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Isocrates



一揃いの〔戦車用〕競走馬について(2/5)






[11]
 そして、 おりにふれて父を侮るふりをして、余人に抜きん出たところは何もないと言い立てながら、今は、過去の出来事すべての責めを父に帰して、ラケダイモン人たちは戦争の仕方を父から学び、他の者たちにも教える術を得た、と主張するのである。だが、私としては、充分な時間が私にあったら、父の為したことは義しく、責めを負わされていることは不正であるのを証明するのは容易であろう。しかし、何にもまして恐るべきことは、父は亡命という代償を払ったにもかかわらず、私が父の亡命を理由に罰せられる場合であろう。

[12]
 私の考えるところでは、父はあなたがたから最高の容赦に与るのが義しいのである。なぜなら、あなたがたは「三十人」によって放逐され、父と同じ災禍に見舞われたのだからである。ここからして思いを致すべきは、あなたがた各人が、いかなる境遇にあり、いかなる考えを有し、どのような危険を堪え忍ぶことによって初めて、寄留をやめて祖国に帰還し、自分たちを追いだした連中に報復できたかということである。

[13]
 また、国家にせよ友にせよ外人にせよ、あなたがたの帰還を援助してくれるよう懇願するためにあなたがたの出向かなかったところがあろうか。また、帰還の努力で、あなたがたの差し控えたようなことが、何かあったであろうか? また、あなたがたはペイライエウスを占拠し、領内の穀物を壊滅させ、耕地〔の果樹を〕伐り倒し、郊外に火を放ち、最終的には城壁に突撃したのではなかったか。

[14]
 それも、そうしなければならないとのあなたがたの確信の甚だしさたるや、災禍の原因となった張本人たちによりも、むしろ同じ亡命者たちの中で、おとなしくしている者たちに腹を立てるほどであった。したがって、尤ものなのは、あなたがたと同じ事を欲求した者たちを咎めることではなく、亡命後帰還することを求めた者たちを悪人どもだとみなすことでもなく、むしろ、〔国内に〕留まって追放刑に値することを為した連中をこそ、そうすべきである。また、父が市民としていかなる人物であったかを、彼にとって何ら国に関わりのなかった時を起点にして判断するのではなく、

[15]
 考察すべきは、亡命以前の時代に大衆に関していかなる人物であったか、また、重装歩兵200を率いて最大の国々をペロポンネソスのラケダイモン人たちから離反させ〔419年、トゥキュディデス、第5巻、第52章〕、あなたがたの同盟者と為し、かくして、彼らをどれほどの危難に陥れたかということ、また、シケリア近辺で、将軍としてどうであったかということである。こういったことへの感謝をあなたがたが父にするのは当然である。これに反して、災禍の間に生じたことの責任は、父を追い出した連中にあると考えるのが義しいであろう。

[16]
 さらに、お互い同士で思い起こしていただきたいのは、父が帰還して後、いかに多くの善きことを国家にもたらしたか、なおそれ以前にも、事態がどのようなときに、あなたがたが父を迎え入れたのかということである。それは、民主体制が解体させられ〔411年〕、市民たちは党争し、出征兵士たちは内地に樹立された政権に反目し、両派とも狂気に陥って、どちらの派にも救済の希望が何一つないときであった。

[17]
 すなわち、一方の派は、国家を掌握した連中をラケダイモン人たち以上の敵とみなし〔トゥキュディデス、第8巻、第82-86章〕、他方の派は、これをデケレイアから呼び寄せようとした。祖国を敵国人たちに引き渡す方が、國のために出征している者たちを国政に参加させるよりもましだと考えたからである。

[18]
 さて、市民たちがこのような考えを持ち、敵国人たちが陸も海も制圧し、なおそのうえに、あなたがたには財産がなく、敵方には〔パルシア〕大王がついており、かてて加えて、ポイニキアからの艦隊がアスペンドスに到着して、ラケダイモン人たちに加勢する準備をしているという、国家がこれほどの災禍とこのような危難のさなかにあるときに、

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 出征兵士たちは父を呼びにやったが、目前の事態に尊大になることなく、過去の出来事を難じることもなく、将来のことを思案することもなく、すぐさま、国家とともにどん目にでも遭うことの方を、ラケダイモン人たちとともにいい目に遭うことよりも選んだのであり、かくして、万人に明らかとしたのは、戦っているのは〔自分を〕追い出した連中とであって、あなたがたとではなく、欲するところは、帰還することであって、国家を破滅させることではない、ということであった。

[20]
 そうして、あなたがたといっしょになって、ティッサペルネスに対しては、ラケダイモン人たちに金品を提供しないよう説得し〔414年〕、あなたがたの同盟者たちには、離反を思いとどまらせ、将兵たちには自腹を切って報酬を支払ってやり、民衆には国制を引き渡し、市民たちは和合させ、ポイニキアの艦隊は撤退させたのである。

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