JUDI関西 「イタリア都市とアイデンティティ」 by 井口勝文
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3 都市のアイデンティティは
味わいと風格、 この二つに現れる。

写真4 私がアメリカ村でやった仕事を例にとって話します。

ビックステップという建物です。

アメリカ村というのは若い人がたくさん集まっていますが、 どこに特徴があるかというと、 路地空間があって、 小さな街がいっぱい集まっていて、 雨が降れば雨が降る、 風が吹けば風が吹くと、 こういう街であります。

 つまり、 大きな建物や地下街が集まってできている街というのではなくて、 小さな要素がいっぱい集まってできている街だと言えます。

つまり、 そういうことが、 先ほどの上野さんの話でいうと共有できるテキストということになるのでしょうか、 そういうテキストが割と明確な街であると思います。

この建物はファサードがありません。

建物全体をアメリカ村そのものを立体的につくるという発想でやりました。

つまり、 アメリカ村の共有できるテキストをここにどんどん積み込んでいったらどうなるかということで、 できたのがこの建物だ言えます。

   

 ここで三番目の問題提起になります。

アメリカ村のビッグスッテプで見ましたように、 これはどこにもないものを作ったんじゃなくて、 そこにある確かなものを作った。

そこを一生懸命見て、 そこそのものを作ったということであります。

アメリカ村そのものがいったいどういう味があるのか、 その味わいを私は求めて、 それでそれを具現化してみたのがビッグステップであります。

   

 つまり、 鰻丼の店をやっておって、 メニューがさびしいからざるそばもやろうというようなことじゃないんです。

鰻丼にも実にいろんな味がありまして、 たれの辛いの甘いの、 よく蒸れたのから、 少し固めのと、 いろいろあるわけなんで、 そういう違いを求めていく、 つまり、 味の勝負ということが、 ここではアメリカ村の中でのビッグステップのアイデンティティということです。

この建物は結果的にアメリカ村全体のアイデンティティを高めることになったんじゃないかと思っております。

   

 そこで、 もうひとつ、 味の違いとは別に食物にも偉さの違いとでもいったものがあります。

鰻丼で例をとりましたが、 鰻丼の味をいろいろ、 これはうまいとかまずいとか、 更にわしはこの味は好かんとか、 好きだとか、 いろんなことが言えるわけですが、 味の良し悪しにかかわらず料理の世界でいいますと丼物というのは実はかなり格の低い食べ物であるとされております。

天丼よりもてんぷら定食の方が格が上なんです。

お座敷天ぷらとかいうのになると、 これはむちゃくちゃ高級な店になります。

ところがてんぷら屋さんにいわせると寿司屋の方が格が上で、 寿司屋にいわせると割烹店の方が上で、 割烹店にいわせると懐石の店の方が上だ。

最後はお茶時の仕出屋さんが一番上という、 料理の世界ではっきりした格付けができている。

つまり、 社会的な格付けがなされているということです。

   

 これは都市についても同じことが言える。

これは社会的な格付けというとなかなか都市の場合は当てはまりませんが、 いわゆる風格というような意味での格といえばわかるんじゃないかと思います。

例えばお祭についていいますと、 私は九州の田舎の生まれで村祭をやりますが、 いかに自分の村の祭が伝統があって親しみがもてても、 大阪の天神祭や京都の祇園祭にはかなわないという、 そういういわゆる格というものがあると思います。

つまり、 都市については味わいと風格、 この二つが我々が求めるべきアイデンティティに通じるものじゃないかと思います。

これが三番目の問題提起です。

   

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