見てください。
政治的には70年代の暑い秋から左翼自治体が増加し、その後、社会党を中心とした連立、オリーブの樹、ベルルスコーニと変わってきました。
その間、社会的には、イタリアは第3のイタリア(中北部イタリア)の職人企業の成長に支えられ、産業構造・地域構造を大きく変えてきています。
一番早いのはアグリツーリズムです。65年、そしてあの学生運動の余韻が残っている70年代に始まってきました。そこで価値観を大きく変えてきました。この間にECの農業政策も、観光振興、景観保護に変わってきています。そのなかでイタリアの農業がどう生き残るか、イタリアの農村がどう生き残るかを、学生運動を担った人たちがまじめに考えたのです。
もちろん大企業に入った人も、官僚になった人も、大学に残った人もいたんだろうけど、イタリアは幸いなことに役人の数も少なく、大企業もたいしてなかったのです。
だから全共闘崩れの連中が地域に入っていったのです。そして彼らは農業を変え、地域を変えて行かなくてはだめだと分かって、最初に始めたのです。
最後に、それを追うように景観政策が出てきます。私もガラッソ法の紹介をしましたが、1985年です。オルチャの取り組みが86年です。ずーっときて、約20年かかって、世界遺産に登録されるという時代になったのです。 まとめ
■アグリツーリズム、スローフード、景観
アグリツーリズム、スローフード、景観
これが社会の動きと、農村観光、スローフード、景観の動きをまとめた表です。
何がスローで、何がファストか |
インスタント食品に対して、外で食べればスローフード。中で食べればオーガニック革命です。意識がそういうふうに急速に変わってきています。特に知識層から、そしてお金持ちから変わってきています。
着るものもそうです。昔はカジュアル。ジーパン。素材はポリエステル。今は自然素材です。
そして多様化していてアメリカナイズされません。なんとか個性的なファッションを探し出します。日本だったらコスプレに走っちゃうような子たちが、一生懸命、安い素材でも面白いものを作ろうとしています。
それから住。我われ建築の世界では近代合理主義建築がファストです。こんな事を言うと怒る人がいるかもしれません。ル・コルビュジエをいきなりファストフードと一緒に論じてしまうわけですから。
しかし今は、伝統建築の再生であり、町並み再生であり、町家レストラン、農家民宿です。それがスローです。
ですから近代建築の時代に小さく細く伝統建築を守ってきた人たちからすれば、庵のように町家をホテルにするのは怪しからんということになりますが、庵一人を責めても仕方がない。こんな大きな変化が起きているのです。
そして都市(計画)です。機能主義、用途地域制、そして工業都市を作るのがファスト。それにたいして、歴史都市再生、脱車社会、ミックスユーズ、創造都市がスローです。
観光もマスツーリズムから、オルターナティブツーリズム、アグリツーリズム、エコツーリズムに変わってきている。
今、こういう大きな価値観の転換、ファストからスローへという社会の動きが起こっています。これが着々と進んできて、イタリアの地域が変わろうとしている。
もちろんスローフードに引っ張られる人もいます。アグリツーリズム、そして景観に引っ張られる人もいます。
この三つの磁石が環境意識、有機農業、食の安全、健康志向、ガストロノミー(美食)、スローフード、農村景観、観光変化(ブルー+ホワイト⇒グリーン+アグリ)、都市計画など様々な分野で社会を変えていく大きなエネルギーになっています。
このような本質的で根幹的な変化は、フランスでも、イギリスでも、それぞれ違う形ですが、共通して起こっています。
日本ではどうでしょうか。
BS日テレの「小さな村の物語イタリア」という番組があります。
なぜこんな番組をやっているかというと「気候や風土に逆らわず、先人たちが築いた伝統や文化を誇りに思い生きる。人間本来の暮らしが息づく「小さな村」が今、注目されています。古き良き歴史と豊穣の大地を持つイタリアで、心豊かに生きる人たち。“美しく暮らす 美しく生きる”とはどういうことなのか。
私たちが忘れてしまった素敵な物語が、小さな村で静かに息づいていました。番組ではありのままの時間の流れを追い、村人たちの普段着の日常を描いていきます」と書かれています。
これがまさに今、日本で求められているライフワークバランスとか、暮らしの質の大きな転換です。
さらにNHKではベネシアさんの手づくりライフという言い方で京都の大原の里山での生活をアピールしています。
京都市はちょうどのこの大原に京郊の暮らしということで歴史的風致維持向上計画をかけています。
一方、おしゃれでエコ。女性が実践する農ライフもぐっと伸びています。かく言う私も静岡にミカン畑を持っているのですが、最近は嫁さんに連れられて通うようになりました。イタリアの真っ赤なオレンジを育てています。そういう農ある暮らしを始めています。
こういう兆しが日本にも出てきているんです。
ちょうど私たちが20年間がんばって京都の街を変えてきたように、もう少しがんばったら、日本の農村が綺麗になっていくという仕組みができるのではと思っています。
だから都市計画とか景観計画という狭い範囲ではなくて、農業政策も環境政策も、観光政策も含めて、農家が従来型の集約型農業から脱するにはどうすれば良いか、どう農村とその住民の価値観を変えられるか。これは大変なことですから、これを考えながら、21世紀の日本の地域のあり方を考えることが、これからのテーマではないかと思います。
■三つの磁石
この流れをどう捉えるか。
三つの磁石
しかし雇用不安定、失業の危険。
これは景観、スローフード、アグリツーリズムを三つの磁石にたとえたものです。
かつて歴史的都心部が次代の産業の揺り篭になったように、世界一美しい農村はどんな未来の生活産業を開くのか?。
イタリアが世界に発信しようという文化、そして文化遺産はどんな方向に人類の文化を開くのか。
イタリアと交流する日本の文化庁はどんな方向を見定めているのだろうか?。
そして、日本の都市と建築はどのように未来の方向を見出そうとしているのか?。
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