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犬儒派作品集成

テーバイのクラテース

〔盛時、326 B.C.〕



[略伝]

 テーバイ出身(c. 368/365-288/285 BC)。犬儒派哲学者にして詩人。若いときにアテーナイに行き、シノーペーのディオゲネースの信奉者となり、財産を放棄して貧者に与えた。彼の主張がディオゲネース哲学からどれくらい隔たっているかは、議論の的である。「ディオゲネースの同胞市民」と主張したが、これはよく似た世界市民主義を信奉したものである。有名な逸話だが、自由と人前での性交というディオゲネースの規定を、彼は犬儒派的な生活態度を共有するヒッパルキアとの関係で演じてみせた。また、ディオゲネースと同じくらい極端で偏狭な倫理的感情をしばしば露わにした。しかし、富の完全な放棄とか、誰しも犬儒派になるべきだとか言い張ることはなく、現実の職業に一種の妥当性を認めていた。そうして、教訓の提示、悩んでいる者に対する慰め、敵同士を和解させる際に見せる彼の相当な魅力と親切さの展開は、彼に「扉を開ける人(Qurepanoi/kthj)」とか「good-spirit」とかいう綽名と、古代を通じて持続する人間愛の評判を獲得させた。個人と伝道者との間に明らかな違いがあったとしても、クラテースはディオゲネースの厳密な信奉者であったように見える。とはいえ(時々ではあるが)他者に対してはより大きな自由範囲を許容した。このような部分的な道徳的相対主義は、彼をして*硬派*の犬儒主義と*軟派*の犬儒主義とを結びつかせた。また彼は、ゼーノーン〔キティオーンのゼーノーン。335-263 BC〕(クラテースの最も有名な信奉者)を介して、犬儒主義とストア主義とを結びつかせた。

 クラテースの重要な詩作品のうち、最も重要な伝存する断片は、ホメロースやソローンの洒落た機知に富んだ改作である。古代の伝統は、これらを、たんなる文学的パロディーとしてではなく、正当にも、真面目で滑稽な犬儒派の文章と解した。

(OCD, J. L. Mo.)

book.gif ディオゲネース・ライエルティオス『ギリシア哲学者列伝』第6巻5章「クラテース伝」

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