JUDI関西 「アイデンティティとまちづくり」
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震災の経験から

大阪大学

小浦久子

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 パネリストの方々からのお話を聞いていて、 私自身、 もう一度考え直さないといけないな、 と思ったことは、 「時間」という軸をどのようにまちの中に取り込んでいくかということです。

長い時間をかけてきた結果として、 現在のまちがあります。

それはまた、 これからもまた長い時間をかけて続いていくものでもある。

今までのパネリストの方々のお話は、 その中での様々な断面を、 いろんな立場で議論したと思うのです。

その時間というものは、 単に流れていくだけではなくて、 その中で生産技術が変わっていったり、 生活の仕方が変わっていったり、 環境をつくっていく条件が変わっていきます。

このような時間の中で、 何が残り、 何が変わりというような所を、 ちょっと考えてみたいなと思いました。

   

ガレキが撤去されると分からなくなった

 私自身は芦屋に住んでいます。

今回の震災でまわりの多くのものがなくなりました。

これは一度鳴海先生にお話ししたことがあるのですが、 まだ瓦礫のあった時は良かった。

良かったというのは変なんですけれど、 瓦礫はこれまでのまちや生活とつながっていて、 まだ覚えてられるのです。

そこに何があったかを。

それが瓦礫がどんどんなくなっていった時、 自分自身はあそこにあったものは知っているはずなのに、 わからない。

なんというか一種記憶が途絶えてしまうような、 そういうことを経験しました。

   

 重村先生もおっしゃってましたが、 意識していないと、 なくなっていくというのを実感しました。

つまりなじんだ環境はほとんど意識していなかったように思うのです。

なくなってしまうと、 取っ掛かりがないものですから、 イメージだけは残るのですが、 何を取っ掛かりに皆で語っていったらよいのかがわからないと、 そういうようなことを非常に感じました。

   

まちの読み取り方、 あるいはつくり方の作法

 それは何かというと、 よみとり方ということです。

阪神間に住んでいる私たちは、 先ほど上野さんもおっしゃったように、 山側、 海側と言います。

北とか南とかはあまり使いません。

あるいは阪急より上とか下とかで、 十分通じるわけです。

そういう地域のよみ方を普通に住んでいる人は普通にしていて、 そのよみ方の中でまちというものが理解されているのですが、 つくり手側はそういうことを全く無視してデザインすることもできるわけです。

   

 山とか海とかというのは、 今まで議論になったように、 ずっと残っている地形です。

今でも山はあります。

海もあります。

でもそれを上と読むか、 海と読むとか、 そういう感覚ですね、 何かそういうものの中に、 重村先生もおっしゃってましたつくり方の作法があるのではないか、 私は住み方の作法ということを言っていますが、 その辺の人の意識の中にあるまちのよみ方みたいなものが、 やはりアイデンティティにとって大事なんじゃないかと思います。

   

 それはどういうことかというと、 今は技術的に何でもできますよね。

地域性に影響されることなく、 どこでも同じようなものをつくれるし、 どのような状況でもたいていのものは何でも、 コストを考えなければ、 ということですが。

でも人は選択をしていると思うのです。

その選択の仕方がアイデンティティに繋がってくるのではないか、 と思うのです。

それは例えば今あるつくり方を変えないということも選択です。

変えるということも選択です。

いろんな要素は変わっていくと思うのですが、 その中でもきっと何か変えていないものがあるのではないでしょうか。

   

 地形すらも今は変えられるわけです。

掘ったり削ったり、 何だって出来るわけです。

それでもやはりしない。

どんなに技術があったとしても、 やはりそこで選択している。

その時の私たちの見方、 選び方が、 結局時間の積み重ねの中でずっと続いているものとして、 アイデンティティとなるのではないか。

   

 今日いろいろな方から住み手の選択とか、 時間のかけ方とか、 価値観の置き方とか、 その何々の仕方という「方」についての意見が、 いっぱい言葉として出てきたと思います。

何かその辺に手がかりがあるのではないかという気がしました。

   

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