路出郷し共働することは逆である。捕らえられた者は自由になるであろう。ペルサイ人たちは、美しいのは種播くこと、所有すること、逆は航行すること、と謂う。
図像。
 女主人が真紅の王座に座って、白と黄金の外衣???青い長枕??

 第25宿は(Sa;t a]l ajkpive)つまり幕屋の僥倖?と呼ばれる。この〔宿〕に2つの星と、その真ん中にもうひとつの小さな〔星〕がある〔水瓶座γ星=サダグビアζ星π星η星〕。金星の支配下にあり、「水瓶」の8度34分18秒から、同じ星座の21度25分44秒までである。空気的自然に属し、縁起が善いものである。男性・女性とも誕生は悪く、因業なこと、両親の破滅を (155) 特徴づけているかのごとくであるばかりでなく、異邦人たちのもとで養われ、悪人にして物乞い???。インドイ人たちは言う。美しいのは、使節の使いや結婚すること、衣服を買い入れること、西方へ旅行すること。だが、種播くこと、羊の毛を刈ることは逆である。ドーロテオスは謂う。美しいのは奴隷たちを買い入れること。なぜなら、有能で、主人を愛し、忠実なことを特徴づけるから。だが、結婚は真ん中、硬いものを所有すること、海路での出郷は美しい。しかし????。また共働することは善い。だが、捕らえられた者は、自由になることはあるまい。ペルサイ人たちは、学を始めること、旅することは美しく、話し合いや訴訟は逆である、と謂う。
図像。
 薄緑色の幕屋、その中に真紅の衣をまとった女が、冠をつけて座っている。

 第26宿は(Fa;rg a{lmouk ta;m)つまりアルゴーの頭と呼ばれる。この宿に2つの小さな星があり〔ペガサス座α星β星〕、「水瓶」の角と呼ばれる。太陽の支配下にあり、「水瓶」の21度25分44秒から、「魚」の4度17分41秒までである。空気的自然に属し、縁起が善いものである。男性的誕生は幸運にして称賛され、性格美しく、美しい助言を与えるものにして、働き美しきものであるが、<女性的>〔誕生〕は人生の中ほど、幸運でもなし、難運でもない。インドイ人たちは、美しいのは命あるものらへの施し???、飲み物を飲むこと、旅すること、ただし、この宿の1/3まではしてはならない、と謂う。ドーロテオスは謂う、しばらく結婚を続ければ離婚しない。奴隷の購入には善。なぜなら、忠実で主人を愛することを特徴とするゆえ。捕らえられた者が解放されることはないだろう。ペルサイ人たちが〔謂うには〕、財貨の要求や技術の始めは美しく、話し合いや訴訟は逆である、と。
図像。
 薄緑色をした人間が、植物の根を右足で避けながら、右手でその植物の先を掴み、もう一方の手と足では、後ろ上に反っている。


 第26宿は、ペガサス座α星とβ星から構成される。
 アルゴー(船)座は、もともと全天で最大の面積を持つ星座であったが、18世紀になって、「艫座」「帆座」「竜骨座」「羅針盤座」に分割された。しかし、水瓶座・魚座と一致せず、アラビア人のこの誤解は古くからあったとWeinstock。

 第27宿は(Fa;rg a]l mou:xar)つまり「水瓶」の春の角(カク)と呼ばれる。この〔宿〕には2つの星がある〔ペガサス座γ星アンドロメダ座α星〕。木星の支配下にあり、「魚」の4度17分31秒から、同じ星座の17度34分31秒までである。水の自然を有し、(156) 縁起が善く且つ縁起が悪い、すなわち混合した自然を有す。男性の誕生は悪く、無謀、性悪だが、女性の〔誕生〕は幸運、祝福され、人間たちから愛される。インドイ人たちは謂う、この宿に月があるとき、美しいのは、羊を世話すること、飲み物を飲むこと。しかし何か恩恵とか借金を求めることは不善である。結婚は美しいが、旅行は中間である。ドーロテオスは謂う、航行する者はばちがあたり、共働する者は美しい始まりを持つが、終わりは不善である。捕らえられた者は解放されることがなく、奴隷たちを買い入れるのは不善である。ペルサイ人たちは謂う、墓を作ったり泉を掘るのは美しく、旅行したり寄留するのは逆である。
図像。
 赤髭をした?人間が、最善ではないが上方の者と同じことをしている。???

 第28宿は(Pa;tn ajlxouvt)つまり魚たちの腹と呼ばれる〔アンドロメダ座β星または魚座β〕。月の支配下にあり、同じ宮である「魚」の17度44分41秒から、その終端までである。水の自然に属し、縁起の善いものである。男性と女性の誕生は幸運、祝福されたもの、人間たちから愛されるもの、称讃されるもの、性格美しく、行い美しい。インドイ人たちは言う。この〔宿〕に月があるとき、美しいのは、羊の世話をすること、種蒔くこと、飲み物を飲むこと、悪いのは、契約を結ぶこと、裏切りに対して買い入れの代価や手付けを払うこと、結婚は美しいが、旅行は中間である。ドーロテオスは謂う、買い入れられた奴隷はおしゃべりで恥知らずであろう。海路旅する者はばちがあたろう。公事は美しい始まりを特徴づけるが、その終わりは不善である。捕らえられた者は解放されることがないだろう。ペルサイ人たちは謂う。この〔宿〕に月があるとき、航行は美しく、契約をすることは不善である。
図像。
 ???肌色の服を臍まで着た女が、2匹の魚の上に坐っている、その〔魚たち〕の尻尾は彼女の両の手に掴まれて上に反っている。

2017.08.02. 訳了



[イスラームの28月宿]

 アラビア語では、月宿をマナージル・アル= カマル(manတzil al-qamar)と呼んでいます。イスラームの月宿の起源は、遊牧の民であるべドウィンにより考案されたとされています。月の見かけの軌道である白道付近にある明るい星を目印として、作成されたとされていますが、その正確な起源については詳細は不明です。
 イスラームの28の月宿の名前とそれらを構成する星ぼし、そして、それぞれの月宿の意味に関し、簡単に解説していきましょう。
第1月宿:アッ=シャラ夕―ン(aš-šaraṭān)
 おひつじ座のβ星とγ星で、「二つの記号」といった意味とされています。
第2月宿:アル=ブタイン(al-bu-ṭain)
 おひつじ座δ星、ε星、ρ星の3星からなるもので、「小さなお腹」という意味です。
第3月宿:アッ=スライヤ―(aṯ-ṯurayyā)
 日本語の昴の名前でも有名なおうし座のブレアデス星団のことです。
第4月宿:アッ=ダバラーン(ad-dabarān)
 おうし座α星のアルデバランのことで、「追随者・追いかけるもの・従者」などを意味するとされています。おうし座α星が、ブレアデス星団(昴)を追いかけ天空上を動いていく様子から、この名前となったとされています。
第5月宿:アル=ハカア(al-haq‘a)
 オリオン座のλ星、φ1星、φ2星の3つの星を表しています。「馬の巻毛」という意味とされています。
第6月宿:アル=ハンア(al-han‘a)
 ふたご座のγ星とξ星の2星からなるもので「ラクダの首の印」を意味するとされています。山本啓ニ氏はラクダの首の下の焼印としています。
第7月宿:アッ=ジラーア(aḏ-ḏirā‘a)
 「前脚」という意味ですが、元来は「ライオンの伸ばした前脚」を意味するアッ=ジラーア・ル =アサド・マブスータ(aḏ-ḏirā‘ al-asad mabsuṭa)に由来するものです。ふたご座のα星β星で構成されます。
第8月宿:アン=ナサラ(an-naṯara)
 かに座のプレセべ星団を指しています。この語もまた、「ライオンのしみ(?)」を意味するアン=ナサラ・アル=アサド(an-naṯara al-asad)に由来するとされます。このように見てくると第7月宿も第8月宿も、現在ではそれぞれ、ふたご座とがかに座ですが、これらの場所には、現在のしし座より、非常に大きな範囲にしし座が描かれていたことが想起されます。
第9月宿:アッ=タルフ(aṭ--ṭarf)
 かに座χ星としし座λ星からなるもので、「(ライオンの)眼」を意味するものです。
第10月宿:アル=ジャブハ(al-jabha)
 「額」を意味する「アル=ジャブハ(al-jabha)」に由来し、しし座ζ星、γ星、η星、そしてα星の4星で構成されます。

leon.jpg
スーフィーの『星座の書』写本に描かれた獅子座(ウラの星座)。
アラビアでは、第9月宿から第12月宿までの4つが、獅子座に置かれていた。
第11月宿:アッ=ズーブラ(az-zūbra)
 しし座θ星とδ星を示し、「ライオンのたてがみ」を意味する「アッ=ズーブラト・アル=アサド(az-zūbrat al-asad)」の前半部分から作られたものです。
第12月宿:アッ=サルファ(aṣ--ṣarfa)
 しし座β星のデネボラの別名です。「変化」 という意味になると考えられますが、詳細は不明です。
第13月宿:アル=アウワー(al-‘awwā)
 おとめ座β星、おとめ座η星、おとめ座γ星、おとめ座ε星から構成され、「吠える犬」を意味します。
第14月宿:アッ=シマ―ク・アル=アアザル(as-simāk al-a‘zal)
 おとめ座α星のスピカを指します。この言葉の意味は「無防備な(武装していない)シマーク」 で、「シマーク(sim03lk)」の正確な意味は不明です。しかし、シマークという語は、古代バビロニア起源と考えられています。
第15月宿:アル=ガフル(al-gǧafr)
 おとめ座ι星、κ星、そしてλ星からなり、「覆い」という意味です。
第16月宿:アッ=ズバーナ(az-zubāna)
 かつて、さそり座の2本のはさみを表す、てんぴん座α星とてんびん座β星とから構成され、「さそりの2本のはさみ」を意味しています。
第17月宿:アル=イクリ―ル(al-ikIīl)
 さそり座β星、δ星、そしてπ星からなるもので、「(さそりの)王冠」という意味を持ちます。
第18月宿:アル=カルプ(al-qalb)
 さそり座α星のアンタレスのことです。アンタレスの位置から、「サソリの心臓」という意味の 「アル=カルブ・アル=アクラブ(al-qalb al-‘aqrab)」に由来します。
第19月宿:アッ=シャウラ(aš-šawlat)
 さそり座λ星とそのすぐ隣のさそり座υ星からなっています。アラビア語で「サソリの針、サソリの尾」を意味するアッ=シヤウラト・アル=アクラブ(aš-šawlata -al‘aqrab)に由来しています。
第20月宿:アン・ナアーイム(an-na‘āim)
 いて座のγ星、δ星、ε星、η星、σ星、ζ星、φ星、χ星、そしていて座τ星から構成されるものです。山本啓ニ氏によれば、この語の意味は「ダチョウ」とされていますが、詳細は不明です。
第21月宿:アル=バルダ(al-balda)
 この語は、アラビア語で「その場所」という意味を持ちます。該当する明るい星はないとする説もありますが、マンスール・ハンナ・ジュルダーク(Mansūr Ḥanna Jurdāk)は、この月宿に、 いて座πを当てはめていますが、その詳細については何も言及していません。
第22月宿:サアド・アッ=ザ―ビフ(sa‘d aḏ-ḏābiḥ)
 やぎ座aα星とやぎ座β星からなります。「屠殺者の幸運(の星)」という意味です。この月宿の名前の省略した形であるアッ=ザービフ(aḏ-ḏābiḥ)が、やぎ座β星の名前ダビー(Dabih)の由来となっています。
第23月宿:サアド・ブラア(sa‘d bula‘a
 みずがめ座ε星にあたります。「飲み込む者(大食漢)の幸運(の星)」という意味です。みずがめ座ε星の名前であるアルバリ(Albali)は、この月宿の名前に由来しています。
24四月宿:サアド・アル=スアウード(sa‘d as-su‘ūd)
 みずがめ座β星とξ星から構成され、「幸運の中でもっとも幸運なもの」を意味しています。みずがめ座β星の名前であるサダルスド(sadalsud)は、この月宿の名前に由来しています。
第25月宿:サアド・アル=アクビ―ヤ(sa‘d al-akbīya)
 みずがめ座γ星、ζ星、π星、η星から構成され、「テントの幸運(の星)」という意味です。また、みずがめ座γ星の名前のサダクビア(Sadachbia)も、この月宿の名前に由来します。
第26月宿:アル=ファルグ・アル=アウワル(al-farǧ aṯ-ṯāniī)
 ペガサス座α星とβ星の2星から構成されます。山本啓ニ氏は、この語の意味を「(バケツの) 最初の出口」としています。
第27月宿:アル=ファルグ・アッ=サーニー (al-farg aṯ-ṯānī)
 ペガサス座γ星とアンドロメダ座α星で構成されます。第26月宿との関連で「(バケツの)二番目の出口」という山本啓ニ氏の説が有力と考えられます。
第28月宿:アッ=リシャーア(ar-rišā‘)
 アラビア語の「ロープ(縄)」を意味する「アッ=リシャーア(ar-rišā)に由来しています。現在、うお座α星の名前であるアルレシヤ(Alrescha)またはアルリシ(Alrisha)は、この月宿の名前に由来していますが、元来、アンドロメダ座β星の名前の一つでした。そのため、この第28月宿はうお座α星ではなく、アンドロメダ座β星の場所になります。アンドロメダ座β星は、「魚」 を意味するアル=フート(al-ḥūt)とも呼ばれていました。アンドロメダ座β星ではなく、うお座β星に由来すると考える研究者もいます。

 以上、イスラーム世界の28月宿を簡単に紹介してみました。第1月宿から見てもわかるように、おひつじ座、おうし座、ふたご座、かに座、しし座、おとめ座、てんびん座、さそり座、いて座、やぎ座、みずがめ座、うお座などから、28月宿はもともとは黄道上に作られたものが起源となっているように思われます。
 黄道12宮は古代メソポタミア地域で誕生したものです。したがって28月宿の起源も古代メソボタミアにあるように思えますが、このあたりの部分は依然として謎に包まれています。
 また28月宿の28とレう数から想起されるものとして古代中国の「星宿」かあります。天の赤道上を28のグループに分けたものですが、その起源にも注目させられます。
          (近藤二郎『星の名前のはじまり』p.29-35)

参照:point.gifPython.「月の28宿について」
 
forward.GIF7層の帯について