54年川崎市生まれ。東京大学工学部都市工学科・同大学院博士課程を経て、同助手、横浜国大助手・講師・助教授、96年東京大学都市工学科助教授、99年から教授、現在に至る。ここ数年の主たる関心は、「まちづくり条例」の策定・運用を通じた持続可能な都市農村の総合的な空間形成、少子高齢化社会対応のまちづくり、など。 | ||
『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』を語る2010年12月、東京大学のコンドルの銅像のそばで本書の狙いをお聞きしました。2000年出版の前著が近代型の都市計画をなんとか立て直そうという姿勢だったのに対し、今回の本は、近代都市計画がいよいよ機能しなくなっている。抜本的に組み替えをしないといけないという姿勢に大きく変わっているという指摘が印象的でした。聞き手:前田裕資(編集部)
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本全体の狙い大方:そもそも日本の都市計画の制度は、元をたどると1890年頃の東京市区改正条例が幹にあって、それから1919年のいわゆる旧法が太い枝になって、それに線引き制度と開発許可制、絶対高さ制限の撤廃・容積率規制の導入と用途地域カテゴリーの拡充、といった枝葉が増えたのが、今の1968年都市計画制度です。 1968年の都市計画法ができて、69年に農振法ができ、それから環境庁や国土庁ができて、国土利用計画法ができ、森林法の大改正などがあって、さらに住環境をもうすこし守ろうということで日影規制ができ、あるいは東京などは北側斜線型の高度地区をつくったりしたのが1974年頃だったわけですね。 ともかく、そうしたことで若い人たちが大都市に流れ込んでくる激流のような60年代、70年代の都市成長を、なんとか受け止めながら、最低限の居住環境や地域サービスを守ろうという仕組みができ、成長と環境のバランスを保つような仕組みが74年ぐらいには完成したと思います。 そうして、その延長線上に、1980年の地区計画制度ができたわけです。 当時、世界的なレベルから見るとやや欠けている面はあったのですが、当時の日本の60年代型の都市計画制度は、一応、ある種バランスがとれていた制度になっていたと思います。 ところが80年代に入って、基本的には内需拡大という大きな声があり、豊かさが実感できないという日本の国民生活があり、ようは都市開発を進めて住宅やオフィスの床を増やせば、それだけ大きな家具を買ったり、電器製品を買ったりして需要が増えるじゃないか、ということになったわけです。今の成長戦略も同じようなことを言っていますが、当時もそういうことが基本にありました。 そこまではそれで良かったのだと思うんですが、都市開発を促進する手段として、安易な、本来の意味を取り違えた「規制緩和」が都市計画や建築規制にも適用されようとした。それに対して再開発地区計画を初めとする、ある特定の計画的開発について規制を緩和する、ようするに特区型のやり方で、「規制緩和」する空間を特定の範囲に封じ込めようという制度対応をしてきたのが当時の都市計画側の考え方だったのですが、一方で、非常に知恵のない、建築基準法の一般規制の緩和が始まるわけです。典型的には斜線制限の緩和とかですが、そういう逆風というのが80年代の後半から始まり、地方都市で言えばモータリゼーションの進展とかリゾート法もあって、大都市でも地方でも、大変な乱開発が起きてくる時代になったわけです。 そういう状況に対して、前に我われが書いた『都市計画の挑戦』という本は、どちらかというと、60年代型の世界共通の都市計画の体制が崩れていくことに対して、歯止めをかけて、なんとか本来の方向に発展させようという方向で、全体が書かれていたように思います。 その後、21世紀に入り、人口減少の時代になってきた。あるいは環境問題、低炭素化の問題も待ったなしになってきた。それから地方都市の状況は、乱開発というよりも、むしろその後遺症と言いますか、非常に疲弊が目立ってきている状況になってきているわけです。 前は逆風で崩れかけている都市計画の体制を、もう一度、本来の方向に発展させようというニュアンスで皆さんは書いていたと思いますし、僕もそうでしたが、今回はそうではなくて、もともと明治時代に端を発する近代型の都市計画の体制が機能しなくなっている。 いよいよ抜本的に組み替えをしないといけない。脱構築しなきゃいけない。そういうことをみんなで考えて、それぞれ大事なところを分担して、各章を書いて一冊の本にしようというのが、今回の『新たな挑戦』という本だというふうに基本的に考えています。 私の章の狙い大方:私はそのなかで、世界共通に必要な、特にサステイナビリティの問題、環境の問題が基本ですが、環境だけに止まらず、社会の公正の問題、経済的な活性化の問題を全部含めてサステイナビリティという大目標がある。さらにそのなかで日本は、世界に先駆けて最大の(高齢者比率の)超高齢社会になりつつある、あるいは人口も減ってきている。持続可能性と超高齢社会の二つの問題にどう対応するかということを考えたときの、都市づくり・まちづくりの仕組みがどうあったらよいのか、ということを考えてみたというのが私の章です。 詳しいことは中を読んで頂ければ分かるんですが、世界共通の仕組みとして、まちづくり、あるいは土地利用については、市街地だけではなくて、その周辺の水、緑、あるいは農地、山林、全部含めた空間を扱おうということが、共通認識になりつつあるわけですが、ただそうは言ってもですね、その空間を管理するのは一番小さな基礎自治体である、コミュニティであるということも、共通の認識になっているのです。 日本でもだんだん制度的な地方分権が進んではいますけれども、政令市などの大都市は別にして、地方の小さな市にいきますと、まだまだ国の都市計画法がそういう小さな自治体の空間計画に対応していないわけですから、法律に従っていただけでは、そういう仕組みがうまくつくれないと。そうすると一番根っ子のところはですね、とくに地方の小さい市、あるいは町を考えると、これからの空間管理の仕組みは、自主条例で組み立てざるをえないだろうと考えているわけです。 しかも現実に2000年の地方分権一括法以来、土地利用の管理、あるいは財産権の制約についても、自主条例で罰則つきの規制をかけてもなんら問題がないという法理も定着してきていますので、基礎にはそれを置いたうえで、世界の標準といってもよいような都市計画、あるいはまちづくり、空間管理計画の仕組みを描いてみたというのが私の章の狙いです。 あとは是非、本を買って読んでください。
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都市計画
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第1編
第2編
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