小浦:
今マネージメントという言葉が出てきましたが、街を消費の対象とするのではなくて、そこに新たに何か付け加えていくことによって街を持続的に活かしていくためには、ある種の公共性が必要であると思います。
そして、そこにはおそらく先ほど蓑原さんが「町人か市民か」と仰ったような、公共性に対する価値感の違い、あるいは取り組み方の違いがあって、それは先ほどの3つの事例にも共通して出てきている課題ではないかと思うのです。
森山:
僕の実感としては、街に対する自覚と責任を持って初めて「住民ではなくて市民である」と胸を張って言えるのだという思いはあります。
実際そういった人達が、ある一定の公共性みたいなものを考えてくっつき始めているわけですから、こういった感覚が本来の「公」でありパブリックと言うべきものなのかなと感じています。
最近我々の研究会でも、いくつかの団体と一緒に活動したり一緒に何かを考えたりといった機会が増えています。こういった動きが日本における「新しい公」のようなものになっていけばと思います。
今日の澤田さんのお話を聞いていても、もともと一つ一つの店は民間企業であり営利企業だと思うのですが、それらが集まって何か地域の「公」みたいなことを考えるようになったときに、少しずつ街が変わっていくのではないかと思っています。
小浦:
その「くっつき始めている」というのには、具体的にはどんな動きがありますか。
森山:
例えば今、船場で活動してらっしゃる他の団体などが集まってせんばGENKIの会という組織が出来上がっています。今日ここに来られた方々にも関わってらっしゃる方は沢山おられると思います。
げんきの会に参加しているそれぞれの団体は掲げる目標があるわけですが、それらが集まったときには地域全体の事を考え、それぞれの団体が相互に応援しあう形で緩やかに繋がっているわけです。
それが、緩やかなパブリックであるという感じを私は受けています。
小浦:
奈良平さんは、そういった「繋がり」のために随分苦労されたようですが、今のお話を聞いていかがですか。
奈良平:
そもそも、自分の範囲でできることはやってしまおうと思うに至ったのは、こういった地域全体のまちづくりを、「公」の一体誰が責任を持って考えるんだろうと思ったからなのです。
まちづくりを担当する行政は、運輸省系と建設省系が統合された国土交通省であるわけですが、現在は地方分権が進んでまいりましたので、制度の骨格部分は国が持っているものの地域整備などはほとんど地方公共団体の手に渡っています。そういうこともあって、私が公を代弁するのはなかなか難しいと正直思っているわけですが、とにかく市町村のまちづくりに果たす役割が大きい。しかし、これがなかなか大きなうねりになり難い理由が、その辺にあることもまた、おそらく事実であろうと思います。
ただ、先ほど申しました「中之島物語」をやる契機となったのは、神戸の事例でした。神戸の場合は上手くいったので、そんな動きが起こるのではないかと考えたからです。
では神戸とどこが違うのかと言いますと、正直今でもよくわからないところがあります。ここに来る新幹線の中で自分なりに色々考えてみたのですが、おそらく神戸の場合は、大丸を中心とした道路の混雑を解消するという目的が、ある意味でシンプルだったのでしょう。しかし中之島の活性化の場合は、「中之島」という言葉を聞いて思い浮かべる内容が各人によって相当多様性があるように、そもそもが調整しにくい多面的な側面があったことが、理由の一つではなかろうかと思います。
神戸市は熱心にやってくれています。それからNPOの方を含めて大きなうねりになった一つの要因として、メーリングリストみたいなのを作って、それがどんどん自己増殖的に発展していったことが挙げられます。
大阪ではどうしてそうならないのかは、私にはよくわかりません。色んな主体が色んな試みをし、基礎的な所では同じような検討をしました。それが大きな動きになっていかない原因はどこにあるのでしょうか。
それから今の時代、行政もなかなかリーダーシップを取りにくいということはあると思います。
いまの官と民の関係の中で、主体は行政ではないんだと自己抑制的に考えている部分がどの行政主体にもあると思います。市当局もおそらく地権者に目を向けていると思います。ただ、これも中之島物語のときに私があれっと思った事の一つなんですが、中之島の地権者には大阪を代表するような企業が沢山あって、それぞれの方々は個人としては一生懸命なのですが、それぞれは別の所にお住まいになっていて、中之島のまちを勤務地として見ている所がありました。
この地区全体を考えるにあたっては、利用者やNPOの方達の意見をよく聞きながらやらなければいけないわけですが、そこの自己増殖的な発展がなかなか見えてこないのが、なかなか上手くいかない原因の一つにあると思いました。
まちづくりで問われる「公」
このページへのご意見はJUDIへ
(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai
学芸出版社ホームページへ