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堕天使




◇高校生のころから、すべての悪魔的なもの(こと)に興味と関心をいだきつづけているぼくにとって、今回のV-3 学園祭参加作品『堕天使』は、その題名だけでも充分満足にたるものである。堕天使とは何か?――知っている者は少ないと思うから、ここで紹介しておく。

◇「はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は「光あれ」と言われた。すると光があった。神はその光を見て、善しとされた」と、旧約聖書の創世記は書き始められている。この時に、光の精つまり天使が生み出されたのだという。

 天使の世界には純然たる階級があり、最高位の天使を熾天使(Seraph――ヘブライ語で燃える意)という。  しかるに、ルシファー(Lucifer――光をもたらす意から、明けの明星・金星のこと)という熾天使は、それでは満足できずに、自分が神の座に座ろうという野心をいだいた。神に対する反逆である。ここに天国は、神の側につくものと ルシファーの側につくものとに分裂し、内戦状態となった。

 戦いは9日の間つづいたが、ついにルシファーとその仲間の天使たちが敗れ、彼らは天国から追放されて奈落に投げ込まれ、ルシファーは奈落の底に繋がれたのである。この、天から墜落した天使のことを、堕天使と呼ぶのである。

 旧約聖書のイザヤ書には次のように書かれている。――
 「黎明の子、明けの明星よ、あなたは天から落ちてしまった。もろもろの国を倒した者よ、あなたは切られて地に倒れてしまった。あなたはさきに心のうちに言った、「わたしは天にのぼり、わたしの王座を高く神の星の上におき、北の果てなる集会の山に座し、雲のいただきにのぼり、いと高き者のようになろう」。しかしあなたは陰府に落とされ、穴の奥底に入れられる……」と。

 この、奈落の底に落ちたルシファーのことをサタン(Satan――ヘブライ語で、神の敵の意)と呼ぶのだとか、いや、サタンは反逆軍の北部方面の司令官で、ルシファーの部下であるとか、このあたりのことは諸説あって定まらない。

 が、いずれにしろ、悪魔(堕天使)とは否定の原理であり、否定の情熱であり、否定の実戦を象徴するものである。無政府主義者のバクーニンは自分たちの直系の先祖はサタンであるとまで言明している。天国を追放された堕天使たちは闇の世界を支配し、闇の世界から今もなお神への反逆をあきらめないのである。

◇ところで、シナリオ『堕天使』が提起している問題は何か、また、それが当然受けるであろう反論は何か、という難しい問題は後にまわして、もっと低次元のところで気がかりなことがある。それは、ウソツキ少年が本当のことを言っても相手にされないということ、喧嘩の仕方を知らない者が喧嘩をしたら打ちのめされるのがオチだということである。

◇「逆鱗にふれる」という言葉がある。竜のあごの下には逆さに生えた鱗があり、それに触れると、竜は怒って必ずその人を殺すという。
 1学期の爆竹事件の犯人の真意がどのへんにあったのかわからないが、学校はそれを学校そのものに対する反逆かも知れぬと受け取った。学校にとって授業はまさしくその急所ともいうべきものであり、その授業中に鳴るように爆竹が仕掛けられたのだから、学校がそれを一大事と考えたのも当然であろう。爆竹事件は、言ってみれば、学校という竜の逆鱗に触れる行為であったのだ。

 現実の爆竹事件はその後おさまり、たんなるイタズラで深い意図はなかったらしいということで竜の怒りも鎮まろうとしている時、V年3組の映画『堕天使』は再び、その最も触れられたくない部分に敢えて触れようとしている。それもV年3組という名乗りをあげ、理論武装までしてだ。

 たんなるイタズラなら、その幼稚さゆえに許される余地はある。しかし、責任をもって主張されることに対しては、相手も自己の存亡をかけて(それが大袈裟だというなら、自己の威信をかけて・面目をかけて)対決してくるであろう。
 今われわれは、爆竹という幼稚な手段によってではなく、映画という表現手段によって、意識的に逆鱗に触れようとしている――そのことをどれほどの諸君が自覚しているだろうか。

 あるいは、反撃らしきものは何もなく、ただ黙殺されるだけかも知れない。それはそれでよい。ただ、『堕天使』に主張があり、その主張を少しでも真正面から受け取ってもらいたいと望むなら、君たちは今どう振る舞わなければならないか、そのことを考えてほしいのだ。
 思想の対決を、くだらぬスキャンダルによってぶちこわしにしてはならない。

附記
 映画『堕天使』の内容については、堕天使に詳しいので、そちらを参照されたい。
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