早稲田大学理工学部・建築学科・教授、早稲田大学都市・地域研究所所長、日本建築学会会長、工学博士・都市計画家。東京圏の高密市街地におけるまちづくりを出発点に,現在は地方の城下町都市などの,都市づくり,まちづくりや計画作成に研究室ぐるみで参加し、理論と手法を研究・提言している。 | ||
『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』を語る2010年10月、大きな模型と立派なカメラがある研究室に佐藤滋さんをお訪ねし『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に書かれた「地域協働の時代の都市計画」についてお話いただきました。建築学会長になられてから、さらにパワーアップされたようです。 聞き手:前田裕資(編集部)
|
●本の狙いは?前田:今度、蓑原先生たちと一緒に『都市計画の新しい挑戦(「都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ」に改称)』という本をお書き頂きます。 そのなかで先生は「まちづくり市民事業」を中心にお書きいただくのですが、それはどういうもので、どんな方に、何を訴えたいのかを、是非、お話いただきたいのですが。 佐藤: 前の本では七つの都市像(注1)が見えてきたということを書いたわけですね。いろいろな努力を世界各国でやっていて、明確な都市像が徐々に見えてきた。それが非常に多様なものだったと言うところまで書いたわけですが、それをどうやって誰が仕掛けるのか、意図的にやっていけるものなのかということが問われていたわけです。 この10年、まあそういうことでみると、専門家がたとえば地域のまちづくりの実績のなかから、(住民と)一緒にですね、事業を組み立てるということができてきた。 前だったら、公共がしかけていました。事業という面からいうと(住民は)受け身だったわけです。だけどもそうではなくて、公共も限界にきて、ちょっと後ろに引き気味になったときに、地権者や街の人たちが、いままでまちづくりを仕掛けてきたものを、どうやって物の世界に事業として作り上げていくのか。 そのときに、前の本で言ったような七つの都市像、特定の都市像を頭に描きながら、専門家と地権者の人たちが進んでいくわけです。そしてその人たちが事業をやるときには、いろんな人を巻き込んで事業化してくるということが見えてきた。だから本物のまちづくりがやっとここから始まるのかな、という感じがしています。 だからそれをまちづくり市民事業と言っている訳ですし、そのときに専門家と街に思いを持っている人たちが組むことによって、そして行政がそれを支援することによって、色々と面白い事業ができてくるし、そういうものを通して、前の本で書いた都市像が明確になっていく。そういうフローだと思います。 そういうことを、この本のなかで私が担当した章では書いたわけです。 ●まちづくり市民事業とは前田:まちづくり市民事業は、かなり簡単なものから、かなり大変そうなものまで幅広くあると思いますが、その典型的な例を教えてください。 佐藤: そうですね。いままで試行錯誤だったから、時間をかけてやりました。 たとえば鶴岡ではマスタープランをみんなでしっかりとつくって、それから歩いて暮らせるまちづくりというなかで、どんな事業ができるかを描いてみた。 それから、そういうものを持って具体的に事業化していくというプロセスを踏んでいったわけです。それは行政も市民も、地権者の人たちも、街の人たちも、もちろん専門家も、共通のイメージをもってつくっていくわけです。いま、最初に想定したものはできてきています。 ちょっと時間はかかっていますが。いま、そういうものがいくつもできてきていますから、そういう実績のなかで方法がある種、定式化されてくる。 定式化されてきたら、それにたいして行政の支援はどのようにしたらよいか、専門家はどのように関わったら良いかということも見えてきたということだと思います。 だから鶴岡のクオレハウス(注2)の事業はすごく時間がかかっていますが、実際に動き出してからは、事業のスキームが見えてくるので、そこに結集してきて、専門家がやることも、また事業体としてどういう形で経営するのかということも、ササさっと動くんですね。そういう時代になってきているんだと思うんです。 この本のなかでも幾つか紹介していますが、昔のようなプロセスではなくて、今、いろんなところにあるまちづくりの実績のもとに組み立てていくと、わりと早く事業が組み上がっていきます。だけどそれはある種の責任とかリスクをともなうものですから、ある意味では実験的なものかもしれないけれども、これが本流になることによって、まちづくりが目ざしたものが実現していくだろうと思っています。 ●専門家の役割は?前田:そういう新しい都市計画というか、まちづくりのなかで専門家の役割はどうお考えですか?。 佐藤: 専門家というのが建築家、建築という職能がありますね。それにまちづくりをずっとやってきた人たちもいます。これまでの専門家は、需要があったときに呼ばれて出ていくというあり方でした。 これからはそうじゃなくて、地域のなかにはこうしたいという要求があるわけです。ある種のコンテクストというのか、そういうものがあって、それをなかなか表に出せないというのが、まちづくりがぶつかっているある種の壁なのです。 専門家はそれを具体的な形にしていくところをやらないと、ほんとに自分がやりたいまちづくりはできないんですよね。 専門家はそこまで広げていかないと、待っていて、なにか事業ができましたというので、建築の設計段階、それから権利変換の段階におもむろに出ていくんではなくて、最初の段階からつくりあげていくということが必要です。そういう役割が、まちづくり、建築の専門家には求められていると思います。 それを仕掛けられる人間がどれだけいるのかというのが、今の現状だと思いますよ。だけど、ほんとにそういうことに取り組めば、それはだんだん身に付いて来る物なので、是非、この本を読んで、具体的に取り組むことによって自分の職能の範囲を広げていってもらいたい。専門家についてはそのように思います。 前田: 有り難うございました。
注1:七つの都市像
注2:鶴岡のクオレハウス
○関連セミナー◇「まちづくり市民事業の進め方」 2011年4月8日夕方、東京・早稲田大学◇「まちづくり市民事業〜新しい公共による地域の社会経済運営の展望」 佐藤滋・久隆浩 2011年4月22日、夕方、京都・学芸出版社 ◇「まちづくり市民事業と専門家の新しい職能」 川原晋、武田重昭、山崎義人 2011年5月17日夕方、京都・学芸出版社(準備中)
|
本書の概要(予定)都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ●予定目次(仮のものです)●
●本書の関連論文基本的な認識を共有できるか6月5日を皮切りに連続で議論する建築学会のシリーズ第一回「建築・社会システムに関するシンポジウム〜市民社会の建築・まちづくり−新たな制度と仕組みの提案−」で蓑原敬さんが話されたメモです。これが第1章の中身に化けると思います。(蓑原)
○2010.09.06 蓑原敬さん京都セミナー ●本書のご注文ご注文は下記からお願い致します。ご注文フォーム佐藤滋さんの本蓑原敬さんの本 |